1、作品の概要
『PERFECT DAYS』は日本・ドイツ合作の映画。
日本では2023年12月22日に公開された。
監督・脚本は、『ベルリン・天使の詩』などのヴィム・ヴェンダーズ監督。
主演は役所広司。
塚本時生、中野有紗、石川さゆり、三浦友和、田中泯らが出演している。
上映時間は124分。
第76回カンヌ国際映画祭に出品され、役所広司が男優賞を受賞、作品がエキュメニカル審査員賞を受賞した。
第96回アカデミー賞では、国際長編映画賞にノミネートされた。
第47回日本アカデミー賞で、最優秀作品賞、最優秀監督賞(ヴィム・ヴェンダーズ)、最優秀主演男優賞(役所広司)を受賞した。
東京を舞台に、トイレ清掃員の男の日常を描いた。
2024年12月現在、アマゾンプライムビデオで無料配信中。
2、あらすじ
東京の古びたアパートに一人で暮らす初老の男・平山。
彼は車で東京の公園のトイレを清掃して回る、トイレ清掃員だった。
早朝に目覚めて丁寧に仕事をして、銭湯で風呂に入り、なじみの居酒屋で夕食を食べて、文庫本を読みながら眠る。
ミニマムで繰り返しの生活。
そんななんでもない日々の中、無口で熱心なトイレ清掃員・平山が心動かされた出来事とは?
3、この作品に対する思い入れ、観たキッカケ
以前から観たいと思っていた映画で、レンタルで観ようかと思っていたらアマゾンプライムビデオ様が12月20日により配信を開始なされるとのことで、拝見させて頂きました。
アマゾンプライムビデオ様!!最強!!最高!!
12月は、『シビル・ウォー』『怪物』『オッペンハイマー』『劇場版SPY×FAMILY CODE:White』とか見放題無料配信開始で、アマゾン様の本気を感じました。
こういう日常に潜むドラマみたいな地味な映画がたまらなく好きだったりするので、非常に心に沁みました。
ヴィム・ヴェンダーズ監督は『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』がすごく良かったのですが、ほかの映画はまだ観たことがないので、『ベルリン・天使の詩』など観てみたいです。
4、感想(ネタバレあり)
別にネタバレがどうこういう映画ではないですがいちおう(笑)
平山のミニマムな生活。
繰り返される生活の所作が、貧しいけれども丁寧で美しく感ぜられて、「清貧」という言葉を思いました。
早朝に寺の掃き掃除の音で目覚めて、布団をたたみ、歯磨きをして、ひげの手入れをして、木に水をやる。
玄関先に並べた鍵、カメラ、小銭などの必需携帯品を取ると、ドアを開けて上目で空を見上げる。
晴れていても、曇っていても、平山の表情は笑みを湛えていて、一日の始まりを祝福しているかのように見えます。
アパート前の缶コーヒーを買って、車を走らせ、カセットテープで古いロックを聴く・・・。
これだけのなんてことない場面ですが、ドキュメンタリーっぽい感じの映像でいい感じでした。
脳内で「トイレ清掃員の朝は早い・・・」とナレーションが流れてきそうな(笑)
冒頭の東京の朝焼けの映像、風に揺れる木々、平山が運転する車から見える早朝の街と人々の姿。
都会の風景に潜む美しさを映像化しているところに、作り手の鋭い感性を感じました。
無口な平山は、セリフが極端に少ないのですが、不愛想かというとそうではなく、目で表情で感情を表現しているところが良かったですね。
特に、目の演技。
「目が笑ってない」っていう表現がありますが、平山は逆に言葉の代わりに目で喜びや、相手への好意や受容を表現していて、役所広司の演技が本当に秀逸だと思いました。
同僚のタカシからは無口で淡々と仕事をしているようなイメージで見られていますが、日常の中のふとしたことに喜びを感じるその生き方は、何か大きな刺激がないと喜びを感じられなくなってしまった多くの現代人からみて、つつましく微笑ましい平山のキャラクターを感じました。
もともと、『THE TOKYO TOILET』とというプロジェクトのための短編オムニバス映画になるはずが、日本の公衆トイレの清潔さに感銘を受けて長編映画として作られたのが『PERFECT DAYS』だったとのこと。
そのような世界でも類を見ないような清潔な公衆トイレが誰の手によって、どのように維持されているが?
