ヒロの本棚

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【本】高瀬隼子『犬のかたちをしているもの』~わたしのほしいものは、子どもの形をしている~

1、作品の概要

 

『犬のかたちをしているもの』は、高瀬隼子の中編小説。

高瀬隼子のデビュー作品。

第43回すばる文学賞を受賞した。

2020年2月に集英社より単行本を刊行し、2022年8月に文庫本を刊行した。

文庫本で145ページ。

卵巣の病気を持つ女性が、彼氏の子供を身籠ったと見知らぬ女性から告げられる。

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2、あらすじ

 

薫は、21歳の時に卵巣の腫瘍除去の手術を受け、4年前に再発していた。

彼女は、病気のこともあり付き合った男性と数か月するとセックスレスになってしっていた。

半同棲で3年以上付き合った郁也からある日呼び出されて、金を払ってセックスしたミナシロさんが身籠ったと告白される。

同席していたミナシロさんから、子供をもらってほしいと頼まれるが・・・。

 

 

 

3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ

 

高瀬隼子は芥川賞を受賞した『おいしいごはんが食べられますように』がとても印象的かつ不穏な作品で、他のも読んでみたいと思っていました。

そんで、なんとなく次に読む本が思いつかないみたいなたまにあるエアポケット状態になった時に読んでみたいと思いついたのがこの『犬のかたちをしているもの』でした。

Xでどなたかが感想をポストしていましたが、あらすじだけですでにざわつく感じで気になっていて・・・。

新刊で文庫本を買って読みましたが、とてもえぐられる内容でした。

hiro0706chang.hatenablog.com

 

 

 

4、感想(ネタバレあり)

 

『犬のかたちをしているもの』は、女性視点で性と生殖をとても生々しく描いた作品だと思います。

性というと官能的なものというイメージがありますが、性を扱った作品でありながらそんな甘やかな要素は皆無で、徹底的にリアルな問題として扱われています。

いやー、これがデビュー作だとは恐れ入りました。

短いながら、強烈な作品です。

 

薫は21歳の頃に卵巣の腫瘍除去の手術を受けていて、また再発してしまっています。

病気のせいもあって、途中でセックスできなくなってしまう薫。

現在付き合っている郁也とも、4か月ほどでセックスレスになってしまっています。

それでも構わないから薫と一緒にいたいという郁也と3年付き合っていましたが、実は郁也はお金を払ってミナシロさんとセックスをしていて・・・。

いや、男ってやつぁ。

どうしようもないオチンチンですね。

 

恋愛とセックス。

恋愛をするともれなく付いてくるのがセックス。

パスタランチにサラダが付いてくるみたいに。

セックスを嫌いな男性はあまりいないような気がするけど、セックスをあまりしたくない女性は一定数いるように思えるし、相性とか配慮とか、男性側に問題も多いことも多々あるのでしょう。

 

性欲があるのは種の繁栄のためのシステム。

生物として致し方ないこと。

ただ、社会の中ではうまくコントロールすることが求められるし、パートナー以外とのセックスは信頼関係を損ねることになる。

 

郁也の気持ちもわからんでもないけど・・・。

その過ちが生命の誕生に結びついてしまう。

セックスは生殖行為。

快楽は種の保存のためのエサで、本来の目的は産み増やすことにあります。

 

ミナシロさんの提案、彼女の子供を郁也がもらうこと。

そして、彼女がはっきりとは言わないけれど、薫と郁也がミナシロさんが産んだ子供を育てること。

これが最初からビジネスの形なら代理出産としてアリなのでしょうが・・・。

郁也の浮気の結果ということなので複雑です。

でも、薫も郁也のことを簡単に切れない、別れられない。

彼のことが好きということもありますし、過ちを犯したものの、これだけ薫のことを受け入れて愛してくれる存在はそうはいないからだったのかなと思います。

 

犬のかたちをしているもの。

むかし飼っていた犬のロクジロウに対してのような無償の愛情。

そんな愛情を誰かにそそぐことができるのか?

タイトルと、繰り返し出てくる犬のロクジロウの話はそんなことを訴えかけていたように思います。

 

卵巣の病気をしているけど、子どもを産めないと決まっているわけではなく、もしかしたら産むことができるかもしれない。

このあたりの淡い希望が描かれているのが、この作品のニクイところだと思います。

薫は、郁也と向き合って彼とセックスをすることで子供を産みたいと決意しますが、その行為を試すものの完遂することができない。

ミナシロさんは、暗に郁也と一緒に子供を育てたいということを言っていて、郁也はミナシロさんのところに行ってしまうかもしれない。

そんな不確定だらけの未来を想いながら物語は閉じていきます。

いや、この不明瞭な結末。

僕的には最高でした。

 

 

 

5、終わりに

 

村田紗耶香『消滅世界』にも繋がるような性と生殖の話。

若い頃のプラトニックな恋愛を過ぎると、恋愛には性と生殖がもれなくセットになってきて・・・。

マクドナルドのハッピーセットみたいに。

やっぱり日本の性はまだまだ男性主導で、いびつな形で存在しているのかなと感じました。

 

高瀬隼子は、愛媛県出身の作家ですが、田舎の気持ち悪さや都会の無機質さゆえの過ごしやすさみたいなものにも触れていて印象的でした。

田舎の人間関係の良さもあると思うけど、まあとにかく密なのでね(;^ω^)

東京に生まれただけで勝ち組、という言葉も関東偏重のこの国の成り立ちを暗に批判しているように感じました。

 

他の作品も読んでみたいですし、今後の彼女の作品にも期待したいです!!

 

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