ヒロの本棚

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【映画】『ゆれる』~倫理観も、信頼も、愛情も、そして真実も激しく揺れ動く~

1、作品の概要

 

2006年に公開された日本の映画。

西川美和監督・脚本・原作で彼女の2作目の長編作品。

主演・オダギリジョー香川照之真木よう子伊武雅刀蟹江敬三らが出演している。

音楽をカリフラワーズが担当した。主題歌は『うちに帰ろう』

西川美和監督自身が執筆した小説『ゆれる』も2006年に刊行され、第20回三島由紀夫賞の候補になった。

第59回カンヌ国際映画祭の正式出品作品に選ばれ、日本アカデミー賞など国内多くの賞を受賞した。

1人の女性の死をきっかけに変容していく兄弟の関係と、暗い内面をリアルに描いた作品。


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2、あらすじ

 

東京で活躍する売れっ子カメラマンの猛(オダギリジョー)は、母の法事で帰郷するも、父(伊武雅刀)と母の葬式に帰らなかったことで喧嘩になり、兄の稔(香川照之)に止められた。

稔は穏やかで真面目な性格で父のガソリンスタンドで懸命に働いていた。

ガソリンスタンドのアルバイトが猛の元彼女の智恵子(真木よう子)で、一夜の関係を持ってしまった2人。

翌日、智恵子に秘かに想いを寄せる稔も含めて3人で渓谷へ遊びに行くが、そこで取り返しがつかない事故が起きてしまう・・・。

 

 

 

3、この作品に対する思い入れ

 

オダギリジョーが好きだったので、『ゆれる』がDVD化されたぐらいにTSUTAYAでレンタルして観たのですが、めちゃくちゃ衝撃を受けました。

僕的に日本映画の中で10本の指に入る作品ですし、初めて観た西川美和監督作品でした。

人間の倫理観を大きく揺さぶるような、真理に訴えるような深い作品だと思います。

この映画がキッカケで西川美和監督の作品に惹かれましたし、香川照之の狂気すら滲ませる圧巻の演技力の虜になりました。

本当に素晴らしい映画だと思います。

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4、感想(ネタバレあり)

 

オダギリジョーが好きで観た映画でしたが、いつの間にか主演のオダギリジョーを喰う勢いで怪演を続ける香川照之という役者に僕の目は釘付けになっていました。

僕は香川照之の演技を観るのは初めてでしたが、その狂気すら滲ませる演技に、演じることへの情念に完全にノックアウトされてしまいました。

『ゆれる』は西川美和監督の圧倒的才能と、深い人間への洞察力が存分に発揮された映画なのだと思いますし、彼女の才能の迸りを随所に感じるのですが、それでもこの映画を特別な高みに押し上げているは稔役を演じた香川照之の演技にあったのだと思います。

配役も監督が最終決定するのだと思いますから、その采配も含めて西川美和監督の才能とも言えるかもしれませんが。

 

もちろんオダギリジョーもめっちゃ良かったです!!

僕的にはこの頃が全盛期じゃないかなと思うんですが、もう演技がどうのっていうより、画面に出てくるだけで絶大な存在感、オーラが立ち上りまくっていました。

サイヤ人かっ、てなぐらいに(笑)

アカルイミライ』『時効警察』『メゾン・ド・ヒミコ『転々』『サッド・ヴァケイション』も好きでしたね~。

今作でも兄の変貌に翻弄され、悩みながら法廷で真実を打ち明けるデリケートな役を演じていると思います。

 

ここからは稔の視点で映画の展開を考察したいと思います。

『ゆれる』は弟の猛の視点で描かれて、彼が事件をきっかけにした兄の変貌を目の当たりにして、「本当のお兄ちゃん」を取り戻すために「真実」を告白するという物語であったかと思います。

しかし、そもそも。

稔は事件をキッカケに変貌したのでしょうか?猛がイメージする「本当のお兄ちゃん」は稔の実像だったのでしょうか?

 

最初に観た時は、ガッツリ猛の視点で観ていて、真実が芥川龍之介『藪の中』のように移り変わる物語で、稔があたかもサイコパスのように感じていました。

猛視点からすると、優しくて真面目で穏やかなお兄ちゃんの変貌はショッキングだったのだと思いますし、映画を観ている僕も猛と同じように感じていたように思います。

しかし、今回2度目の鑑賞でその見方に疑問が湧きました。

事件をキッカケに変貌したはずの稔には事件前からその萌芽が見られているように感じたからです。

そして、そもそも稔はそのような「優しくて真面目で穏やかなお兄ちゃん」だったのだろうかという疑問すら生じてきました。

 

稔の視点で考えたときに、実はこの映画の中で出てきていない母親の不在が家族の転落に大きく作用しているのではないかと思います。

エキセントリックな猛と、いかにも昔ながらの家長といった風体の父親、そして穏やかで従順な稔。

その一家のバランスを取っていたのは亡くなってしまった母親だったのではないでしょうか?

