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【映画】『本心』~愛する人の本当の心をあなたは知っていますか?~

1、作品の概要

 

映画『本心』は日本の映画。

2024年11月8日に公開された。

原作は平野啓一郎の長編小説『本心』

監督は『舟を編む』『月』などの石井裕也監督。

主演は池松壮亮

田中裕子、三吉彩花、仲野太賀、水上恒司、綾野剛妻夫木聡らが出演している。

上映時間は122分。

 

 

 

2、あらすじ

 

同居していた母親(田中裕子)を亡くした朔也(池松壮亮)は、彼女が自由死を希望していたことを知らされて、愕然とする。

納得がいかない朔也は、母親のVF(ヴァーチャル・フィギュア)の作成を依頼して、VFを通じて母親の秘められた本当の気持ちに触れようとする。

VFのデータ収集のために、母親が以前懇意にしていた三好(三吉彩花)と連絡を取り、被災中だった彼女は朔也と同居することになる。

朔也にリアル・アバターの仕事を紹介した幼馴染の岸谷は、三好との同居を知り、過去と同じ過ちを繰り返すのではないかと朔也に詰め寄る。

しかし、朔也と三好は少しずつ距離を縮めていき、VFの母親と3人の同居生活は穏やかに過ぎていっていた。

そして、朔也は今まで知り得なかった母の気持ち、想いに触れるのだった・・・。


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3、この作品に対する思い入れ、観たキッカケ

 

好きな作家・平野啓一郎が原作の作品で、これまで彼の作品が『マチネの終わりに』『ある男』と映画化されていて、どちらの映画も大当たりだったので、『本心』も観ようと思いました。

しかも、監督・脚本が『月』の石井裕也監督で、主演が池松壮亮というところも惹かれました。

原作からの改変部分も多くありましたが、個人的にはとても良い映画だったと思います。

hiro0706chang.hatenablog.com

 

 

 

4、感想(ネタバレあり)

①原作との違いについて

原作はとても長い作品なので、改変されるのは致し方ないところですが、思ったより大胆に改変が行われていました。

個人的には、これはこれでアリだなと楽しめましたが、原作ファンからは賛否両論出るかもしれませんね(;^ω^)

原作と違っていた部分は、母親の死と自由死の告げられ方、朔也が事故に遭って1年間意識がなかったこと、原作は2040年の話だったのに対して、映画の舞台は2025年でした。

ここ数年のAI、ARなどの技術の進歩で、2025年の話にしてもそれほど違和感はありませんでしたが、母親がロストジェネレーションで、そこからの貧困などの話に繋がっていくのですがそこはちょっと原作と違った部分でした。

 

岸谷が幼馴染で、朔也をリアルアバターの仕事へと誘うのも、原作から大きく設定が変わった部分でしたが、高校の時の事件の変更とも併せて良い改変だったと思います。

全体的に母親が抱えていた秘密や、母親が朔也のことをどう思っていたかを掘り下げるより、朔也自身が感じている生きづらさにスポットが当てられている内容だったかと思います。

 

②仮想現実とAI

ヴァーチャル・リアリティーとAIの急速な発達。

映画の中で、この2つの技術を融合させて作られたVF(ヴァーチャル・フィギュア)の技術は、今後現実に登場してもおかしくないものだと思いましたし、リアリティーを感じました。

朔也が初めてVFの技術を開発者の野崎から披露された時の反応はリアルで、現実と仮想現実の区別が曖昧になっていく怖さを感じました。

 

AIに心はあるのか?

という、問いかけも面白いと思いましたし、今後興味深いテーマになっていくように思いました。

触れることはできませんが、学習して母親らしくなっていくVFとのやり取りを見ていると、現実と仮想現実の境目がどんどん曖昧になっていきそうで、背筋が寒くなりそうでした。

そのうち、仮想現実に引きこもったまま出てこなくなる人とか出てくるかもしれませんよね(;^ω^)

初音ミクと結婚した人がいて、笑いのネタになっていましたが、あながち笑えない時代がくるかもしれない。

 

現実の世界でいやなことがあって、家に帰ってゴーグルをつけるとそこにはアン・ハサウェイがいて、優しい言葉をかけてくれるわけですよ。

あなたはこんなにいいところがあるんだから、とか言って励ましてくれるわけですよ。

自分にとって都合よく改変された虚構の現実。

そこに逃げ込みたいと思う欲求は、誰しも持っているものなのかもしれないですね。

 

映画では朔也と三好の初対面で軽く触れられただけでしたが、アバターを使った仮想空間でのコミュニケーションも、おそらくここ数年で急速に発達しそうな分野ではありますよね。

いきなり、リアルで会うのは怖いからまずは仮想空間でとか。

自分の顔を晒さなくてもいいのもメリットかもしれませんね。

 

③貧困とリアルアバター

小説『本心』の重要なテーマであった、貧困と格差の問題も映画で取り上げられていました。

ロストジェネレーション、いわゆる氷河期世代とも評される今の40代後半の世代だけではなく、全世代で格差が広がっていっていて、今後は大きな問題になってくると思います。

