1、作品の概要
1996年に刊行された江國香織5作目の長編小説。
1998年に原田知世主演で映画化された。
8年同棲していた彼から別れを切り出された梨果が、彼が恋している女性・華子と一緒に住み始めて次第に彼女に惹かれていく奇妙な三角関係を描いた小説。
2、あらすじ
梨果は8年同棲していた健吾から、ある日突然好きな女性ができたと別れを告げられる。
茫然自失の梨果のもとに健吾が好きな女性・華子が訪ねてきて同棲生活が始まる。
あまりに自由奔放で子供のような華子に戸惑う梨果だったが次第に彼女との生活に馴染んで受け入れるようになっていく。
一方で健吾に対する愛情は消えてしまうことはなく、気持ちは揺れ動いていた。
とても不思議で、奇妙な三角関係。
3人の行く先は・・・。
3、この作品に対する思い入れ
『きらきらひかる』の次に読んだ江國香織の作品で、ありふれた恋愛小説とは一風変わったその作品の世界観にどっぷりハマってしまいました。
何度も再読したとても好きな作品です。
江國香織の作品は、とても透明感がある文体で瑞々しく洗練されている物語が描かれていますが、反面とても危険な狂気や虚無が根本で描かれていたりしてドキッとさせられます。
この作品もそういった江國香織の作品の魅力が満ち溢れていて、可愛い顔したウサギのぬいぐるみが導いた先がふかいふかい落とし穴だったみたいな感じがあると思います。
映画も観ましたが、なかなか良かったですね。
何故かコロッケを買ってる浅野忠信のシーンが一番印象的なのですが(笑)
華子役の菅野美穂がめっちゃイメージ通りでドハマりだったと思います。
4、感想・書評(ネタバレありまくるよ?)
①世にも奇妙な三角関係
本当に奇妙で繊細な物語だと思います。
恋人を奪った恋敵と女2人で同居し始めて、あまつさえその恋敵にシンパシーを感じ始めるなんて。
市井の恋愛小説とは一線を画していると思います。
そこにある感情は赤・青・黄みたいな原色の色ではなくて滲んだパステルカラーのような説明がつかない淡くぼやけた感情だったでしょう。
梨果は混乱しながらも華子の存在を受け入れ始めて、最後にはあれだけ愛してやまなかった健吾より華子を大事な存在と認識するようになります。
華子を通して、健吾という存在から、その愛の呪縛から解き放たれたようにも思えますし、そもそも健吾を失った原因が華子の存在にあることを考えると複雑です。
華子の吸引力は強烈で、出会った人たち(というか男たち)は軒並み華子を愛すようになっていきます。
勝也さん、健吾、直人くんの父親。
そして、その他のたくさんの男たちの影がちらつきます。
でも華子自身はそんな男たちの恋慕にはどこふく風で自分を貫いています。
②華子が感じていたこと
彼女が結局真剣に愛していたのは血の繋がっていた弟・惣一だけで。
決して結ばれない相手にどうしようもないくらいに惹かれてしまう。
つまり華子にとって愛とは絶望で、ずっと昔から成就しないと決められている宿業のようなものだったのかもしれません。
母親と疎遠だった理由のひとつも惣一との愛にあったのでしょうか?
華子がある意味で情緒的に空っぽな部分を抱えていたのは彼女が抱える、何層もの透明な膜のような絶望だったのでしょう。
あまりにも繊細に包まれていて、無色透明で誰も気づかないけど彼女の魂はそんな行き場のない絶望に満たされていて、逃れようなく自死へと導いていったのではないでしょうか?
惣一がアメリカに旅立った時に、彼女は命を絶つことを決めていたのでしょう。
華子は梨果のことをどう思っていたのでしょうか?
自分と正反対で燃えるような愛情を別れてもなお健吾に注いでいて、とっても生きている感じがする女性。
引っ込み思案で、とても不自由な生き方をしていて、でも誠実な人。
華子は梨果のことをまるで姉のように思ったのかもしれませんし、彼女との時間・生活を楽しんだのでしょう。
たぶん華子は同性から嫌われるタイプで、それまで同性の友達ができたこともほとんどなかったではないでしょうか?
もしかしたら初めて出来た女友達で、かつ姉のような存在の梨果。
でも、華子自身が持つ絶望や虚無を分かち合うことはできない。
それは誰にも触れさせたくない部分で、自分だけの絶望と痛み。
透明になるまで傷んでもう涙もでなくて、この世界に別れを告げようとぼんやりと考えている。
湘南の別荘に梨果と2人で行った後に自ら命を絶った華子は、最後にとても親密な感情を抱いている梨果に見送って欲しかったのかもしれません。
おそらく自分が生まれ育った家でたった1人で死ぬことは寂しすぎるから。
最後まで華子には謎が多くて。
例えば中島さんがどういう関係の人(母親の再婚相手とか?)なのかとか。
わからないことが多いけど。
梨香の視点から描かれる華子はとても自由でしなやかでありのままでした。
気高い野良猫みたいな華子。
梨果は自分に惹かれる男性をダメにしていっているようにも見えますが、それはある種の自分の人生に対する復讐のようにも感じました。
あるいは運命への復讐。
空っぽで絶望している自分に無遠慮に入り込んでくる男たち。
この身体が欲しければくれてあげる。
でも、魂も愛情もここにはないから。
もう捧げているから私は空っぽな虚ろな軀。
そんなふうに思っていたように僕には感じられました。
③梨果が通り抜けたもの
梨果は健吾を失ってもなお、彼に執着し続けて彼との思い出の中に生きて、どんな小さな彼の欠片にもすがりついてしまいます。
とても限定的な生き方。
8年間彼だけを愛し続けた日々。
華子と同棲することを決めたのも、最初は少しでも健吾と繋がっていたいからでした。
でも、華子の自然で誰にもへつらわない自由な生き方を目の当たりにして、彼女の存在そのものに惹かれていきます。
梨果はとても素直で真っ直ぐな人だったのでしょう。
健吾のことが全てだった梨果は華子との交流を通して少しずつ変化していきます。
飼い猫だった梨果が、野良猫の華子にエサの取り方を教えられるように。
知らず知らずのうちに華子に影響を受けて、梨果は少しずつ逞しく大胆に変わっていきます。
健吾は仕事も辞めてどんどんダメになっていきますが、梨果はしなやかに変化していき
窓際の陽だまりでまどろむ日々から、野原を駆け巡って自由で孤独に生きる日々を選ぼうと変わっていったのではないでしょうか?
ラストシーンは梨果にとってどこかイニシエーションのような。
健吾との日々を超えて、彼女らしく強く生きていく、そんな魂の叫び、決意表明のように感じました。
5、終わりに
久しぶりに再読しましたが、新たな発見もあり、改めて心揺さぶられる物語でした。
とにかく華子のキャラクターが独特で良いですね。
そしてそんな天真爛漫で、奔放な華子が抱えていたもの。
彼女を死に誘ったものはどういったものだったのか。
たくさんの空白を残して彼女はいなくなってしまいましたが、梨果の目線で語られる彼女の姿はとても印象的で魅力的でした。
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