1、作品の概要
2021年1月公開の恋愛映画。
坂本裕二の書き下ろし脚本。
『カルテット』『罪の声』などの土井裕泰監督作品。
2、あらすじ
終電を逃したことで偶然出会った山音麦(菅田将暉)と、八谷絹(有村架純)は映画や本、音楽などの趣味が似通っていることで意気投合してやがて付き合うようになる。
お互いに就職活動を控えた大学生だったが、フリーターをしながら同棲生活を始める2人。
ずっと一緒にいたい、そんな2人の気持ちがやがてすれ違っていく・・・。
2人の5年間の物語。
3、この作品に対する思い入れ
以前から、いろんな人がこの映画をオススメしていて、気になっていました。
映画館で観たかったのだけれど、職場のコロナ対策の規定もあり映画館には行けず。。
ブルーレイのレンタル開始を待って家で観ましたが、評判通り素敵な映画でした。
4、感想・書評(ネタバレまくり注意)
①ひそやかな偶然に彩られた2人の出会い
運命というほどじゃないけど、偶然が積み重なって出会いお互いのサブカル色の強い趣味がお互いを引き合わせる・・・。
あー、なんかこういう出会いもあるかもって。
劇的じゃないけど、ちょっとした偶然が集まって自然に惹かれ合っていく感じが良いですねぇ。
お互いそんなに派手に遊ぶタイプじゃなくて、本・映画・音楽が好きで驚くほど趣味が似ていて、靴も同じスニーカーで、行けなかった同じライブのチケットを持っていて。
いや、もう恋愛フラグ立ちまくりっしょやぁぁぁぁ!!!!
ワッショイ!!
読んでる本の交換とか、めっちゃ憧れるなぁ。
一つのイヤホンで音楽を聴いたりとか。
説教されてたけど(笑)
僕もちょいサブカル男子でしたが、なぜかあんまり趣味がどストライクな相手とお付き合いしたことはなかったですね。
20代前半で、これだけ同じ感性を持った相手と、運命を感じさせられるような出会いをしたら恋に落ちちゃいますよね!!
告白して、初めてのキス、初めてのエッチからの同棲開始とか、序盤はこれでもかとキラキラエピソードが連発ですね!!
押井守を見かけて(なんと本人出演w)テンション上がったり、今村夏子の小説で盛り上がったり(芥川賞受賞前)、ゴールデンカムイとかサブカルネタ連発でそっちの意味でも面白かったですね♪
同棲を始めたマンションも多摩川沿いの眺めの良い部屋で、ネコを拾ったり、お気に入りのパン屋さんを見つけたり、コーヒーを飲みながら土手沿いを散歩したりと、多分この辺りが幸せのピークだったんでしょうね。
まるで無人島で2人きりで生活しているかのような麦と絹でしたが、いつまでもモラトリアム期間は続きません。
少しずつ歯車がずれ始めて、不協和音を奏でるようになります。
②こんなに近づいたのに遠くなっていく
この映画はカメラワークとか映像でも綺麗なシーンが多かったですが、中盤あたり2人で旅行に行って海ではしゃぎながら写真を撮るシーンの海と空の青と光がすごく印象的でした。
絹が語る恋愛の話、「恋が生まれて成就した瞬間から死に向かっていく」みたいな話も行く先を暗示しているかのように意味深でしたね。
急にいなくなった麦に動揺する絹。
彼は、売り切れ直前だったというしらす丼を持って笑顔で戻ってきますが、絹は不安感から麦の態度に怒りを覚えています。
でも、麦は絹の不安感と怒りに気付きません。
些細なことかもしれませんが、何か象徴的なシーンだったように思います。
イラストレーターとしての仕事をしたいと、ネットの挿絵の仕事などを細々とイラストを書いていた麦でしたが、絹の両親から就職して社会に出る意義を説かれたり、自身の父親から仕送りを止めることを通告されたりして、きちんと就職することを決意します。
全ては、絹と今までどおりに一緒にいるため。
麦は好きな漫画やゲームもする気がなくなるほど仕事に没頭して高い収入を得るようになりますが、絹のために頑張れば頑張るほど2人はすれ違っていくのがとても悲しかったし、でも経済力がなければずっと絹と一緒にいられないからそのために頑張っている気持ちもすごくよくわかりました。
今までと変わらずに一緒にいるためにずっと変わらずにいる絹と、そのために変容していく麦・・・。
もちろん、社会に出ていく為に絹も資格を取ったり、就職活動をしたり、夢ばかりみてたわけじゃないけど、イベント会社に就職したいみたいにやっぱり根本は自分の感性を大事にしていて楽しいことを追いかけているんでしょう。
それが悪いとは言えないはずですが、がむしゃらで必死に働いている麦からしたら違和感を感じたのでしょう。
おそろいだった2つの白いスニーカーと対比させるように、玄関先に大人になった2人の別々の靴が映し出されます。
でも、30~40歳ぐらいの方が観てたら「あるある!!わかるわ~」ってなったんじゃないでしょうか?
