1、作品の概要
『ミーナの行進』は、小川洋子の長編小説。
2006年4月に中央公論新社より刊行された。
文庫版で352ページ。
『読売新聞』で、2005年2月12日から同年12月24日にかけて毎週土曜日に連載された。
中1の少女・朋子が、芦屋の従姉妹ミーナの家で過ごしたかけがえのない1年を振り返る。
2、あらすじ
父に先立たれて母と2人暮らしの朋子は、家庭の事情で、芦屋に住む叔母夫婦の家に1年間預けられることになった。
ドイツ人の祖母ローザ、ハンサムで会社の社長の叔父、お酒とタバコが好きな叔母、お手伝いの米田さん、カバのポチ子、ポチ子の世話役の小林さん、そして年下の従姉妹のミーナ。
見たこともないような素敵な食事や、楽しい日々。
かすかな恋心、ミーナとの友情と「光線浴室」での秘密。
豪邸に住む一風変わった一家と過ごした1年は、朋子にとって忘れられない宝物になりました。
3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ
ツィッターでの読了でよく見かけていましたが、あまり前情報なしに図書館で借りて読んでみました。
不穏さや死の影や狂気などのアレな小川洋子さんではなくて、『博士の愛した数式』のようなほっこり系の小川洋子さんでした。
キラキラした優しくどこか切ない2人の少女の成長の物語で、また僕にとって大事な物語がひとつ増えました。
4、感想・書評(ネタバレあり)
朋子の1人称で、1972年の3月から、1973年の3月までの1年間を振り返る物語ですが過ぎ去ったかけがえのない日々を愛おしむような優しくどこか切ない物語でした。
とにかく芦屋の家に住む人たちが一人一人キャラが濃くて、ひっくり返したおもちゃ箱のように印象的なエピソードが満載。
カバまでいるし(笑)
とても読みやすくて、子供にすすめるのにも良い作品だと思いました。
僕は読んでいて、どこか物悲しく切ない感じがしていたのですが、それは描かれているエピソードが既に過去であり、2度と戻ることができない愛しい日々だからなのでしょうか?
中学1年生という多感な時期を、姉妹のようなミーナと過ごしながらたくさんの喜びや悲しみ知って成長していく。
そんなかけがえのない日々もやがては過ぎ去って、そこにあったものも、人々も変化してやがて失われる。
そんなかすかな喪失の悲しみが、物語の根底に通奏低音のように流れているように思いました。
そこにあった日々が幸福で印象深いほど、過ぎ去ったあとの寂しさや、喪失感は大きくなるのでしょうか?
ちょっと後ろ向きな読み方かもしれませんが、何億年も前に死んでしまった星々の美しい光を地上から眺めているような、読みすすめていてそんな感じを受けました。
でもそんなふうに通り過ぎてしまった日々が、思い出が、朋子の心を温めてかけがえのない灯火となってくれている。
今でも宝物にしているマッチ箱と小さな物語、図書館の貸出カード。
寒い夜でも冷え切った心を温めてくれる暖かい暖炉の火のような宝物。
そうするだけで自分が、過去の時間によって守られていると、感じることができる。
過去の時間によって守られている、ってとても素敵な表現ですね。
形のない思い出が人の心にどれだけ大切なものなのかが、窺い知れるような文章だと思います。
終わり方もとても良かったです。
芦屋の家はもうなくなっていることは描かれていたので、もしかして物語の最後にカタストロフィが来るのでは・・・と、ガクガクしていましたが、とても感動的なエピローグで心が物語の世界に持っていかれる感じがしました。
2人の少女は成長していきますが、特に病弱でカバのポチ子に乗って行進していたミーナは世界に飛び出していきます。
ポチ子に乗ってしか学校へ行けなかった少女が、今では私の知らない遠い場所を行進している。
万物は流転し、生命は終わって始まり、人は変わっていくけど、共有した思い出は心の中で生き続けてかけがえのないない宝石のようにキラキラ輝いている。
そんな素敵な物語でした。
5、終わりに
ところどころに挿入される、寺田順三さんの挿絵も良かったです。
カラフルでポップで、物語に彩りを添えていましたね。
原画展なんかも開催されていたみたいです。
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