ヒロの本棚

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【映画】『空白』~空っぽの世界に、光はあるか~

1、作品の概要

 

『空白』は、2021年9月に公開された日本の映画。

監督、脚本が『ヒメノアール』などの吉田恵輔

主演が古田新太で、松坂桃李田畑智子、藤原季節、寺島しのぶ片岡礼子らが出演している。

スーパーの万引きをした女子中学生がスーパーの店長に追いかけられている最中に交通事故死し、その父親が執拗にスーパーの店長を追い詰めていく。



 

2、あらすじ

 

添田充(古田新太)の娘・花音は、「スーパーアオヤギ」で万引きの罪に問われて店長の青柳直人(松坂桃李)から追いかけられている途中に交通事故で亡くなってしまう。

娘が万引きの罪を犯していたことを認められない充は、謝罪に来た直人を罵倒する。

娘の汚名を晴らしたい一心からモンスター化していく充。

虚実入り交じった報道をするマスコミの介入も悪く作用し、事態は混迷していき直人は追い詰められていく・・・。


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3、この作品に対する思い入れ、観たキッカケ

 

古田新太は、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の脇役でゲイでユニークなキャラクターを演じていて、好きな役者さんでしたが、今作では一転娘を失ってモンスター化していくヤバい父親の役をやっています。

なんとなく僕の中で佐藤二朗とも被るイメージがある俳優さんなんですが、普段おちゃらけキャラの人が演じるキレ役ってインパクトありますね(^_^;)

『はるヲうるひと』の佐藤二朗もめちゃくちゃ暴力的なキレ役で怖かったです

hiro0706chang.hatenablog.com

そんな古田新太のモンスターぶりがメインの映画だと思って観てみましたが、「赦す」「赦される」ことなどとても深いテーマについて語られていてめっちゃいい映画でした。

 

 

 

4、感想(ネタバレあり)

 ①赦す赦される

罪を犯して取り返しのつかない過ちを犯してしまった人間が、その遺族に赦されたいと願う。

しかし、被害者遺族である充は赦すことができない。

娘の花音の死を受け入れることもできずに、「学校でいじめがあったのでは?」「スーパーの店長が万引きだと勘違いしたのでは?」と、そこに何かしら他者の悪意や過ちがあったと信じ、周りに自らの想いを認めさせようとモンスター化していきます。

 

たまたま不幸な事故で亡くなってしまった。

そんな理不尽さを受け入れることはとても難しいことだと思います。

でも、この世の中はたまたま交通事故に巻き込まれて死んでしまったり、たまたま病気にかかってしまって亡くなってしまったりと、不条理だけどどうしようも抗えない運命のようなものがあると思います。

そんな不条理さを受け入れて、他者を赦すということはとても難しいことなのだと思います。

 

ちなみに赦す、赦される関係について立場を変えて描いた作家が『流星ワゴン』などの重松清です。

カシオペアの丘で』『十字架』『かあちゃん』で自身も自嘲気味に「赦し、赦される3部作」みたいに語られていたのではなかったかと思いましたが、罪についての深く重い話が描かれていて、大変考えさせられる作品でした。

 

飛び出してきた花音を車で轢いてしまった女性が、母親(片岡礼子)と一緒に何度も涙ながらに謝罪に来るのだけれど、充は赦すことができない。

その女性は真面目で繊細な人なんでしょうが、そこで被害者の遺族からの赦しを得ようとするのも難しいし、充でなくてもなかなかできないのではないでしょうか?

誠意ある謝罪は必要だと思うのですが、相手からの赦しを得ることを期待してはいけないと思いますし、却って感情を逆撫でしてしまうこともあるのだと思います。

 

②娘の想いを知り、自らの誤ちを受け入れる

結局、花音を車で轢いてしまった女性は罪の意識に苛まされて自殺してしまいます。

痛ましすぎて、とてもやるせない・・・。

彼女の通夜を訪れた充は、罵倒されるかと思った彼女の母親から逆に謝罪をされて、自らの行為を省みるようになっていったのではないでしょうか?

「あなたは花音の何を知っていたのよ!!」と元妻からの痛い一言もありました。

 

花音、花音と言う割には、生前は娘が言うことに耳も傾けずにほとんど交流もなかった充は娘が好きだったこと、絵を描くことや、漫画を読んだりして少しでも娘が感じていたことを知ろうとします。

その過程で、いじめられるほど目立った存在感はなくクラスでも空気のような存在だったこと。

実はマニキュアをこっそり持っていたことを知ります。

花音の死は、いじめが原因によるものでもなく、万引きもしていたかもしれないという疑念も湧いたのかもしれません。

 

頑なだった充の心は少しずつ解けていったのだと思います。

充に寄り添い続けた漁師の後輩である野木(藤原季節)の存在も支えになったのでしょうか?

野木が充にぞんざいに扱われながらも、彼のことを気にかけたのは漁に出たままま帰らなかった父親の姿を充に重ねていたからでしょう。

藤原季節、佐々木インマイマインにも出演していましたが、気になる俳優さんですね。

 

元妻を怒らせてしまってから、「すまなかった」と謝罪をしたり、花音の真似をして絵を描いてみたり。

3頭のイルカの絵を描いた充が花音も同じように3頭のイルカを描いた絵を発見した時。

これまで感じられなかった花音の心の声が聞こえたように感じたのではないでしょうか?

花音の3頭のイルカは充、母親、自分の3人を象徴していたのだと思いますし、本当は3人が一緒に暮らしたかったという心の声に他ならなかったのだと思います。

 

③空白とは?

「スーパーアオヤギ」は閉店に追い込まれて、父親から受け継いだ店を直人は失ってしまいます。

しかも、町の人たちは直人のことを覚えていて、後ろ指をさされる日々。

車で花音を轢いてしまった女性のように直人も自殺をしようとしますが、すんでのところで止められます。

一命は取り留めたものの、全てを亡くしてしまった直人。

 

ラストシーンで冷静になった充はいつか直人に謝りたいと言いますが、そんな言葉も届かずに土下座を繰り返す直人。

気持ちが乱れて思わずタバコを反対に咥えてしまい「疲れたなぁ・・・」と心の底から絞り出すように充がつぶやくシーンがとても印象的でした。

 

罪を犯して1人の命を奪ってしまった直人と、一人娘の命を奪われてしまった充。

人ひとりの命が消えてしまったその空白は、これだけの大きな人間の運命を狂わせてしまう。

赦すのか赦さないのか。

何が真実なのか?

多くの後悔と、選択と、傷とたくさんの悲しみを生まれる。

 

とてもやるせない気持ちになる映画でしたし、登場人物たちは多くの大事なものを失いましたが、人間の心の奥底まで覗き込むような深みをもった素晴らしい映画だったと思います。

世武裕子さんの音楽も美しくてエンドロールも心に沁みました。


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5、終わりに

 

結局、花音は万引きをしていたのか?

直人が女生徒に性的なことをしていたというのは事実だったのか?

何故、花音は走って逃げていたのか?

そういった真実の『空白』を孕みつつ物語は終わります。

どことなく『ゆれる』や、『楽園』を彷彿とさせるような物語でもあったような気がします。

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