1、作品の概要
『赤い長靴』は、江國香織の連作短編小説集。
2005年に刊行された。
14編。
文庫本で253ページ。
結婚して10年になる夫婦の日常を描いた。
2、あらすじ
結婚して10年。
子供のいない日和子と逍三の夫婦は、傍目には平穏な日々を送っていた。
無口できちんと会話をしてくれたい逍三に対して、ストレートに感情を伝えられない日和子。
すれ違い続ける夫婦の間に流れる冷たい空気、相反して感じる穏やかな愛情。
夫婦の出来事を記した14の物語。
3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ
2008年に文庫本が刊行されたタイミングで買って読みましたが、すっかり内容を忘れていて、Xでフォローさせて頂いている方の読了ポストをみて読んでみました。
夫婦の穏やかだけど、悲しくてそれでいて少し幸福な時間。
そんな複雑な情景が、江國香織の繊細な心理描写で描かれていて胸に突き刺さるようでした。
4、感想
結婚して10年で子供のいない夫婦、という設定が絶妙だなと思いました。
恋愛感情も薄れて、日常の繰り返しになっていく。
子供がいないことで、夫婦のコミュニケーションだけになって、より綻びが感じやすくなる。
これで子供がいたらコミュニケーションが少なくても少しは紛れるんでしょうけど、2人暮らしだと常にお互いが向き合うようになるのでストレスも大きくなりそうですね。
ただ子供が独り立ちすると、いずれは夫婦2人になるので僕も身につまされながら
読みました(;^ω^)
逍三はとにかく日和子の話を聞かずに、マイペースに生活しています。
いや、これはちょっとアカンやろってなぐらいのダメ夫ぶりで、何度も空気が凍り付きますが、全く気付いていない。
日和子もそういった時に直情的に怒るのでなくて、くすくすと笑ったりするので、一見なごやかに描かれていたりする夫婦の日常がとっても怖い感じに描写されています。
江國さんこういう感じの怖さを書くのが上手ですね。
すごく綺麗で和やかな日常なんだけど、実は薄氷の上を歩いているようなギリギリの緊迫感が背景に感じられます。
このアンビバレンツが緩い日常を描いている14の物語に独特の緊迫感と怖さを与えているように思いました。
逍三の「逍(しょう)」の字はわりと珍しい感じで、「さまよう」という読み方もするみたいですね。
「逍遥」は「気ままに歩き回る」という意味で「逍」の字はなんとなく江國さんが意図的に使った感じだったのかなとも思いました。
逍三はなんとなく魂がさまよっている感じの印象なので。
日和子の「日和」は「物事のなりゆき、形勢」などの意味があり、こちらもどことなく意味深ですね。
14編の中に逍三の視点で描かれている作品が2編あって、同じ場面を夫婦それぞれの視点で描いていたりして興味深かったです。
逍三は家庭だけではなく、いつも自分の殻に閉じこもりがちで、外界との間に「膜」と張っているような人間だということも描写されていて、実は似たもの夫婦なのかなとも感じられました。
夫婦の関係性が危うい場面もあり、ディスコミュニケーションの連続なのですが、それでも日和子は逍三が不在の時にいとおしく感じたりします。
それはもう恋愛ではないけど、闇夜の航海での灯台の光のような、お互いを導く道標のような存在なのかもしれませんね。
5、終わりに
ドラマチックな出来事はなく淡々と夫婦の日常を描き続けた連作短編小説でしたが、
心の機微を描写するのが上手な江國さんらしい作品だったと思います。
だいぶ心に突き刺さるような描写が多数ありました。
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