ヒロの本棚

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【本】今村夏子『とんこつQ&A』

1、作品の概要

 

『とんこつQ&A』は今村夏子の短編小説集。

2022年7月に刊行された。

4編からなる。

単行本で220ページ。

『群像』2021年12月号~2022年7月号に掲載された。

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2、あらすじ

①とんこつQ&A

わたしが「とんこつ」という名前の中華料理屋でアルバイトとして働きだして7年。

大将と小学生の坊ちゃんは、「いらっしゃいませ」もろくに言えないわたしを温かく見守ってくれた。

そんな2人に応えるためにメモを読み上げながら接客していたわたしはやがて接客対応のマニュアル「とんこつQ&A」を作成し、立派に店を切り盛りするようになる。

しかし、そこに新しいアルバイトの丘崎たま美がやってきて・・・。

 

②嘘の道

与田正は、僕と1つ違いの姉の同級生で、有名な問題児だった。

みんな煙たがっていじめていたが、ある時学校の今月の目標が「いじめをなくそう」になり、みな与田正に過剰に関わるようになっていく。

ある日、姉弟が公民館の敬老祭りに参加しようとしたおばあさんに道を尋ねられて教えた近道が原因で大きな事件が起きてしまう。

2人は口を閉じ、誰もが与田正を犯人にしようとするが・・・。

 

③良夫婦

土橋家に嫁ぎ、夫の幹也と2人暮らしの友加里。

彼女はいつもお腹を空かして同級生からいじめ(?)られているタムのことを気にかけ、勤務先のお菓子工場のお菓子を上げていた。

土橋家の飼い犬・アンコに会いたいのもあって、警戒心の強かったタムも次第に心を開くようになる。

しかし、もっと距離を縮めようと、家のさくらんぼの木からさくらんぼを取るように友加里が促したことで、タムが大怪我を負ってしまう・・・。

 

④冷たい大根

高校を出てすぐにプラスチック部品工場で働くようになった19歳のわたし。

休憩中に「お金を借りて返さない」と悪い噂の芝山さんに話しかけられて、自宅付近の安いスーパーを紹介し、交流するようになる。

やがて、わたしの自宅にも訪れてごはんを作ってくれるようになった芝山さんだったが、ある日・・・。

 

 

 

3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ

 

図書館にてゲット!!

いや、ずっと探してたんすよね~。

そんな借りたきゃ、予約すりゃいいじゃんって言われそうですが(笑)

でも、図書館の書棚を上から下まで、右から左まで舐めるように見ながらお目当ての本があった時は拍手喝采、思わずガッツポーズ!!まではしないけど嬉しいもんです。

中古レコード屋でお宝を探したり、夜遅いスーパーで半額の見切り品を探したり、ビックリマン妖怪ウォッチのメダルを探したり・・・。

探すって行為って楽しいなと思うこの昨今でございます。

 

そんなわけでゲットしてホクホクで帰宅して読んだんですが、そこはやはり今村夏子ワールド。

きっちりザワザワさせられて、奈落の底に叩き落されました(笑)

 

 

4、感想

①とんこつQ&A

いや、もうザワザワしっぱなしの良作品。

ちょっと世間ずれしてコミュ障の主人公がとんこつでバリバリ働けるようになる前半部分から、もう一人のバイトの丘崎たま美が入ってきたあとの不穏な展開がたまらない。

それまで、お店のおかみさんに間違えられるまでになっていた主人公の立場を丘崎たま美が奪っていく。

 

しかし、やがて再びとんこつの従業員としての自覚に目覚めた主人公はとんこつQ&Aの家族ver.を作り上げますが、まずその量の膨大さが常軌を逸していますし、主人公自身をまわりが称えるようなやりとりも自作されており吐き気がします。

このじわじわとくる生理的嫌悪。

最低で最高です。

 

②嘘の道

これもだいぶキレキレの不穏さで、まるで魔女狩りで異端を排除するみたいに何もかも与田正に忌み事を押し付けようとする集団心理にまず慄然。

まさにパブリックエネミー。

主人公と姉はおばあさんに公民館までの近道を教えたはずが、大怪我をしてしまい大変なことに。

ここで父親の「そんなやつは大人になる前に消えている」という言葉が呪いのようにのしかかる。

 

最後の姉弟の惨状には身震いしました。

 

③良夫婦

タイトルがとても皮肉。

木から落ちてしまったタム、3年前に目の前で転倒させてしまったご利用者。

友加里は夫に助けられるまで現実を受け入れられずに、とるべき行動を取れず、自身の過失を夫によって隠蔽されることで守られる。

 

夫婦の美しい愛情?

そこには何がしかの歪んだ依存があり、自己保身の醜さを感じた。

そういった誰もが正視することを拒むような醜い真実を物語にして突き付けてくる今村夏子にまたしてもざわついた感情を覚えた。

 

④冷たい大根

職場で札付きの芝山さん。

断れない主人公はズルズル仲良くなってしまう。

ああ、これ絶対になんか悪いこと起るよな・・・。

とか思いながらページをめくる。

いつ爆発するかわからない時限爆弾を抱えて物語は進んでいく。

結局、1万円を貸したまま逃げられちゃうのですが、それでも芝山さんが主人公に与えたものもあったのかもしれないと思う。

 

(おそらく)愛情飢餓だった自己肯定感の低い主人公にとって、手作りの温かい食事は沁みたのではないでしょうか?

 

 

 

5、終わりに

 

今村夏子の作品の主人公で明るく前向き!!みたいな人っていないし、どことなく社会から逸脱したような人ばっかりだなぁとか思いながら読みました。

長編より、中編、短編のほうが持ち味が出るように思いますね。

しかし、タイトルの『とんこつQ&A』は全く内容が予想できなくて面白すぎですね。

これからも今村夏子のざわつく唯一無二の物語に期待したいです!!

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