あちら側と、こちら側みたいな言葉でも映画の中で表現されていたように思いますが、今後は貧富の差、いわゆる勝ち組と負け組がはっきりと分かれてくるように思います。

 

朔也、三好、岸谷も20代後半~30代前半ぐらいで安定的な収入を得られずに経済的に不安を抱えながら生きている人々。

朔也は、暴力事件のせいで高校を卒業できずに「前科者」としてまともな職に就けない。

三好は、実家の貧困でセックスワーカーとして若い時から稼ぐしか選択肢がなく、そのせいで他人に触れられないようなトラウマを抱えてしまっています。

岸谷はなんかよくわからないけど、まともな仕事に就いていない感じっすね(笑)

 

朔也と岸谷が働いていた工場が潰れ、リアルアバターの仕事を始めますが、最初は順調だったものの、悪質な客に低評価されたり、契約している会社はAIが機械的に評価を受け入れて、評価が3.5以下になるとバッサリ契約を切られてしまう厳しさ。

とても、不安定な仕事で、底辺にいる人間がする仕事として描かれていました。

一生懸命やっても報われず、周囲の人から蔑まれて、観ていて辛かったですね・・・。

 

僕はたまたま定職に就けて家庭を持つことができましたが、一歩間違えると彼らのような境遇になっていたかもしれない。

いや、僕も低収入の介護ショック員で、上から目線で見るほどのことではないのですが、住む家もなくて、ガスも止められるような苦境に陥っていたかもしれないと思うと身震いします。

そして、そういう貧困状態との差は本当に紙一重で、自分も1歩間違えたらそうなっていたかもしれないし、また今後1歩間違えるとそういう状態に陥るかもしれない、と強く感じました。

 

岸谷が、なんかヤバそうな仕事をしていて、それが政治家を暗殺するドローンを作成して起動させる仕事だったというのは、なにか現在問題になっている闇バイト問題を想起させられる話でした。

やっぱり、うまい話には裏があるんですよねぇ・・・。

原作とは違った形で描かれて、映画では重要人物になっていた岸谷のキャラクターがとても良かったです。

岸谷役の水上恒司の演技も、印象的でした。

 

④最愛の人の他者性

『本心』の原作者・平野啓一郎が提唱する分人主義。

自己は絶対的な一つの存在ではなく、関わっている他者の数だけ変容していくという考え方だと僕は理解しているのですが、この作品の最も大きなテーマは最愛の人の、最も身近にいたはずの人の他者性にあると思います。

正直、映画『本心』ではこの部分の掘り下げかたがなかなか難しかった部分もあったのかなとは感じましたが、それでも朔也が優しくて純粋だから伝えられないことがあるみたいことを三好に漏らしていたりと、一番近しくて愛しい存在だからこそ、見せられな一面があるということがあるのかもしれないと思いました。

 

家族だと、余計に「役割」が付きまとってくるので難しいように思います。

父親、母親、子供。

それぞれ、「らしく」あることを要求される局面があるのが、家族という関係性の呪縛のように時に思います。

 

でもね、時には親って子供に対してありのままの本心を言えないってこともあるのかなって思います。

特に母親って、母親らしくあらなければならなないみたいな社会からの圧力がまだまだあるんじゃないかなって思ったりもしますし。

ちょっとずつ、認識が変わってきているようにも思いますが。

 

僕自身でも、父と、祖母が亡くなって、母親が一人になってから聞く本音に当たり前なのだけど「ああ、母も一人の人間だったのだ」と感じることが多々あります。

そして、母がいかに今まで「母親」という役割を背負わされてきたのかに対してさまざまな想いを抱きます。

もちろん、すべてが偽りではなかったでしょうし、背負わされたものだけではないでしょうが、家族の形態が変化して一人の人間として向き合うにあたって、子供のころに思っていた母のイメージとはまた少し違った一人の女性のリアリティが立ち上がってきます。

 

朔也が感じた戸惑いも少しイメージできる気がします。

母親と子供の関係性だからこそ、見せられない一面があったりするのだと思います。

自由死を選択しようとしていたのは何故か?

朔也の出生にまつわる秘密なども含めて、愛する近しい人間にも、自分が知り得ない別の顔が存在する。

そのことをどうやって受け入れていくのかという過程が映画の中でも描かれていました。

 

そして、個人的にとても好きなラストシーン。

母親の想いを受け入れて、空に向かって手をかざす朔也の手に、震えながら誰かの手が重なる。

三好が朔也と共に生きていこうと歩み寄ったことを暗示するラストシーンは心地良いものでした。

 

 

 

5、終わりに

 

とてもドラスティックな改変で驚きましたが、原作とはまた違った切り口で物語が生まれ変わっていて、とても興味深く楽しく観られました。

キャストもとても良かったですし、主演の池松壮亮ももちろん、母役の田中裕子さんもさすがの演技でした!!

仲野太賀のイフィー役もハマっていたと思いますし、チョイ役に綾野剛が出てたりとか贅沢な配役でしたね(笑)

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