何となくそんな一家の様子が目に浮かぶようです。

家庭でも、職場でも、チームスポーツでもいなくなって初めてその存在の大きさに気付かされるのがバランサーという存在です。

 

母が亡くなってから稔は洗濯などの家事もするようになり、母の欠落を埋めるように振舞うようになります。

元々、父が経営するガソリンスタンドを継ぐことを宿命づけられて田舎の小さな町にずっと縛り付けられていた稔。

その上に母親が不在となったその役割まで担わされるようになった彼の艱難辛苦は推して知るべし。

猛と父が喧嘩したのを宥めて、一心不乱に汚れた畳を拭き続ける稔の姿には既に暴発の予兆が漂っていたように僕には見えました。

まるで決壊寸前のダムや、噴火寸前の火山を想起させるようなその姿。

 

彼の最後のトリガーを引いたのは、猛であり、智恵子だったのでしょうか?

秘かに想いを寄せていた彼女に対して、そんな淡い想いさえ、路傍に咲いた野花を摘み取る気軽さで猛に盗まれて。

智恵子もそんな猛に惹かれて、稔を拒絶します。

揺れる吊り橋の上で。

その時に彼の胸に去来した想いはどういったものなのでしょうか?

明らかに尋常な様子ではなかった彼の表情と言動は?

あの吊り橋の上で起こった出来事は突発的なものではなくて、積もり積もったものが破裂した上に起こった出来事なのだと思います。

 

事件後にガソリンスタンドの横暴な客への暴行、猛への暴言など。

まるで稔が急に変容してしまったかのようにも感じますが、実はそういったフラストレーションを常に抱えていて、事件をキッカケに噴出し始めたのかもしれません。

ある意味、稔は事件をキッカケに本当の自分を見つけて取り戻したかのようにも思えてきます。

 

それでも元来生真面目な彼は智恵子が命を落とすキッカケを作ってしまうことに呵責を感じて、罰を欲していました。

罰を与えてくれるのは弟がいい。

そのために少し猛を挑発したり、突き放すようなことを言ったのかもしれませんね。

もちろんイケメンで東京に出て自由に生活しながら経済的にも社会的にも成功している弟にやっかみもあったのでしょう。

 

そうして兄の罪を決定づけるような証言をした猛でしたが、稔の表情はどこかほっとしたような表情だったように思えました。

法ではなくて、倫理でもなくて、人間の心として犯した罪に対しての罰を求める。

贖罪への粛々たる願いが表現されていたように思います。

 

智恵子が吊り橋から落下した場面。

猛が見ていたはずのその場面は、彼の心情の変化とともに変化していきますが、僕はラストで錨鎖された最後は助けようと手を伸ばした稔の場面が事実なのだと思います。

でも稔としては、自分が彼女を死へと追いやったことが真実だったのだと思います。

 

7年後、古い8ミリ映写機のテープで家族の絆を再確認して、涙ながらに稔の釈放を迎える猛。

「兄ちゃん!!」

絶叫する猛の声に振り向く稔のあの何とも言えない笑顔。

日本映画史上屈指の名場面だと思います。

様々な感情が綯交ぜになって最後にあらわれてきたのがあの笑顔だったのだと思いますし、「ありがとう」そう彼の笑顔が語っているように感じました。

 

 

 

5、終わりに

 

いやー、映画ってほんんんんんっとととととぉぉぉぉぉにいいいいでぅねねねねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

って、世界の中心でさけんだケモノにブギーバックですよ!!

日本の映画でしか持ち得ないような「湿度」をもった映画でもう映像も「うぃをいづいうえおいうsじょいうj」って言いながら観ていたのですが、めちゃくちゃ斬新な映像とかアングルも多発していて、ヒロおじさん発狂インザハウスでしたよ!!

 

変わり映えのない日常とか、先行きが暗いこの国の現状とか、疫病と戦争に塗れたこのクソみたいな世界とか。

そんな鬱憤を忘れさせてくれるような素晴らしい物語でした。

いやー、西川美和監督は天才です!!

 

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