ヒロの本棚

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【映画】『永い言い訳』~エゴイズム/罪/再生~

今週のお題「最近見た映画」

 

1、作品の概要

 

2016年10月に公開した西川美和監督作品。

主演は本木雅弘深津絵里竹原ピストル黒木華出演。

西川美和は、監督・脚本を務めて原作の小説も執筆。

小説は第28会山本周五郎賞受賞。

直木賞の候補作にもなった。

 

 

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2、あらすじ

 

作家の衣笠幸夫(本木雅弘)は、妻(深津絵里)が友人と旅行中に不倫相手の女性(黒木華)を家に連れ込み身体を重ねていた。翌朝、妻が事故で亡くなったことを知り深く混乱する。

TVカメラの前で悲劇の夫を演じるが、心から悲しめているわけではなかった。遺族の会で同じく亡くなった妻の友人の夫・陽一(竹原ピストル) と知り合う。

陽一は妻を亡くしたことを心から悲しみ、幸夫も同じ気持ちを抱いていると信じて距離を縮めていく。また、家を空けがちなトラック運転手である陽一の子供達の面倒を見るため幸夫が協力をするようになり、クールな幸夫も陽一の子供たちに心を許すようになるが・・・。

妻が携帯に書き記した未送信のメールを見つけて、再び幸夫の心は沈んでいく。

 


本木雅弘、感情爆発!『永い言い訳』予告

 

 

3、この作品に対する思い入れ

 

西川美和監督の作品は『ゆれる』がめちゃくちゃ好きでした。

なんというか人間のエゴイズムを書くのがとても上手な監督ですね。

『ゆれる』も芥川龍之介の『藪の中』を彷彿とさせるような作品でしたが、『永い言い訳』でもエゴイズムと罪と再生を描いています。

決して後味が良いスカッとするタイプの映画ではありませんが、こういった生きづらさを描いた作品がたまらなく好きです。

 

永い言い訳

永い言い訳

  • 発売日: 2017/02/16
  • メディア: Prime Video
 

 

 

 

4、感想・書評

 

主人公の幸夫は一言で言って自己中心的な人間で、思いやりのないクソ人間です。

ゲスの極みですね。

いや、お前もだろうがとか言われそうですが(笑)

 

でも、人間の感情って何でしょう?

近しい人が亡くなったら即時に悲しくなって泣かなきゃいけないんでしょうか?

悲しめなかったら人非人なんでしょうか?

悼み方、悲しみ方は画一化されていなければならないのでしょうか?

そこに罪があるとしたらどのように贖えばいいのでしょうか?

この映画を観てそのように感じました。

 

ママンが死んで海水浴に行って太陽のせいで人を射殺するフランスの小説もありましたが、そこまでの深みはなくても感情の流れは時には理不尽で即時性がなくゆっくりと咀嚼していくべきものでもあるのではないでしょうか?

同じ立場の遺族・被害者でありながら全く対照的な幸夫と陽一の二人を観てそう思いました。

陽一はどこまでも単純かつイノセントで、幸夫もまっさらな感情で妻の死を悲しんでいると思っています。

幸夫はそんな陽一を眩しくも疎ましく思いながらも彼と彼の家族との交流に心を救われていくように感じます。

 

特に陽一の子供の真平と灯との交流は心が温まるものがあります。

あまり他人をフォローしたり応援したりするタイプではなかった幸夫が、他人を支えることの喜びを覚えながら心の傷を癒されてやがて贖罪を・・・。

という展開になりつつあった矢先に妻の携帯のメールを見た幸夫の心は傷つき暗転します。

まぁ、自業自得なんですけどね(笑)

しかし、メールの文面は呪いのように幸夫の心を引き裂きます。

生前に書かれた未送信のメールには彼のことをもう愛していないとの妻から書かれていました。

 

幸夫が妻の死を題材にしたドキュメンタリーで感情を吐露してカメラの前で叫び、錯乱する場面はこの映画のハイライトだと思います。

何か妻が自らの死によって自分に呪いをかけているように思えているのですね。

どこまでも身勝手な主張ですが、幸夫がずっと胸の奥で苛まされていた罪の意識や理不尽な怒りと悲しみが噴き出します。

制御できない感情の奔流。

それは、死者を想い痛む静かな感情ではないかもしれません。

でも、自分を置いていった近しい存在の人間に対しての感情はそのように整然としたものでしょうか?

時には荒々しく制御できないものかもしれないし、即時に感じることができないものかもしれない。

 

しょうがないじゃないか。

あの時、君が死ぬなんて思っていなかったし・・・。

夫婦仲も冷め切っていたし、僕も仕事で疲れきっていた・・・。

そうだろう?

お互いの時間を楽しんでいた矢先の不幸な出来事だったんだよ・・・。

 

そんな永い言い訳はもう妻には届きませんし、圧倒的な死の前では何の意味も持ちません。

 

陽一と仲違いを起こして、一家とも距離を置き、自暴自棄の日々を送る幸夫でしたが、陽一の事故をキッカケにまた一家と交流を持つようになります。

そして、ラストシーンは幸夫の小説のパーティーに陽一の家族を招待する温かいものでした。

 

 

5、終わりに

 

人間のエゴイズムを暴くモヤッとする映画でした。

まぁ、こういうのが好きなんですよ。

ラストシーンは穏やかなものでしたが、幸夫の心のモヤが晴れたわけではない。

んー、こういうのを表現したが本当に西川美和監督は上手ですね~。

めちゃくちゃエグいです(笑)

 

『ゆれる』もまた観たいし、小説版も読みたいですね~♪

hiro0706chang.hatenablog.com

 

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