ヒロの本棚

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【本】江國香織『金平糖の降るところ』~愛ではないその何かが、愛より劣るものだと誰に言えるだろう~

1、作品の概要

 

金平糖の降るところ』は、江國香織の長編小説。

きらら2009年5月号~2011年5月号に連載され、2011年に刊行された。

アルゼンチンで生まれた日本人の姉妹の奔放な恋愛と人生を描いた。

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2、あらすじ

 

佐和子は、都内でステーキ屋やバーなどの飲食店を営む達哉と平穏な結婚生活を送っていた。

アルゼンチンで生まれた彼女はかの国にいる妹ミカエラと親密なやり取りを続けていた。

お互いの男の愛を試すように誘惑し合っていた彼女たちだったが、佐和子が留学先で出会った達哉だけは共有することがなかった。

しかし、佐和子の語学教室の元生徒である田渕が彼女と再会してから運命が数人の人生を翻弄し始める。

日本、ブエノスアイレス

地球の裏側の2つの都市を巡り物語は加速し始める。

 

 

 

3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ

 

ツィッターで懇意にして下さいっている方が読まれていて、まだ読んでない江國香織の作品だったので読んでみました。

図書館でGETしましたが、なかなかに分厚い。

しかし、何だかするする読めてしまう江國マジック。

奔放な姉妹の物語はとても江國さんらしく、且ついつも以上に奔放な女性たちの自由な姿を楽しめました。

 

 

 

4、感想・書評(ネタバレあり)

 

まずアルゼンチンが舞台ってところが面白いですね~。

冷静と情熱のあいだ』のイタリアや、『彼女たちの場合は』でのアメリカっていうポピュラーな国ではなくてアルゼンチン。

アルゼンチンって、マラドーナやメッシのサッカーや、広大な草原のパンパ。

それぐらいのイメージしかないです。

 

江國香織が『金平糖の降るところ』を書いたのは、このアルゼンチンという場所が出発点だったらしいですね。

首都のブエノスアイレスは洗練された大人っぽい街で、東京にも通ずる大都市特有の何かを感じ取ったとインタビューで答えてます。

えっ、首都とは言えアルゼンチンの都市が東京の街と同じような、近いものを感じるなんて・・・。

こればかりは行った人にしかわからないのかもしれませんが、アルゼンチンのブエノスアイレスという街に強くインスパイアされたみたいですね。

www1.e-hon.ne.jp

 

アルゼンチンで生まれ育ったカリーナ(佐和子)とミカエラは、子供の頃に埋めた金平糖が地球の裏側の日本で夜空を照らす星になる空想をします。

まだ見ぬ家族のルーツの国である日本。

距離的には遠いけど、とても身近で親しみがある国。

江國さんらしいリリカルな方法で、彼女自身が感じたブエノスアイレスと東京の親和性をとても自然に物語に落とし込んでいるように思います。

 

物語は、東京とブエノスアイレスという2つの都市を舞台に、佐和子、ミカエラ、達哉、アジェレンの4人の視点から語られています。

そして、物語の中核をなしているのが佐和子とミカエラのとても不思議な姉妹の結びつき。

2人は子供の頃から共犯者のようであり、お互いの一番の理解者であり、達哉という一人の日本人の男を愛し、先に達哉と日本で知り合って彼を愛していてた佐和子はミカエラとの共有を拒みます。

まだ20代そこそこで若かった3人のいわゆる三角関係。

正直この話をメインにしたほうがシンプルな話になったような気がしますが、そこから20年に渡る3人の関係性の変化を描いた点が『金平糖の降るところ』の面白いところだと思います。

 

東京とアルゼンチンで離れたことによって変化がなかった3人の関係性ですが、佐和子は達哉への愛情の終わりを感じて田渕とアルゼンチンまで愛の逃避行をしたことによって大きく動き出します。

達哉は成功者として色んな女性と浮名を流していましたが、佐和子が達哉に対して愛情を感じなくなったのはそんなことではなくて、田渕を深く愛してしまったからでもなくて、達哉が11年前にアルゼンチンのパンパでトラックの上でミカエラと交わったことに原因があったのかもしれないと感じました。

初めて姉妹で「共有」していなかった達哉。

特別だった彼との愛情はそれから別の何かに時間をかけて変容してしまったのではないでしょうか?

 

だとすると、ミカエラもとんでもないことしますし、達哉に関しては自業自得な気もしますね(笑)

結婚前に挨拶に来た妻が生まれた国で、妹と性交してしまうわけですから。

しかし、達哉は最初から最後まで、この姉妹に振り回されっぱなしですね。

この物語でメインに描かれているのは佐和子とミカエラの姉妹の不思議な繋がりだと思いますし離れていても、お互いのことを理解し合って通じ合えているような気がします。

最終的には佐和子が別れた達哉をミカエラがもらうみたいな、なんかいらなくなった古いテディベアを妹にあげる姉みたいなイメージが浮かんできました。

実際にミカエラがーいいのね?いらないのね?ーと、心の中で佐和子に語りかけ、佐和子は達哉が用意した東京行きの飛行機のチケットをミカエラに譲る太っ腹ぶりを見せます。

この姉妹にかかっては東京で4店の飲食店を経営するやり手の経営者であり、イケメンの達哉も、古ぼけたテディベアに見えてくるようですね(^_^;)

 

金平糖の降るところ』は恋愛小説でしょうか?

多くの場面で恋愛について語られていて、かつて達哉を愛していた佐和子は田渕に心を動かされて、達哉は佐和子を愛し、ミカエラは達哉を愛し、アジェレンはファクンドを愛します。

ただ歳を経るとそう簡単に純粋に他者を愛することはできなくなってしまうような気がしますし、そこにはある種の諦観や打算のようなものが混じってくるのかもしれません。

自分と達哉のあいだにあるものが愛でなくても、それならそれで構わないとミカエラは思う。愛ではないその何かが、愛より劣るものだと誰に言えるだろう。

カエラはそう達哉との関係について考えます。

この小説は恋愛小説のようで、ある意味では恋愛を否定していると言ったら言い過ぎでしょうか?

アジェレンがファクンドを想う気持ちはとてもイノセントかもしれませんが、そこに父親の不在が関係していないとは言い切れないし、そういった愛以外の要素を無自覚に突き進めるのが若さで、例えば40代を超えると自分の中にある愛以外の感情を解体せざるを得ないし、そうなると向う見ずな恋愛に自らの全てを注ぎ込むようなことはできないようにも思えてきます。

 

僕はそういった江國さんの恋愛観が複雑にアッセンブラージュされて熟成されたワインのように感じますし、熟成されて深みが増した物語の世界に強く引き込まれるのです。

 

 

 

5、終わりに

 

姉妹というのは僕にとっては不思議な関係で、自分の兄弟が長男、長女、次男で、自分の子供たちが長男、次男なので身近に姉妹という関係性が存在しないのです。

まぁ、存在したとしても佐和子とミカエラみたいな姉妹はそうはいないと思いますが(笑)

とても、魅力的で奔放で自分の道を突き進むようなそんな姉妹は。

佐和子がファクンドとの関係に悩むアジェレンに送った言葉が姉妹の生き方を象徴していて、アジェレンにもその勇気と自由が継承されているように思えて面白かったです。

「欲しければ奪いなさい。ミカエラも、ほんとうはそう思っているはずよ」

 

 

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