住居や生活ぶりからも、さほど高い収入は得ていないことを窺わされる平山。
しかし、自前の清掃道具を用意するほどの情熱とプロ意識を持って仕事をしていて、どこか職人めいたストイックさを感じます。
公衆トイレで泣いていた迷子の子供と手をつないで一緒に母親を探していて、母親を見つけたけどその母親は平山にお礼も言わずに、子供の手をウェットティッシュで拭いて足早に去っていく場面。
僕だったら「このドグサレビッチが〇〇を××して△するぞ!!ごらぁ!!」とかのたまうところですが、平山は無言で親子を見送ります。
子供が振り向いて手を振ってくれたのが救いでしたし、手を振り返す平山の笑顔も印象的でした。
しかし、このように誰かがやってくれているから、支えてくれているから、自分たちの快適で豊かな生活が成り立っているのに、そのことに対するリスペクトを忘れてしまっている人たち。
トイレ清掃員という仕事を下に見て、違う世界にいる人たち。
そこにはひとつの分断がありました。
のちに姪のニコに語る「この世界はいつくもの世界がある」という言葉はそんな分断を表現した言葉だったのでしょう。
職業に貴賤はないというと、偽善のように思われるかもしれませんが、社会の片隅で人知れずにプロ意識を発揮してくれている誰かがいて、この社会がより快適に成り立っているかもしれないという可能性に思いを馳せざるをえませんでした。
おそらく50代で、一人暮らしの平山。
何かが過去にあったような雰囲気はあるのですが、そのエピソードは全く語られず、そこがまた良かったです。
繰り返される平凡な日常の中にふと顕れる美しく、喜ばしい瞬間。
見知らぬ人との一期一会の交流であったり、神社の木漏れ日の美しさであったり、トイレ内に残された紙切れでの見知らぬ誰かとの〇×ゲームだったり・・・。
そういう何でもない瞬間に大きな幸福を感じられる平山は、周囲が考えるより幸福度が高い人間のように見えました。
昔、オランダだかどっかの人が明治維新後の日本の農村に来て、「貧しいがみなとても幸せそうだ」と記したと言いますが、足るを知り、日常の小さな喜びを感じ、神様や自然に感謝して日々を生きる。
まさに平山の生き方だと思いますし、ありきたりで繰り返しの毎日が、完璧に幸福な日々なのだと思います。
姪が家出してきたエピソードで、一緒に公園で写真を撮る場面とか動作がシンクロしていて微笑ましかったです。
もしかしたら、本当は親子なんじゃ・・・?
と、妹が来た時にハグする場面でちょっと思いました。
妹とハグする?うちはしないよ・・・。
妹?が乗ってきたのはお抱え運転手つきの高級車。
そして、父との深い確執。
かつては経済的にも豊かな生活をしていたけど、窮屈な生活に耐えかねて家を出奔し、父とも縁を切った。
そんな平山の過去が想起させられる場面でした。
ラストシーンの泣き笑いの場面も、かかっていた音楽と平山の過去との関係性。
彼が失ってきたものに対して考えさせられる味わい深いラストシーンでした。
5、終わりに
ルー・リード、パティ・スミス、ニーナ・シモン、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ヴァン・モリソン、オーティス・レディングと、70~80年代のミュージシャンたちの名曲に彩られた良い映画でした。
まあ、僕は1曲も知りませんでしたがね(笑)
カセットテープで聴いてるってのもいいなぁ。
なんか村上春樹の小説の主人公みたいなアナログっぷりでしたなぁ。
僕も平日の休日なんかとても孤独で、どこかルーティン化されています。
朝のジョギング、ブログ、読書、ジム、夕食づくりみたいな(笑)
ただその平穏が愛おしく感じられて、これが歳を経るということか、と最近よく思っていました。
まあ、まだ47歳なんですがね(;^ω^)
『PERFECT DAYS』は心に沁みて、長く清冽な余韻が続くような素晴らしい映画でした。
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