ヒロの本棚

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【映画】『すばらしき世界』~世界は冷たくて厳しいけど、時に優しい~

1、作品の概要

 

西川美和監督・脚本作品。

原案・佐木隆三『身分帳』で、実在の男をモデルに脚色した。

役所広司主演。

仲野太賀、長澤まさみ出演。

2021年2月に公開された日本映画。

シカゴ国際映画祭で観客賞、最優秀演技賞(役所広司)、シアトル国際映画祭で観客賞を受賞。

トロント国際映画祭、正式出品作品に選ばれた。

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2、あらすじ

 

母親から離れて児童施設で育った三上(役所広司)は、若い頃からヤクザの組織と付き合いがあり、様々な悪事に手を染めていた。

結婚をした矢先にトラブルから人を殺めてしまい長い間刑務所に服役していた三上だったが、刑期を終えて社会に復帰しようと悪戦苦闘する。

身元引受人の庄司(橋爪功)とその妻、三上にTV出演を依頼する津乃田、スーパーの店長の松本(六角精児)らに支えながら、普通の生活をしようと張り切る三上だったが・・・。


www.youtube.com

 

 

3、この作品に対する思い入れ、観たキッカケ

 

西川美和監督作品であったということ、ポスタービジュアルにとても強く惹かれていて前から観たいと思っていた映画でした。

西川美和監督の『ゆれる』は僕の中で邦画のオールタイムベスト10に入るぐらい好きで衝撃を受けた映画ですし、『永い言い訳』も心が抉られまくった映画でした。

 

hiro0706chang.hatenablog.com

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kenさんもおすすめ映画にあげていて、絶賛していたのでこれは是非観なければと思っていました。

最近、良い日本映画が増えた気がしますな~。

ken03120.hateblo.jp

 

 

 

4、感想・書評(ネタバレありあり)

 

殺人の罪を犯して長い年月収監されていた三上ですが、彼は犯した罪に対してはほとんど反省をしておらず、人を殺したことに対しても全く悪びれた様子はありません。

映画でも彼が犯した罪を描くというよりも、罪を犯し収監されていたことで彼が失ったもの(妻や社会的信用)、そしてそれを取り戻すことの難しさが描かれています。

特に序盤は、生活保護の申請を通すのにもひと悶着あり、高血圧で体調も崩してしまい、車の普通免許の再交付は認められず、近所の住民とはトラブルを起こし、津乃田からはTVで見せものにするような取材依頼をされ、スーパーの店長には万引きを疑われてしまいます。

もうやることなすこと上手くいきません。。

 

いや、どこが『すばらしき世界』なん!?

ここでは、『すばらしき世界』というタイトルがとてもアイロニカルに響き、社会は三上に厳しく冷たく思えます。

でも、三上もうまくやり過ごすことができず真正面から衝突を繰り返してしまいますし、そもそもは自らが蒔いた種であり自業自得と言えるでしょう。

現代社会において、一度システムから逸脱してしまった人間に世間はとても冷たい。

強固な壁としてシステムがそびえ立っていて、個人の想いは跳ね返されてしまいます。

 

うまくいかずにやけっぱちになって、ヤクザ時代の兄弟分の家に身を寄せていた三上ですが、兄弟分が警察に捕まったこともあり元の生活に戻ります。

金を渡して三上を逃がす奥さんのセリフがとても印象的でした。

「シャバは我慢の連続ですよ。我慢のわりにたいして面白うもなか。やけど、空が広いち言いますよ」

 

だけど、まだまだ世の中捨てたもんじゃない。

不器用で、まだ以前のヤクザ時代のような粗暴さが抜けきらない三上のことを支えてくれる人間が少しずつ増えていきます。

『すばらしき世界』に篭められた2重の意味。

この世界も捨てたもんじゃない。

悪くないって思える瞬間もある、っていうそのままの意味でも使われているように思います。

 

世界は時にすばらしいけど、冷たくてどうしようもないクソみたいなことも起こったりする。

ブルーハーツの歌じゃないけど、「いい奴ばかりじゃないけど、悪い奴ばかりでもない」みたいな感じでしょうか?

 

三上自身も素朴で一生懸命で何に対しても真っ直ぐな良い面もありますが、暴力的ですぐ逆上してしまうような悪い面もあります。

そして過去の罪に対しても一切反省しておらず、倫理観の欠如も見られるように思います。

世の中も人も、天使のように清らかな面と、悪魔のように残忍な両面を併せ持っているということなのでしょうか?

 

仲野太賀演じる津乃田と三上の関係性が好きで、初めは仕事の取材対象として、どちらかというと見せものにするために三上に近づいた津乃田でしたが、次第に三上の人柄に惹かれて彼が更生して普通の生活をするようになる様を小説に書きたいと思うようになります。

津乃田はどこか原作者の佐木隆三さんを意識した人物のように思えます。

三上の母親を探すために以前暮らしていた児童施設を訪ねて、子供達と泥だらけになりながらサッカーをして、2人で一緒に銭湯に行って背中も流して・・・。

なんだかほろりとくるような温かな交流が芽生えてきます。

 

三上の母親は結局見つからずに、白い割烹着を着た母親が迎えに来ていたという三上の記憶もあやふやなものでした。

人の記憶は自分が思っているより不確かなもので、願望を記憶として勘違いしていることもあるそうです。

人は自分が見たいものだけを見ようとする生き物なのかもしれません。

 

物語の後半は温かく希望に満ちたものでした。

高齢者施設に就職することもでき、三上を支える人達にお祝いをしてもらい、プレゼントの自転車で出勤するようになります。

車の免許も取ることができて、別れた妻ともデートの約束をして順風満帆な日々。

高齢者施設での障害を持った従業員へのいじめを目撃し、逆上しそうになる三上でしたがなんとか堪えることもできました。

(ただ胸糞が悪いシーンでしたが・・・)

 

終わりは唐突にやってきます。

高血圧による、心筋梗塞でしょうか?

三上はコスモスを握り締めたまま自室で倒れ、この世を去ってしまいます。

取り乱す津乃田の様子が胸に刺さりますし、映画を観ていた人達の気持ちを代弁していたようにも思います。

 

圧巻のラスト。

死って、人生ってこういうものかもしれない。

すごくやるせないけど・・・。

思ってもみないことの連続で、最後の瞬間だって絶対に思い通りになってくれない。

三上にとってこの世界はすばらしいものだったのでしょうか?

 

 

5、終わりに

 

いやー、心に残る良い映画でした。

感想のところに書けませんでしたが、映像も斬新で三上が東京から飛行機に乗るシーンとかめちゃくちゃ綺麗な映像でした。

上空から観る東京の夜景、何度か使われていた光が滲んだような映像。

東京に戻った三上と津乃田が再会する上空からの映像(ドローン?)、ラストシーンの生気を失った三上の手とコスモスはまるで1枚の絵画のような完璧な構図でした。

音楽も良かったです。

 

そして、なんと言っても役所広司の演技力!!

博多弁はよくわかりませんが、違和感は感じませんでしたし、突然暴力的になる時のスイッチの入り方の表現なんかが背筋が寒くなるほど秀逸でした。

津乃田役の仲野太賀の演技も印象的でしたね。

 

やっぱり西川美和監督の作品は良いですなぁ。

他の作品もまた観てみたいですね!!

 

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