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【はてなインターネット文学賞】「わたしとインターネット」~中田英寿と村上龍。インターネットに見た個人がメディアになる時代の予感~

はてなインターネット文学賞「わたしとインターネット」

 

 

☆サッカー界のスーパースター・中田英寿VSマスコミ☆

 

時は、1997年。

日本サッカーはジョホールバルにて、なんとかW杯の切符をもぎ取りました。

最終予選の途中での監督解任。

格下の相手に取りこぼしながら、なんとかグループ2位を確保。

ギリギリの状況でのイラン戦で延長までもつれこんでの3-2の勝利。

その歴史的な名勝負でピッチ上で最も輝いた選手は当時20歳だった中田英寿でした。

 

初めてのW杯出場。

突如現れた若きスーパースター。

ピッチ上で年上の選手たちにも物怖じせず指示して時には声を荒げる異端とも言える中田にメディアは食いつきました。

ただ、ワールドクラスに達しようとする若きアスリートに対して、当時のメディアの姿勢はあまりに稚拙でした。

 

当時の野球のインタビューでもよくありましたが「今日どうでしたか?」みたいなザックリした質問・・・。

予定調和とも言うべき選手の受け答え。

スポーツがグローバルなものになっていなかった非常に日本的な現象だったと思います。

世界を相手に戦い、そこを舞台にプロとして戦っていた中田にとって当時のメディアはプロフェッショナルとして物足りなかったのではないでしょう。

www.excite.co.jp

 

1998年に入り、初のW杯に向けてメディアの報道は加熱。

中田は日本の若きエース、ファッションや言動なども取り上げられて若い世代のアイコンとして注目されました。

過度のプレッシャーにさらされた中田はストレスのあまり蕁麻疹が出たり、コンディションを崩したりしました。

また、以前から自分の言動がメディアに都合よく取り上げられて面白おかしく報道されていたことに違和感を感じていた中田は自分のホームページを立ち上げて、自分の言葉で自分のことを語ることに決めたのでした。

「nakata.net」と題されたホームページではメディアには語らない素の中田英寿の姿が綴られていました。

1998年と言えばまだまだインターネットは黎明期で、電話回線を使ってキュルキュルいって使うごとに料金を取られていた時代。

ネットを使うときも、パソコンに向かって「さぁ、これからインターネットを使うぞ!!」みたいにインターネットを使うのは日常的ではない時代であったと思います。

そんな時代にインターネットを使ってメディアを介さずにファンや世間の人々との交流を試みたのが中田英寿という若き天才アスリートでした。

 

 

 

村上龍が示した憂鬱な希望としてのインターネット☆

 

そんな天才的な若きフットボーラーと懇意にしていたのが、『限りなく透明に近いブルー』で群像新人賞芥川賞をダブル受賞して『コインロッカー・ベイビーズ』などセンセーショナルな作品を創作していた村上龍

ちなみに僕が当時一番好きなサッカー選手が中田英寿で、一番好きな作家が村上龍でした!!

いや、この2人の交流にはとても興奮しましたし、なにか新しい時代の幕開けのようにも感じていました。

 

個人的には村上龍の作品は『イン ザ・ミソスープ』が一番好きで、この頃の龍が一番脂がのっていると思っています。

なんというか「時代のアイコン」とも言える存在で時代を象徴するような小説・エッセイと書いていました。

その頃に書いたエッセイのタイトルが『憂鬱な希望としてのインターネット』で未来を予見するようなエッセイでした。

って、未読ですが(笑)

 

インターネットは2000年代に入って、急速に人々の生活に入り込み、大きく変化させていきました。

例えば、物流や販売がその最たるもので、ネット販売が普及し本屋のような店鋪がどんどん潰れていっています。

スマートフォンの普及に伴ってさらにインターネットは生活に欠かせないものとなり、IOT、ICTなどの概念も広まりネットが常に繋がっているのが当たり前の状況にさえなってきました。

 

中田英寿村上龍は、そんなインターネットの黎明期に自らのホームページを通してダイレクトにファン達と繋がろうと試みたのだと思います。

この時期に中田英寿村上龍の対談集と交わしたメールを書籍にした『文体とパスの精度』という本が出版されましたが、昔で言う往復書簡集がEメールになっているという点が新しいですね(笑)

この時期の中田のホームページの日記にもよく村上龍が登場し、2人が一緒に旅行した時のプライベートショットなんかも掲載されていてテンション上がりました!!

 

 

☆個人がメディアになり、レベルの低いメディアは駆逐される?☆

 

中田英寿の登場によって、マスメディアの世界に一石が投じられて、波紋が広がっていきました。

あれから20年以上の時が流れて、スポーツジャーナリストの中にもワールドスタンダードな記事を書ける方が増えてきているように思います。

『Number』などレベルの高い雑誌や、Webコンテンツも増えてきました。

 

TVに関しても民放のスポーツ番組のレベルは相変わらず微妙ですが、スカパーなどのCS、DAZNなどのWebコンテンツのレベルは解説者、実況のレベルが上がったこともあり質が高いものになってきました。

サッカーだけではなく、テニス、野球、ゴルフなどの分野でも世界的なトッププレイヤーが増えてきているので、必然的にマスコミのレベルも少しずつ上がっていくのではないでしょうか?

 

ホームページ→ブログ→SNSYouTubeといった変遷を辿り、今後はますます力を持った個人がメディアとして情報を発信してお金が集まる時代になっていきます。

TVが一人勝ちだった時代も終わりを告げ、ネット広告にお金をかける流れになってきているように思います。

 

中田英寿は20年以上前にマスコミに対して反旗を翻し、時代に先駆けて自らがメディアとなって自分の言葉で情報を発信。

自分の言葉が捻じ曲げて伝えられるメディアに対しての不信感が発端でしたが、時代を先取りした試みで、そのうちインターネットを介して個人がメディアとなると言っていた中田の予言が現代において成就しているように思います。

 芸能人、アスリート、アーティスト、一般人もSNSYouTubeを介してそれぞれがメディアとして情報を発信しています。

 

今後もきっとこういう流れは加速していき、広告料などの経済の流れさえも変えていくのでしょう。

インターネットが急速に普及した20年。

これからの20年でインターネットは社会と人々にどのような変化をもたらすのでしょうか?

願わくば、コロナ禍で加速したように思えるその変化が、人類にとって福音となるように願っています。

 

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