2、あらすじ
①木になった亜沙
亜沙が誰かにあげようとする食べ物は誰も食べなかった。
スノボの事故で命を落とした彼女は、動物たちに果実をあげられるような木になりたいと願い、生まれ変わっていつの間にか木になっていた。
伐採され、割りばしになった彼女はある若者に使われるようになり・・・。
②的になった七末
七未は、幼稚園の時にドングリを園長に投げつけられて逃げ続けて以来、誰かに何かを投げつけられながら逃げ続ける経験をしていた。
いつも誰かが頭上から「がんばれがんばれ!」「ナナちゃん、はやく」と応援してくれていた。
風船爆弾も、ドッジボールも、ぬの太郎の缶も七未は避け続けて当たることがなかった。
しかし、みんなが実は七未が当たることを願って声援を送っていたことを知り、当たることを願うようになるが・・・。
③ある夜の思い出
30歳を過ぎて、仕事もせずに父親と2人暮らしのわたし。
家出して腹這いで逃げ出したわたしは、路上で出会ったジャックの家に行き婚約をするが・・・。
3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ
好きな作家の1人、今村夏子の作品が図書館にあったので借りて読んでみました。
村田沙耶香、小川洋子らもざわつく感じを書いている作家ですが、今村夏子もまた特殊な不穏さを持った作家だと思います。
今回もザワつく物語たちでした。
4、感想・書評(ネタバレあり)
①木になった亜沙
誰も自分が差し出す食べ物を食べてくれないことに悩む亜沙。
タイトル通り木に転生してしまったのにはビックリでした。
若者は叔父夫婦の子供のことだったのでしょうか?
割りばしになって思う存分若者に食べものを食べさせることができた亜沙は果たして幸せだったのか・・・。
②的になった七末
今村夏子が得意とする、信頼できない語り手の目線で語られる物語。
勝手に僕が「一人称の罠」とか名付けていますが、七未は周囲からみてだいぶ奇異な存在で、どうやら両親にもあっさり見放されているようです。
七未の存在は園長や、先生、ぬの太郎らをイラつかせるのか、彼らに執拗に追い回され、物を投げられますが、決して七未は当たることはありません。
七未に送られていた声援は現実のものだったのでしょうか?
彼女は「当たる」ことに執着し、精神のバランスを崩していきます。
息子の七男は七未の呪いを解くために射的のコルクを当てたのでしょうか?
③ある夜の思い出
この短編集は普通の人生を歩んでいる人が出てきませんが、わたしも30歳を超えてずっと実家で父親と2人暮らしで就労もせずに毎日ダラダラ過ごしている。
おまけに腹這いで移動しているという奇妙極まりない日常生活を送っています。
のぼる君は人間を飼っていたのでしょうか?
ジャックと2度と会えなかった、ちょっといい夜の思い出みたいに語られていますが、全体的にとても奇妙でぞわぞわします。
5、終わりに
独特の不可解さ、奇妙さ、不穏さを感じさせる作品群。
それでも読みたくなってしまう。
「一人称の罠」に翻弄される。
今村夏子という作家は、彼女なりのやり方で「普通」や「正常」とは何かを投げかけているようにも思います。
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