ヒロの本棚

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【本】西 加奈子『ふくわらい』~それを恋というのなら、こんなに美しい感情はない~

1、作品の概要

 

『ふくわらい』は、西加奈子の長編小説。

2012年に朝日新聞出版より刊行された。

第1回河合隼雄物語賞受賞、「キノベス!2013」1位。

文庫本で294ページ。

特異な環境で育ち、愛も友情も知らずに育った編集者の鳴木戸 定(なるきど さだ)が、彼女なりに世界を愛し始めるまでの物語。

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2、あらすじ

 

鳴木戸 定は、感情の表出があまり見られない一風変わった女性で、幼少の頃に熱中した福笑いが唯一心動かされることで、大人になってからも、空想の中で他人の顔を福笑いのように解体して楽しんでいた。

母親の多恵からは深い愛情を受けて育つが、病弱な母は早逝し、冒険紀行家の父について世界中を回る旅をしていた定の感覚は周りの一般的な日本人とは違ったものになってしまう。

特に人間の死肉を食べた経験は周囲の人間を定から遠ざけていた。

編集者としては敏腕で、職場の評価も高かった定は職場でできた初めての友人の小暮しずくや、自分以上に不器用に生きて剥き出しの言葉で語るレスラー守口廃尊、定に一目惚れし執拗に求愛する盲目の男性・武智次郎と出会い、少しずつ変化していく。

 

 

 

 

3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ

 

『ふくわらい』は、7年前に文庫化された時に読んだんだったと思います。

西加奈子の作品を読み始めたのはたしか『きいろいゾウ』からだったと思いますが、『サラバ!』で涅槃の彼方までぶっ飛ばされたぐらいの時に、この『ふくわらい』も読みました。

当時は正直、西加奈子が何を書きたいのかよく理解できていなかったけど、何か形容し難いような感情が心にグサグサと突き刺さったことを覚えています。

別に言語化しなくていいんだと思いますが、その独特の鋭利な感情の感触がとても印象的でした。

今回読み返して、改めて本当に魂の深いところまで訴えかけてくる「声なき叫び」のような痛切な物語でした。

 

 

 

4、感想・書評

 

西加奈子の作品って、とてもエモーショナルで剥き出しの感情がやたらめったら心にぐさぐさと突き刺さります。

とても好きな作家の一人ですが、彼女のように感情に、心に直接訴えかけてくるような「熱い」作家は他にいません。

唯一無二の激情型の作家さんだと思います。

 

とても感情的で情熱的な文章なのですが、それでいて作品の根底に流れているのは人間への深い愛情。

特に生きにくさを抱えていて悩み苦しんでいる人達へのとてもとても優しい眼差しだと思います。

いや、もうこんだけ書いてて泣きそうになってくる。

なんだろうこの感じ?

なんか菩薩かっ?ってなぐらいの包容力で魂や存在そのものさせ慰撫されているように思えてくるんです。

 

そんな西加奈子の優しさがたくさんの人たちの人生へと降り注いでいるのが今作『ふくわらい』ですし、この国に生きていく上での「あたりまえ」や「フツー」とは違った何かを抱えた人たちの生きにくさに光を当てながら、「そのままでいいんだよっ!!」って言ってくれているように思います。

鳴木戸定は名前からすでにマルキ・ド・サドを模していてとてもユニークで普通じゃなくて、父親との海外の旅で、完全に日本の常識から逸脱した存在になっています。

 

では、定の変化はそんな「逸脱から日本的な常識への回帰」なのか?っていうとそれも違う気がしていて、西加奈子は定のユニークでオリジナルなところを肯定して愛しつつも、彼女が友情や愛情を彼女のペースで知っていき、世界の全てを光の下で味わうことができるようになるその過程を描いたのではないかと思っています。

定はもともとゆっくりペースでひとつひとつ確かめながら自分の内に取り入れていっていたのではないかと思っていて、だから小暮しずくとお友達になるのにも時間がかかって、守口や武智次郎との関わりの中で愛とは何かを知るのにも定なりの時間が必要だったのだと思います。

 

大器晩成。

なんて言葉もありますが。

何かの概念や言葉を自分の中に落とし込んで咀嚼するのに時間がかかるタイプの人もいるのだと思います。

生育環境が普通と違っていたらなおのこと。

でも、それは悪いことなのでしょうか?

表面だけさらって理解できている感じを装って、かえって本質から離れていってしまっている現代の日本人を風刺しているようにも思います。

 

定の稚拙さを笑う誰かは。

本当の意味での友情や愛情を。

理解していると、胸を張って言えるのでしょうか?

 

定が手に入れた宝石のような純粋な感情の結晶。

始まったばかりの世界で、生まれたままの姿で、世界への「I LOVE YOU」を叫んだ彼女の姿はまばゆく輝いていたのでしょう。

 定は、世界に恋していた。

 目に入るもの、耳に飛び込んでくるもの、唇を撫でるもの、すべてが眩しく、そして、くすぐったかった。今定は、世界を、これ以上ないほど、クリアに見ていた。定と世界の間には、お互いを隔てるものは何もなく、そしてそのことがまた、定を、くぐったい思いにさせるのだった。それを恋というのなら、こんなに美しい感情はない、と、定は思った。

 

 

5、終わりに

 

感覚的な感想の書き方になりましたが、「考えるな!!感じろ!!」との教えに従って書いてみました。

この物語はどくどくと脈打ちながら生きている感じがとてもしました。

この世界に散らばっているたくさんの要素を、何度も何度も組み合わせて新しい意味を作り出すそんな「ふくわらい」

そうして時間をかけて作り出した彼女だけの世界。

この物語は世界に高らかに産声を上げた2度目の誕生。

自我の誕生を高らかに祝う物語であったのだと思います。

 

 

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