1、作品の概要
『スワロウテイル』『Love Letter』『リップヴァンウィンクルの花嫁』などで有名な岩井俊二監督の最新作。
1月17日より現在公開中。
キャストは松たか子、福山雅治、広瀬すず、神木隆之介、森七奈等。
主題歌は森七奈の『カエルノウタ』で音楽を小林武史が担当。
岩井俊二監督の実話を基に、故郷の宮城県の美しい自然を背景に撮影された。
キャッチコビーは、「君にまだずっと恋してるって言ったら信じますか?」
2、あらすじ
裕里(松たか子)の亡くなった姉・未咲(広瀬すず)宛に届いた同窓会の案内状。
裕里は、未咲の娘の鮎美(広瀬すず)から案内状を預かり、未咲の死を知らせるために主席するが、周りから未咲と勘違いされて、初恋の人・鏡史郎(福山雅治)と連絡先を交換する。
夫(庵野秀明)にスマホを見られて壊されてしまうが、未咲のふりをして鏡史郎に手紙を送り続ける裕里。
一方、鏡史郎の書いた手紙が未咲の実家にいる鮎美に届いてしまい、鮎美も鏡史郎と文通をするようになる。
混線したように絡み合った手紙は、やがて過去の想いを辿り、鏡史郎、裕里、鮎美の心を激しく揺さぶるのだった。
映画『「ラストレター」』予告【2020年1月17日(金)公開】
3、この作品に対する思い入れ
少し前に書いたプレビューの記事にも書きましたが、岩井俊二監督の映画がとても好きで、『ラストレター』もとても楽しみにしていました。
キャストもストーリーも良さげだったし、『マチネの終わりに』を観に行った時の予告編が良さげでちょい泣き状態でした。
岩井俊二監督の作品は映像も音楽も美しくて引き込まれます。
4、感想(ネタバレあります!!)
①未咲の死、裕里と鏡史郎の文通
期待通りのとても良い映画でした。
心の奥にしまっている大事な過去の記憶にそれぞれ語りかけてくるような、古ぼけたオルゴールのような素敵な話だと感じました。
物語は未咲の死から始まり、裕里が未咲の死を告げに同窓会に行くも、未咲と勘違いされてしまい、鏡史郎と連絡先を交換するところから始まります。
夫にスマホを壊されたことで、未咲を名乗り裕里が鏡史郎と文通(始めは一方的ですが)を始めますが、このスマホが使えず文通をするという場面を岩井俊二監督が思いついて、物語ができていったそうです。
このSNS全盛の時代に文通をするというのが新鮮ですね。
LINEなどだと常時繋がりっぱなしで、短文でお互いの近況をやり取りしますが、手紙はタイムラグも長く繋がりもか細いですね。
ただ、それだけに手紙を待つ間に余白が生まれて、手紙を何度も読み返したり、相手の生活や状況を想像したりする時間が生まれます。
LINEだと、今なにしてる?って送ったり、その前に相手から写真や動画付きでオンタイムで情報が送られてきますよね。
だけど、文章を考えながら打つこともなく短文で送ることが多いし、読み返すこともあまりありません。
あくまで、「今」だけのもので、手紙みたいに大事にしまっておくようなものでもありませんよね。
ラストシーンで鮎美が、鏡史郎に未咲が手紙を大事にしまっておいたのを見せて「母の宝物でした」と言いますが、デジタルなデータではなく手紙だからこそ大事に取っておくこともできたのでしょう。
②鮎美の想い、真実を知る鏡史郎
未咲(実は裕里ですが) から手紙を受け取った鏡史郎ですが、未咲の宛先がわからなかったため、未咲の実家の住所に手紙を送り、鮎美と裕里の娘・颯香(森七奈)に読まれてしまいます。
こういうすれ違いって、手紙ならではで、今みたいに携帯のない時代のすれ違いって切ないですね。
爆風スランプ「大きな玉ねぎの下で」とか、若い子が聴いたらラインすりゃいいじゃんとか言われそうですが(^_^;)
ここから、鮎美と裕里が鏡史郎に手紙を送るややこしい状況になりますが、裕里が出入りしていた先生の家の住所を書いたことで鏡史郎が訪ねてきます。
慌てふためいて、義理の母が忘れていった口紅を借りてお化粧する裕里の様子が可愛いですね(^O^)
初恋の人に会うんだったら、綺麗にしたいですもんね。
余談ですが、この先生の家に義理の母が口紅を忘れていったとのことで、裕里が「なんで口紅なんか忘れていくんだろう」って呟くシーンがありましたが、お義母さんは先生に自分の想いを伝えたくてわざと忘れていったのかなと思いました。
ハンカチなどではなくて、口紅を置いておくなんて何か艶やかな話ですよね。
鏡史郎は未咲の死を知り、愕然とします。
しかも自殺で、駆け落ち同然で結婚した阿藤(豊川悦司)から暴力を振るわれて不幸な境遇だったのです。
生きていてさえくれたら、やり直しもきくかもしれませんがもう未咲は・・・。
自分の初恋の人が不幸な人生の末に自殺をしてしまったと知ったら・・・。
その喪失感の大きさは計り知れません。
