1、作品の概要
『あとは切手を、一枚貼るだけ』は小川洋子・堀江敏幸共著の全14通からからなる往復書簡の小説。
2019年に単行本が刊行され、2022年6月に文庫本が刊行された。
『アンデル ちいさな文芸誌』2017年7月号~2018年8月号に掲載された。
2、あらすじ
過去に愛を交わしあった男女の全14通の往復書簡。
「私」と「ぼく」はお互いの近況を報告し、「アンネの日記」や5つ子、渡り鳥の話をしながらためらいがちに過去の日々の出来事を語り合う。
そうした迂遠なやり取りの末に辿り着く過去の哀しい記憶。
赤い水着、海辺、生まれなかった子供、解かれて燃やされた産着・・・。
難病で体が満足に動かない「私」と、盲目の「ぼく」は、かすかにとどくお互いの声を手繰り寄せる。
3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ
ブログで本猿さんが紹介されていて、興味を惹かれたので読んでみました。
そして、ツィッターでも読まれている方がたくさんいらっしゃいました。
小川洋子さんは好きですが、堀江敏幸さんは読んだことがなくて、往復書簡という形態も相まって興味津々でした。
なんと、この物語は小川洋子さんと堀江敏幸さんが打ち合わせすることなく本当に手紙をやり取りするように書いた作品らしいですね!!
だとしたら、とんでもない即興力とイマジネーションをお持ちですね・・・。
物語の世界観は乱れることなく統一されていて、秘密を抱えながら進行していきます。
とても幻想的な世界観で、語られる言葉と記憶が美しい作品です。
4、感想・書評(ネタバレかな?)
最後まで読んでこれはどこからどこまでが、「ほんとうにあったこと」なんだろうか?
って、?がたくさん飛ぶような不思議な物語でした。
とてもいい意味で。
2人の記憶と感性が紡ぎ出す幻想的なエピソードの数々。
まず日本であったことなのかどうか?
そもそもこの世界の出来事なのかどうか?
小川洋子さんの作品はこのあたりがいつも絶妙で日常や現実があまり語られずにちょっと異世界感がありつつも、あまり現実から遊離されすぎずにギリギリで地面に接地しているような・・・。
そんな絶妙な浮遊感が物語の中に漂っているようにいつも思うのです。
そんな独特の世界観を持つ小川洋子さんの物語の世界観に全く違和感なくアジャストしている堀江敏幸さんも興味深い作家ですね。
彼の作品は未読ですが、読んでみたくなりました。
小川洋子さんのサーブから始まるこの往復書簡ですが、忖度なしに初っ端からフルスピードで飛ばす小川洋子さんに巧みにレシーヴする堀江敏幸さんの図が浮かんできます。
いきなり「ずっとまぶたを閉じていることに決めました」的な文章で始まるこの作品の冒頭ですが、それ以降も直球小川ワールドのサーブがビシビシ飛んできます。
まさに物語の千本ノック状態。
しかし、ことごとく拾って違和感なくそれでいて奥深い物語を往復書簡という形で成立させている堀江敏幸さんはすごい作家さんだなと思いました。
ちょっと話はズレましたが、そもそもこの2人が生きている人間なのか?
それとも空想の物語の産物なのか?
空想のお友達に当てたアンネの日記が何度も引用されているのも何かのメタファーであるかのようにも感じました。
「ぼく」が海の事故で死んでしまった姪っ子と一緒に生活していることを考えても、もしかしたら「ぼく」はすでに亡くなっていて、現世にいる「私」と手紙のやり取りをしているのかな?とも思えました。
「私」はおそらくALS等の神経系の難病が進行した状態で、自発呼吸もままならない状態。
旅立ち=死は近い状態です。
「不格好に羽ばたいた」=仮死状態のような状態で、死後の世界にいた「ぼく」が「私」の存在を一瞬感じることができたのもそんな理由からだったのでしょうか?
まぁ、ミステリー小説ではないですし、最後まで明確な答えは提示されませんしモヤっとした感じで淡々と終わっていきます。
しかし、「私」の生の終わりにまた来世でのめぐり逢いを、蝶と亀の話で語られたのはグッときました。
2人が直接出会って大きく物語が動くことはありませんが、少しずつ2人でパズルのピースを埋めながら共同作業をしていくようなそんな慎ましく、美しい物語であったかと思います。
パズルのピースは埋まらないまま終わっていく物語。
しかし、垣間見える景色はとても美しく絵画的でした。
5、終わりに
表紙の木彫りのオブジェは大竹利絵子さんの『DANCE』という作品みたいです。
飛び立つ鳥を抱擁する少女。
どこか祈りを感じさせるような。
どこかこの作品にリンクするようなオブジェでジャケットですね。
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