ヒロの本棚

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【本】江國香織『流しのしたの骨』~複雑怪奇な森のような、家族のできごと~

1、作品の概要

 

『流しのしたの骨』は、1996年に刊行された江國香織の4作目の長編小説。

文庫本で298ページ。

風変わりの6人家族の日常を描いた。

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2、あらすじ

 

19歳のこと子は、高校を卒業したあと就職も進学もせずに悠々自適の毎日を過ごしていた。

クリーニング屋の娘にダブルデートに誘われて深町直人と付き合うようになり、2人は少しずつ距離を縮めていく。

こと子は4人兄弟で、結婚して家を出ているおっとりした長女のそよちゃん、エキセントリックで生真面目な次女のしま子ちゃん、長男で一番落ち着いている末っ子の律といつも一緒だった。

厳しいけど家族思いの父と、どこか世間ずれしているけど素敵な母とで独自のルールが宮坂家。

風変わりな一家に起こる日常の出来事の数々・・・。

 

 

 

3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ

 

江國香織は『きらきらひかる』を大学1年生の頃(もう25年前になる)に読んでから、大好きな作家の1人で、『落下する夕方』『ホリーガーデン』『なつのひかり』など読んでからこの『流しのしたの骨』を読んだんだったと思います。

『抱擁、あるいはライスには塩を』でも家族のことが描かれ、クロニクル的に視点を入れ替えながらよりスケールが大きく描かれていますが、『流しのしたの骨』はもっとささやかな物語で、他人の家庭事情を垣間見ていてるような気分になります。

初期に書かれたこの作品の奇妙であたたかな家族の物語が僕はとても好きです。

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4、感想・書評(ネタバレあり)

 

江國香織の小説では一風変わった家族がよく描かれますが、一番初めに家族について、その閉鎖性と独自性について描かれた小説はこの『流しのしたの骨』だったように思います。

江國香織自身があとがきで書いているように、よその家族ってたとえ「お隣でもよそのうちは外国より遠い」のです。

子供のころよくいとこや、親戚のうちに泊まりに行った時なんか自分の家との違いに驚いたこともたくさんありました。

泊まりに行くと、食生活や、生活のリズム、その家庭独自のルールなんかが垣間見えてより深く自分の家族との違いを知ることになると思います。

 

それとやはり結婚すると、お互いの家の常識の違いなんかが歴然としてカルチャーショックの連続だったりしますね。

SMAPの『セロリ』で「育ってきた環境が違うから~♪」なんて歌っていますが、そんな別々の環境で育ってきた2人が新しい家庭を築いて、新しいミックスカルチャーを築いていくのですから家族ってとっても不思議だし、なんだか面白いように思えてきます。

ヒロ家もわりと変わってるように思いますね。

 

宮坂家もとっても独特のルールを持った一家で、すごく連帯感があって仲良し家族なんですけど、外から来た人はちょっと入りにくいだろうなって思っちゃいます。

そういう意味でそよちゃんと(お互い半殺しになって)離婚した津下さんは被害者のようにも思えてきます。

反面、深町直人はこと子と結婚しても彼女の家族とうまくやれそうかもっていう包容力と鷹揚さがあるように思います。

律が深町直人と初対面で、彼が頼んだゼリーをつついたのはその現れかもしれないですね。

 

一風変わった家族の小説。

それはわかるのですが、なぜ4人の子供たちがある程度大きくなったあとの話だろうと個人的には気になりました。

幸せな子供時代を描けば何の毒もなく、親密な家族の話を描けたように思いますが、敢えて「その後」を描くことで、外の社会との摩擦や、家族の閉鎖性なんかも表現したように僕には思えます。

美味しい料理にひとつまみのスパイスが必要なように、平穏で暖かな物語に少しの狂気が含まれている。

そんなふうに感じているのは僕だけかもしれませんが、そういう江國香織特有のアンバランスがたまらなく好きだったりします。

部屋のなかは時間がとまったようになるけれど、そよちゃんとしま子ちゃんのまわりには、それぞれほんの少し違う気流が流れているような気がする。そりゃあ四人でカルタなんかしていると、子供の頃とそっくりだけど、、でも、まるっきりおなじというわけじゃないのだ。

 

たくさんの「Family Affair」を描いた『流しのしたの骨』は、家族特有のゆるやかな空気の中でちょっとしたできごとが起こります。

スライ&ザ・ファミリー・ストーンの「Family Affair」を思い出しました。

アルバム『暴動』に収録されているめちゃくちゃ好きな曲です。

同じタイトルで村上春樹も短編を書いてますね。


www.youtube.com

 

家族も最初から家族なわけじゃなくて、他人同士が結婚して、受胎して繁殖して(もちろん場合によっては二人だけで)、家族になっていく。

こと子がいう「すーん、と、心臓が抜け落ちてしまった感じ」になった時に、そんな心細さ、頼りなさを打ち消してくれるような緩やかであたたかな共同体が家族なのかもしれませんね。

 

 

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5、終わりに

 

It's a family affair~♪な感じの『流しのしたの骨』でしたが、ただの家族の話というにはエッジが効いていて、そこはやはり江國香織だなという感じがしました。

何かどの作品の登場人物にもある種の「自由さ」を感じますが、宮坂家もそれぞれタイプの違う自由人が6人集結して暮らしている感じがおもしろかったです。

たまたま血が繋がっているシェアハウスみたいな感じの。

そういうちょっとズレた普通じゃない感じがとても好きです。

 

 

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