ヒロの本棚

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【本】川上弘美『真鶴』~ぼやけて滲んでいく境界線。常世と現世。現実と夢想。果たして実存とは?~

1、作品の概要

 

『真鶴』は2006年に刊行された川上弘美の長編小説。

平成18年度芸術選奨文部科学大臣賞した。

文庫版で259ページ。

突然失踪した夫を想いながら、京は日記に残された手がかり「真鶴」へと向かう。

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2、あらすじ

 

12年前、突然失踪した夫の礼。

残された妻の京は、娘の百と母の3人暮らし。

恋人の青茲と逢瀬を重ねても、礼のことを忘れられず、彼の生存と帰還をあきらめることはできなかった。

礼の日記に残された「真鶴」の文字に導かれて、真鶴に何度も足を運ぶ京。

京は、女の亡霊に導かれて、礼の姿をあの日に何があったかを追い求めるが・・・。

 

 

 

3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ

 

川上弘美も定期的に読みたくなる作家の1人で『真鶴』は以前から読んでみたいと思っていました。

装丁も、「ん?新潮文庫三島由紀夫?」と見まごうばかりのインパクトあるデザイン。

あらすじも謎に満ちている物語の片鱗がかぐわしく感じられて読書欲をそそりました。

ブックオフの100円コーナーで見つけて即ゲットしました。

 

地名の真鶴は行ったことはありませんが、以前東海道線の駅がある戸塚に住んでいたこともあり、なんとなく親しみがありました。

伊豆、箱根あたりも好きですし東海道線沿いの駅はそこはかとなく情緒があって好きです。

昔、彼女が東海道線の駅がある街に住んでいて、彼女の住む街まで送って行って、戸塚まで帰ったりしたこともあったのを思い出しました。

hiro0706chang.hatenablog.com

 

 

 

4、感想(ネタバレあり)

 

川上弘美は、作品によって全く違った顔を見せるような印象の作家で、『溺レル』『センセイの鞄』『古道具 中野商店』『ニシノユキヒコの冒険』『光ってみえるもの、あれは』『七夜物語』『某』『三度目の恋』などを読みましたが、作品によって受けるイメージは本当に様々です。

個人的に、川上弘美の作家性が一番色濃くにじみ出るのが、現実世界と異世界の狭間を行ったり来たりするような物語だと思います。

『真鶴』はまさに現実世界と異世界を行ったり来たりしながら、その境目がぼやけて京とついてくる女の存在が重なり合っていくような、個人的には川上弘美の物語の真骨頂が体感できる作品だと感じました。

 

文章、文体も面白く、簡潔で句読点が多めの文章でした。

ひらがなも多用されていて、この文体好きですね。

すごくリズムを感じさせるような。

この作品の雰囲気にもあっているように思います。

ふえゆくことが、うとましいのだろうか。からだや、きもちや。子供を倦もうも生もうとしている女も、そういえば、うとましい。もてあました。百を生もうとしていた自分を。

 

作品のテーマも、いるもの、いないもの、「存在とは何か?」を描いたものらしいですね。

いるものと、いないもの。

死者と生者。

死と生。

現実世界と異世界

男と女。

東京と真鶴。

対比して描かれるふたつのものの間で、実存は揺らぎ、混じりあってその境目をぼやけさせていきます。

まるで川と海の境目の汽水域で海水と淡水が混じりあうみたいに。

この電車は、真鶴と東京を結ぶいれものだ。わたしのからだを。まぼろしからうつしよへ、またはんたいに、今生から他生へはこんでくる、いれものだ。

 

真鶴は、礼につながる何かがあるところで、京にとってはあの世とこの世の境目のような場所だったのでしょうか?

はっきりとは明かされていませんが、やはり礼はどこか行き止まりのような場所で自ら命を絶っていて京もその場所へと、常世へと一旦は足を踏み入れようとしました。

しかし、ついてくる女に引き止められるようなかたちでこちらに戻ってきました。

ついてくる女との距離感、関係性は京が現世と常世のどちらに足を踏み入れているかのバロメーターで、2人の距離が近い時はより深く京が常世へと足を踏み入れていた時なのだと思います。

そう考えると、そもそも礼が失踪してから「ついてくるもの」をはっきりと認識するようになったのは、京自身が常世に、死に近づいていっていたことの証なのかもしれませんね。

 

物語の中盤以降に頻回に描写される夢幻の世界。

どこまでがあったことで、どこまでがなかったことなのか。

夢なのか、現実なのか。

そんな境界線もぼやけて滲んでいきます。

結局、礼の失踪も生死もはっきりとわからず、京が忘れていたこと(首にほくろのある女との密会を目撃したこと、礼の首を絞めたこと)の真偽も定かではないまま物語は閉じていきます。

しかし、真鶴でのできごとを経て京は礼に対してのひとつの決着をつけるように失踪届を提出します。

真実はわからなくても、彼女なりに前に進むことを決意させる何かが真鶴にあったでしょう。

hiro0706chang.hatenablog.com

 

 

 

5、終わりに

 

いや~、現実と夢想の狭間を行ったり来た入りする感じが良かったです。

村上春樹の作品でもそうですが、そういう境界線を描いた作品が好きですね。

それに何もかもビッシリ書き込まれて説明されると、ちょっと興醒めしてしまうというか。

余白がある終わり方が好きですね。

人によってはモヤモヤするんだと思いますが。

 

んー、やっぱり川上弘美好きだなぁ。

独特の隠微で淫靡な世界観がたまりません。

しかし、好きな作家さんが増えすぎて収集がつかなくなってきていますね(;^ω^)

1週間ぐらい休暇を取ってセブ島とかでゆったり読書したり、泳いだりするバカンスしてみたいっすなぁ。

 

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