ここで大学時代に鏡史郎が未咲と付き合っていて、別れた後に未咲のことを描いた小説『未咲』を書いたことを知る裕里でしたが、実はこの本は岩井俊二によって書かれているらしく、鏡史郎役の福山雅治は事前にその本を読んでから撮影に臨んでいるらしいです。
映画では、大学時代の未咲、鏡史郎、阿藤の場面は一切出てこず、観客はその場面を想像しながら鏡史郎の演技や、阿藤との会話で想像していくという演出を敢えてしていたようです。
全ては映画で表現せずに、余白の部分を作る演出が僕にとっては好ましかったです。
③手紙が紡いだ想い
映画の予告を観た時は、裕里と鏡史郎の不倫展開になるのかと少し思いましたが、この映画はそんなドロドロした話ではなく、過去の想いを裕里、鏡史郎、鮎美が手紙を通じて辿ることで、前を向いて生きていく力を得ていくという話であったかと思います。
母校を写真に収めようと母校を訪れていた鏡史郎は、偶然鮎美と颯香の姿を見かけて声をかけます。
あの頃の未咲に瓜二つの鮎美(まぁ、広瀬すずの1人2役ですからねw)に驚きを隠せない鏡史郎は鮎美が実家から鏡史郎に手紙を書いていたことを謝罪し、「母に会って欲しい」と、鏡史郎を家まで連れてきます。
未咲の仏壇に手を合わせながら堪えきれずに涙を流す鏡史郎。
ずっと想い続けていた人が亡くなってしまった事実を受け入れるのはどんな気持ちなのでしょうか。
大きな喪失感を感じる鏡史郎でしたが、鮎美から未咲の想いを聞かされて、未咲もずっと自分のことを大事に想ってくれていたことを知るのでした。
本にまで書いた未咲への想いはちゃんと届いていて、宝物のように自分の手紙をしまっておいてくれた。
鮎美の話を聞いて、熾火のように燻り続けていた鏡史郎の想いも、浄化されたのでないでしょうか。
そして、鮎美もその手紙と本を読んで、いつか鏡史郎が迎えに来てくれると信じていました。
暴力を振るう父・阿藤から母娘を救ってくれると。
結局、その希望は叶いませんでしたが鏡史郎と対面して母の想いを告げることで、鮎美もまた母の死から立ち直って前を向くことができたのではないでしょうか。
最後に鏡史郎は裕里に会いに来て、握手を交わします。
裕里もまた憧れだった存在の鏡史郎と握手をすることで、自分の初恋にいい形でピリオドが打てたのだと思います。
デビュー作『未咲』以来、一作も書けていなかった鏡史郎は裕里から「亡くなった人を書いてくれるとまだその人が生きているような気がするから」と言われて、再び未咲のことを小説に書くことを決意し、夢を追い続けることを決めました。
過去を振り返って整理することで新たに未来を生きる力に変えていくことができる。
そんなことを『ラストレター』を観て僕は考えました。
5、終わりに
劇中で鏡史郎は44歳で裕里が43歳で僕の年齢(42歳)に近いこともあって自分の学生時代なんかを思い出しました。
卒業式の挨拶に、生徒会長だった未咲が自分たちの行く先には可能性が溢れているみたいな話をしていましたが、実際には25年後に自分が自ら命を絶っているなんて露ほども思わなかったでしょう。
年をとって時間が流れていくということは、一面的には学生の頃には無限だったはずの可能性が少しずつ削り取られて限定されていくことだと思います。
何かを諦めていくことでもあるとも言えるでしょう。
ちょっと悲観的な言い方ではありますが、僕達はそうやって生きていくのだと思います。
僕は基本的にあまり過去は振り返らずに、常に自分の可能性を広げていきたいとは思っていますが、それでもこの映画を観て自分が失った可能性や、戻らないかけがえのない時間を思い出さずにはいられませんでした。
『ラストレター』はそういったひとりひとりの胸の奥にしまってある大事な記憶に語りかけるような切ない映画だったと思います。
岩井俊二監督の作品を観た後のこの何とも表現し難い切ない気持ち、喪失感。
村上春樹の『ノルウェイの森』を読んだあとのような気分になりました。
ドローンで俯瞰で撮られた宮城の美しい風景、光を上手く使った映像が脳裏に刻まれて、小林武史の音楽とともに脳裏を流れています。
主題歌『カエルノウタ』もとてもいい曲で辿たどしいけど、澄んだ森七奈の歌声が映画の雰囲気にハマっていました。
歌自体は決して上手ではないのですが、透き通るようなイノセントな歌声が独特の魅力で、敢えてこういう感じを岩井俊二監督が狙ったのだなと思いました。
遠い記憶・思い出に訴えかけるような優しい歌声だと思います。
岩井俊二監督特別編集 映画『ラストレター』版主題歌カエルノウタMV
森七奈の演技良かったです。
天気の子の陽菜役もやっていたんですね~。
オーディションで役をゲットしまくってるらしくて、見かけによらず強心臓みたいですね。
まだ原作を読んでないので読んでみたいです!!
あと、SWITCHで岩井俊二特集をやっているみたいなんで、明日仕事終わったら、本屋にDASHやで!!
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