1、作品の概要
『なつのひかり』は江國香織の書下ろし長編小説。
1995年に刊行された。
文庫で336ページ。
わたしと兄をめぐる、ひと夏の冒険ファンタジー。
2、あらすじ
ある夏の朝、逃げたやどかりを探しに、マンションの隣に住む男の子・薫平が訪ねてきた。
20歳の栞は、やどかりを探しながら、兄・幸裕をめぐる奇妙な物語に巻き込まれていく。
書置きを残していなくなった兄の妻・遥子さん、愛人の順子さん、裕幸(?)の妻を名乗るめぐみ・・・。
やがて兄も栞の前から姿を消してしまい、キャラメルの箱から彼の途切れ途切れのメッセージが届くようになる。
少しずつ現実は融解し、夏の幻想に吞み込まれていき、栞は兄を探しに奇妙な旅に出る。
3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ
『なつのひかり』は未読なのになぜか昔読んだつもりになっていたまま20年も積読していました。
yondaパンダがyondenakattaパンダだったぐらいの衝撃でしたが、季節も夏だしちょうどよいだろうと読んでみました。
いい意味で江國香織っぽくないファンタジー路線のシュールな物語で面白かったです。
4、感想
『なつのひかり』は、デビュー作『きらきらひかる』、第2作『ホリーガーデン』とは全く路線が違う話で一風変わったファンタジーっぽい作品です。
江國香織の作品をすべて読んだわけではないのですが、ファンタジー色が強い作品は覚えがなかったので、とても新鮮でした。
現実世界で描かれていた物語が徐々に均衡を崩していって、奇妙な出来事が起こり始めて兄の妻、次いで兄が失踪する・・・。
どことなく村上春樹の作品のようであり、次々に奇妙な出来事が起こるのに主人公がわりとフラットなまま突き進んでいくさまが町田康みたいでもあるように感じました。
まぁ、なんせヘンテコな話ですねぇ(笑)
ただそんな中でも江國香織らしさも失われていないというか。
遥子さん、兄、順子さん、わたしの関係は複雑に絡み合っているのだけれど、絶妙なバランスで共存している感じが、らしいなと思いました。
そこにめぐみも絡んできたりして、まぁ普通なら修羅場なんですけど、なにか流水のようにするすると透明に流れて行っていて、ああ江國香織だなぁって感じで。
このへんの人間関係の描写、名前のついてない関係性の描き方がとても好きです。
強い愛情を持っていながらなぜか執着せずにすべてを受け入れていくような諸行無常。
仏教的であり、フランスとかのクールな関係性(あくまで僕のイメージですが)みたいです。
なつの物語だけど、1995年当時。
まだ今ほど猛烈な暑さじゃなくて、夏が冒険の季節だったころのお話。
今だったら、毎日35℃を超えるような凶暴な夏サマーだったら江國さんもきっとこんな物語は描けなかったかもしれないですね。
なつのひかり。
ゆらめく陽炎がみせた一瞬のまぼろしのような、白昼夢のような物語。
在りし日の夏とその幻想に思いを馳せながら、狂ってしまった季節に想いを馳せる。
かつてこれだけ夏は幻想的で、冒険の季節だったのだなと壊れてしまったなにかを掬い上げるように読み進めました。
5、終わりに
江國香織の作品としてはもしかしたら異色作かもしれませんが、僕は楽しくのびのびと読みました。
なんやかんやへんちくりんな話ですが、物語の根底に流れていたのはある種のノスタルジーだったのかもしれませんね。
なんといっても、なつはとても感傷的な季節なのですから。
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