1、作品の概要
1984年に刊行された短編集。
ノルウェイの森の基になった短編『螢』、韓国で2018年に映画化された『バーニング』の原作『納屋を焼く』などの5編が収録されている。
2、あらすじ
①螢
18歳の大学生「僕」は、学生寮でユーモアな同居人共にどちらかというと厭世的な学生生活を送っていた。
地元で自殺してしまった友人の彼女と偶然再会し、デートするようになる。
少しずつ距離が縮まっていくが、「彼女」の求めていたのは「誰か」であることを「僕」は知っていた。
②納屋を焼く
2年前に31歳だった「僕」は、結婚パーティーで20歳のパントマイムを習っていた「彼女」と仲良くなり、時々会うようになる。
アルジェリアに3ヶ月旅に出た「彼女」は、お金持ちで感じの良い日本人のボーイフレンドを連れて帰ってきた。
2人が「僕」の家に遊びに来て、「僕」と「彼」が2人になった時に、「彼」から納屋を焼く話を聞かされる・・・。
③踊る小人
象工場で働く「僕」は、ある日「踊る小人」の夢をみる。
その小人は、昔王宮にも招かれたほど踊りの上手な小人だった。
第八工程で働くとびきり綺麗な女の子を口説く為に「僕」は「踊る小人」と取引をするが・・・。
④めくらやなぎと眠る女
仕事を辞めて実家に戻った「僕」は、右耳が悪い「いとこ」の通院に付き添っていた。
「いとこ」の診察の間に、病院の食堂で友人の彼女のお見舞いに行った話を思い出していた。
友人の彼女は学校の宿題で作った「めくらやなぎと眠る女」という不思議な話を聞かせてくれた。
⑤三つのドイツ幻想
セックスと冬の博物館。
ヘルマンゲーリングと親切なドイツ人。
ヘルWの空中庭園について。
夢か現か。
不思議なドイツにについての3篇。
3、この作品に対する思い入れ
正直、『螢』『納屋を焼く』以外の3編は印象も薄く、何故か読んだ記憶もありませんでした。
本自体見当たらず、買い直したのですが再読して他の3篇も現実と幻想の狭間を揺蕩うような作品で引き込まれました。
村上春樹といえば、上下巻にも及び長い長編が真骨頂だと思いますが、幻想的でリリカルな短編もまた魅力的であると思います。
4、感想・書評(徹底的に、とても執拗且つ圧倒的にネタバレしています)
①螢
まー、『ノルウェイの森』の一部分の作品です。
以上(笑)
『ねじまき鳥クロニクル』『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』もそうですが、短編で長い長編のプロトタイプの作品を発表したりもしていますよね。
『世界の終わり~』にも『街とその不確か壁』 というプロトタイプの短編が存在するらしいのですが、あまり出来が良くなかったとのことで現在のところ未発表みたいですね。
読んでみたい!!
えっと、『螢』でした。
ワタナベとナオコではなくて、「僕」と「彼女」の物語。
とても寂しくて喪失感に満ちているラストですね・・・。
思えば、固有の名前が出てきたのがもしかしたら『ノルウェイの森』が初めてだったんですかね?
リアリズムにこだわった小説だったから、やっぱり名前が必要だったのかな。
『螢』もこの部分だけでも十分切なくて喪失感に満ちた物語でした。
②納屋を焼く
もう、ツッコミどころ満載な作品です(笑)
とても、好きですが。
既婚なのに普通にガールフレンドがいて、ガールフレンドに彼氏がいて、その二人を家に呼んで・・・。
いや、倫理ってなんですかね?倫理って!!by北の国から
しかも、「彼」と「僕」自宅deマリファナ決めちゃってますne☆
かなり、アウトデラックスですやん!!
んー、やっぱり昔はユルかったのかな?
結婚しても家に女の子を読んでもOKだったり・・・。
マリファナ決めてもOKだったり・・・。
ビール20本ぐらい飲んでも車を運転したり・・・。
そのへんの納屋を勝手に焼いたり・・・。
昭和だったらやってもOK!!
って、んなわけねーーーーーーーーーーーー!!!!!!
はい、「彼」はかなりのサイコパスですね。
短編止まりにしておくには惜しいぶっ飛びの美味しいキャラです。
すごくスマートでお金持ちなんですが、その奥に限りない闇が広がっています。
しかも、その闇を自分で自覚してまるで何かの欲求のようにあくまで自然にコントロールしています。
断言します。
一番。
ヤバイタイプです。
どこで納屋が焼け落ちたのかもわからず。
「彼女」とも音信不通になり・・・。
とても、ミステリアスで印象に残る短編ですね。
③踊る小人
象工場(笑)
何それ?って感じで春樹ファンタジーワールドが全開で始まる今作品。
大体、短編集の中にひとつはブッ飛んだファンタジーものを書きますが、「踊る小人」はこの短編集にとってはそのぶっ飛びものにあたります。
ダンスがテーマっていうのもいいですね。
後の『ダンスダンスダンス』へ繋がるとか言うと言い過ぎですが、僕も踊ることはとても好きなので、ダンスがテーマっていいと思います。
しかもダンスで誰も口説けなかった絶世の美女を口説き落とすって良いですね~。
僕も、ダンスを磨いて絶世の美女を口説きたいですね(笑)
④めくらやなぎと眠る女
耳の悪い「いとこ」と、失業中の「僕 」の話ですが、冒頭のどこかミステリー色が強いバスの車中の様子と、過去を回想する友人と、友人の彼女をお見舞いに行く話とが不思議な感じで交錯して甘辛いような絶妙な感じに仕上がっています。
んー、ロイズのチョコポテチみたいな感じ?
短い文章の中にとてもたくさんの想いが詰まっています。
仕事を辞めて故郷に帰ってきて郷里の懐かしさ。
変わっていく世の中への想い。(バスが新しくなっていた)
いとことの不思議な関係。ゆるやかな継承。
置き忘れていた想い。
この短編が優れているところは。
その全ての要素があくまで淡く胸に浮かんで泡のように消えていくところ。
たくさんのテーマが浮かんでくるんだけど、どれも深く掘り起こされないことが素敵だと思います。
そのまま、通り過ぎていく。
デタッチメント時代の傑作ですね。
⑤三つのドイツ幻想
春樹は、この時代にドイツに行ったことが?
何かとても不思議な肌触りがする3篇でしたね。
今の若い人には理解されないかもしれませんが、ドイツは昔東と西に分かれていて今の北朝鮮と韓国みたいで、ベルリンの壁という壁が国を分断してたんです。
そんな、東西のドイツが分断されていた時代の短編。
どれも、現実と夢想の間を行ったり来たりするような不思議な作品でしたね。
まるで夢をスケッチしているみたいな。
不思議な絵を詳細に描いていくみたいな手触りがする作品でした。
5、終わりに
村上春樹という作家は本当に懐が深い作家だなと改めて思いました。
特に短編集を読むとそのバリエーションの多さに驚きます。
現実とファンタジーの混ざり具合。
果汁○○%とか表記しているジュースみたいに様々に混ざり合っています。
この異なる2つの世界の混ぜ具合が村上春樹の小説の真骨頂なのではないかと思います。
いつも、パレットに現実とファンタジーの絵の具を混ぜ合わせて一枚の絵画(物語)を書き上げているのでしょう。