やっぱり社会に出るって大きな変化だし、急速に価値観に変化が出て、お互いに余裕がなくて感情をぶつけ合ったりすれ違ったりすることもありがちではあったように思います。
序盤でキラキラした恋愛、ピッタリな二人をこれでもかと描いておきながら、中盤以降でえげつないぐらいにすれ違わせていくのはなかなかにキツい演出でしたが・・・。
大学時代から社会に出て行くまでのいわゆるモラトリアム期間を描いて、その狭間で揺れる動く心情を描いたのもこの映画においてのテーマなのだと思います。
サブカルチャーの存在は2人にとってアイデンティティーであり、自らの空白を埋めるためのにすがる何かだったのでしょう。
そういったモラトリアム期間に培ったものを捨てて社会に出ていくのか、それとも抱えて生きていくのか・・・。
別に答えなんてないと思いますが、2人に生まれたギャップはそういったことだったのかなとも思います。
③胸いっぱいの想い出を抱えたその両手に
付き合って一緒にいた4年間。
友人の結婚式のあと、2人は思い出のファミレスで別れ話をします。
麦は別れ話をしながら、「やっぱり別れたくない。結婚しよう。お互い愛し合ってなくて空気みたいな存在でもいい。それが普通だから。家族になろう」と言います。
少し前のプロポーズの場面でもありましたが、麦にとって好きだから結婚するとか一緒にいたいというより、男としての責任とかあるべき態度を取るみたいな姿勢にいつしか変化していっていたのでしょう。
でも、絹はあくまで「麦との恋」について悩んでいたのですし、この瞬間に麦が自分のことをもう愛していないことを、2人の恋が死んだことを痛感したのではないでしょうか?
そして、あの日の2人のような初々しい男女が、以前2人が付き合う前に座っていたあの席に座ってまるで2人のやり取りをなぞったような初々しいやり取りを見せます。
いや、エグいエグいって、ホンマ!!
かつては恋だったものがどのように変容してしまったのかを痛感させられます。
思わず、店を出て肩を震わせて号泣する絹。
もう何もかも終わってしまった。
麦がどれだけ抱きしめても2人の恋は戻りませんでした。
別れると決まってからすぐに出て行くのも難しく、色々と実務的なやり取りをしながらも昔みたいに楽しくのびのびと過ごす麦と絹。
なんか逆にリアリティがあるなと感じましたし、小さな偶然はあってもとてつもない激動や運命的な何かがあるわけでもないこの物語に相応しいと思いました。
そういった普遍性が、遠い昔に置き忘れた宝箱のような思い出を蘇らせるような気がします。
サニーデイ・サービスの『LOVE ALBUM』に収録の 『胸いっぱい』という曲が大好きなのですが、この映画はまさにその歌の情景を思い出させました。
一緒に暮らしていた2人が別れることになったけど、最後は昔みたいに楽しくお別れしよう・・・、みたいな曲で明るい曲調で別れを描いている曲です。
いや、なんかピッタリだなぁ・・・。
別れた後に偶然カフェで再会する麦と絹。
冒頭の場面はここにつながっていたんですね!!
ファミレスで薀蓄された1時間もしっかり2人の中に根付いていました(笑)
付き合っていたのは4年間だったのになぜ「5年間の物語」と銘打っていたのか?
最後の最後で謎が解けました。
お互いが後ろ向きに手を挙げて、そんな仕草までピッタリだった2人は別々の方向に歩き出します。
ラストシーンで、グーグルマップで多摩川の土手に在りし日の2人の姿を見つけた麦は満面の笑みを浮かべていました。
お互いの幸せを祈りながら別れた2人。
例えば20年後、懐かしく思い出す古いアルバムのような大切な記憶がこの5年の日々なのかもしれません。
花束みたいな恋。
それは作中で写真に撮られていたマーガレットみたいに、可憐でひそやかな恋愛だったのでしょう。
5、終わりに
いやー、とても良い映画でした!!
いつかもう一度観てみたいですね♪
運命的な出会いから、悲劇的なラストが待ち受けているようなドラマティックな映画ではなくて、等身大の普遍的なラブストーリー。
なにか親しみや共感が湧くような映画だったと思います。
過去の温かい記憶って、何かの拍子に励ましになったり、懐かしく思い出されたりする大事なものだと思います。
麦と絹の物語はそんな古くて温かい記憶を呼び覚ますような、記憶に語りかけてくるような優しい物語であったのだと思います。