ヒロの本棚

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【本】村上龍『五分後の世界』

1、作品の概要

 

五分後の世界』は村上龍の長編小説。

1994年3月に幻冬舎より刊行された。

書下ろし。

文庫本で293ページ。

続編に『ヒュウガ・ウィルス 五分後の世界Ⅱ』が刊行されている。

2001年に同名で、PS2でゲーム化され、監修・原作を作者の村上龍が務めた。

人口26万人に減り分割統治された異世界の日本でゲリラとして地下に潜伏しながら国連と戦い続ける国民兵士たち、そこへ五分後の異世界から小田桐が迷い込む。

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2、あらすじ

 

ジョギングをしていた小田桐は、いつの間にか五分後の異世界に迷い込み、スパイの嫌疑をかけられて投獄される。

そこはロシア、アメリカ、イギリス、中国に分割統治された異世界の日本だった。

広島と長崎に原爆が落とされたあとも戦い続けた日本人はわずか26万人まで減り、アンダークラウンドと呼ばれる地下に籠り、国民兵士と呼ばれる世界一のゲリラ兵士として戦い続けていた。

獄中から屋外の労働へと送られた小田桐はそこで国連兵士との激しい戦闘に巻き込まれて、国民兵士と共闘しつつなんとか生き残る。

そして、地下司令部へと案内された小田桐は自らが知る日本人とは違う彼らの誇り高き姿と、凄惨な敗戦の歴史を知る。

 

 

 

3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ

 

26年前ぐらい、大学生の時に読んで衝撃を受けた作品のひとつがこの『五分後の世界』でした。

この頃の村上龍は「小説家」として研ぎ澄まされていて本当に凄かった。

彼の今を否定するわけではないけど、現在は純粋な「小説家」というよりもっと広義な存在に変容しているように思います。

彼にとって、読者にとって、それが進化なのかは別として彼のキャリアや仕事を俯瞰してみるに「小説家」としてやりたいことはこの時期にやり尽くしてしまったのかなとも思います。

 

当時の日本社会を風刺するような強烈な毒のある文章も爽快で痺れていました。

ちょっとやり過ぎな感じもあるけど、とにかく文章に、言葉に、物語に力があったように思います。

2000年代も『半島を出よ』など素晴らしい作品を多く書いていますが、『五分後の世界』は村上龍という作家にとって間違いなく代表作となる小説であり、僕の青春時代を

(そんなに鮮やかな色彩ではないにせよ)彩った物語です。

 

 

 

4、感想(ネタバレあり)

 

「気づいたら異世界の日本にいて、兵士として戦ってみた件について」みたいな、まぁ転生はしていないけど、異世界SFです。

でも、日本の分割統治については実際に第2次世界大戦で連合国が画策していたものをモデルにしているようで、今読んでいるとあり得ない話ではなかったことがわかり寒気が走りました。

実際に北方領土にしたって、ロシアが条約を破ってどさくさに紛れて占領しましたし、北海道も危なかったみたいですし、沖縄もアメリカの米軍基地の問題が大きかったりと、リアリティを感じる部分がありました。

 

もし、沖縄を見殺しにし、広島、長崎と原爆を落とされたあとに降伏しなかったら、本土決戦が行われていたら・・・。

そんな寒気がするようなifが描かれているのが『五分後の世界』であり、しかしそのような犠牲を払ったからこそ異世界での日本人は、現実の日本人とはかけ離れた誇り高い民族へと進化しているという姿を描いていました。

さすがに戦闘国家として世界から一目置かれる存在になり、ゲリラ戦において最強というのはぶっとんでいますが、現代の日本への風刺も相まって強烈なメッセージが籠められているようでした。

 

この頃の村上龍はまるで侍のようで、さながら刀の代わりに文章を振るっているように僕には見えました。

多少過剰であったり、的外れであったりしたとしても、文章と言葉に力がありました。

文学と表現で壊れて変質してしまった日本と日本人を嘆き、批判することで、何かを変えたいと本気で思っているような姿勢がみられたように思います。

 

根っからの反逆児。

体制に対してもはっきりとNOと言えるカッコよさがこの時期の龍には漂っていたように思います。

サッカー選手の中田英寿とこの時期とても懇意にしていたのもわかるような気がしますね。

 

村上龍は、その当時の(現在もさほど変わっていないのかもしれませんが)日本の社会と日本人のどのような部分に怒りを感じていたのでしょうか?

それは、危機感の欠如、自分の好きなものを自分で選べない無個性さ、何かを迅速に決められない意志の弱さなどだったのだと思います。

対照的にアンダーグラウンドの日本人は常に国家の滅亡と隣り合わせの危機感を持ち、確固たるアイデンティティを持って誇り高く生き、シンプルに物事を決定しながら生きていました。

その姿はまるでかつてこの国にいた侍たちのようでもあり、もしかつての侍のような日本人たちがグローバルに立ち回っていたらこういうふうにもなり得るのではないかという姿にも見えました。

 

極東の島国だった故に他国に侵略されて、文化や言語を奪われて、民族が壊滅する危機に瀕したことがない日本。

五分後の世界』で描かれたのはGHQによる統治ではなく、徹底的な侵略で国土を焦土とされた日本国でした。

しかし、その国家存亡の危機から民族として国家として大事な誇りと危機管理を学んだ『五分後の世界』における日本人と、敗戦後に侵略でなくアメリカに飼いならされる形でのGHQの統治を受けた現実の日本との痛烈なギャップを感じます。

牙を抜かれた侍たちの末裔。

 

ただバブルが弾けたとは言え、まだまだ輸出産業が盛んでモノづくり大国・日本として隆盛を誇っていた経済大国ニッポン。

ジャパン・アズ・ナンバーワンなんて言ったのも今は昔。

車も家電製品も携帯電話の産業も衰退し、他国の後塵を拝しています。

唯一、漫画とアニメだけは素晴らしいですが・・・。

円安になったら日本経済は復活するとか言っていた奴は一発ずつ殴ってやりたいッス(笑)

 

あっ、だいぶ脱線しましたが『五分後の世界』は、そんな村上龍の当時の日本社会への憤りが率直かつ辛辣に表現されていると思います。

主人公の小田桐は、危機意識が高く、未知の困難な状況でも冷静に行動できるゲリラとしての資質があります。

ゲリラとしての最大の資質はなにか?

それは生き延びること。

作中でそんな小田桐の本質が研ぎ澄まされていくのがわかります。

 

戦闘中のシーンでは過酷で残虐なシーンが多く、だいぶ刺激が強め。

爆薬匂い、寒さ、飢え、噴き出す血、死臭に溢れています。

そこで逆に活性化される何か。

小田桐はこっちのほうが性に合うみたいなことを言っていましたが、ラストで時計を5分進めて『五分後の世界』の時間に合わせたのは、こちら側の世界で生きていく決意表明だったのでしょうか?

 

 

 

5、終わりに

 

だいぶ血なまぐさくてグロい描写も多いですが、とても面白い作品でした。

小田桐の立ち振る舞いに、なんとなくGANTZの玄野を思い出しました。

「生き残る」ことに特化した、平常時では決して露見し得ない特殊な才能。

玄野もいいゲリラになれそうですね(笑)

 

やっぱりこの90年代あたりの村上龍は良いな~。

他の作品も読み直してみたいっす。

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