1、作品の概要
2019年7月より公開された映画。
半野喜弘監督。
主題曲が坂本龍一。
2、あらすじ
舞台は台湾。
日本から流れてきたヤクザの島(豊川悦司)と、突然現れたお調子者の牧野(妻夫木聡)は出会い、彼らを狙う組織からの逃避行を始める。
台北から花蓮へ向かい、紆余曲折あってシャオエンの家に転がり込む。
島は過去の過ちとトラウマを。牧野は、犯した罪の重さを。シャオエンは生い立ちにまつわる寄る辺なさを。
それぞれに抱えていた。
最初は距離を取っていた3人は、共同生活の中で次第に頑なだった心を通わせる。
楽園を目指す旅の果てに、3人が行き着くのは・・・。
3、この作品に対する思い入れ
えっと、とりあえず僕的には今年の映画のベストで・・・。
もう何か興奮が収まらないし。
魂は持っていかれるし。
どうしてくれるん?
こんなに大きな欠損を抱えさせてからに・・・。
とてつもない悲しみと、美しいものを観た満足感と、大きな喪失感やら。。
もう大変やねん。
何、この映画?
GWなのにワイのことぐちゃぐちゃにしよってからに。
泣くやん?
泣かないわけないやん?
ってか、本当に抜け殻になるやん?
いい映画やん?
もう思い出すだけで・・・。
あっ、ちょっとバグりました。。
関西弁もどきですみません。
半野喜弘は元々ミュージシャンで、好きなアルバムがたくさんあり、当ブログでも取り上げたことがあります。
映画『永遠の仔』『ハナレイ・ベイ』のサントラを担当したり、エレクトロ、アンビエントっぽい曲を作ったり、最近は映画監督をしたりとめちゃくちゃ幅広い活動をしています。
そんな半野喜弘が監督で、豊川悦司と妻夫木聡が主演で、音楽が坂本龍一って!!
ちょっと前から気になっていた映画でした。
4、感想(ネタバレなしで書いてみます)
島(豊川悦司)は台湾に流れてきた日本のヤクザで、過去にパーティー会場で恋人が死んでしまい、彼女のことを守れなかったトラウマを抱えています。
ほとんど笑わずに無愛想でぶっきらぼう。
話す声も低くてめちゃくちゃ渋い役柄でカッコよかったです!!
好きな役者ですが、最近なんだか役柄に恵まれていなかった気がしたのですが、島役はハマっていましたね。
牧野(妻夫木聡)は、お調子者でいつも嘘か本当かわからないようなことばかり言って、ふざけていますが誰かから追われていて、自分がもうすぐ殺されることを予感してそれを受け入れているような感じがあります。
笑っているシーンがほとんどですが、シャワーを浴びた後にじっと鏡の中の自分の顔を見つめながら悲しそうな顔をする場面が印象的で、彼が抱えている「何か」を想像させます。
妻夫木は、さわやかイケメン役のイメージがありますが、最近は『怒り』でのゲイ役など一癖ある役柄が増えてきているように思います。
この作品でも、陽気に振る舞いながらどこか陰のある難しい役柄を完璧に演じていました。
笑顔の裏側にある薄暗い感情を想像させるような演技でした。
冒頭、島が食事をしている席に、牧野がいきなり座って話しかける場面があります。
牧野は島のことをパーティーで会ったと言いますが、島は牧野のことをどこか胡散臭く感じている・・・。
この食事の場面が長々3分ぐらいカメラを回しっぱなしで続きますが、妙な生々しさがあって印象的でした。
島は日本のヤクザの加藤に牧野を殺せと言われますが、台湾マフィアのガオの力を借りて牧野と2人で逃避行の旅に出ます。
牧野は1年前に亡くなった島の恋人シンルーの死の真相を知っていて、それが加藤にとってのウィークポイントになっている。
島は牧野をうとみつつも、彼が掴んでいる真相が気にかかり奇妙な2人での逃避行が始まります。
底抜けに明るくてお調子者の牧野と、寡黙で無愛想な島のやり取りがちぐはぐで微笑ましいです。
音楽と映像が美しく、車で移動中の風景もとても綺麗ですね。
どことなく岩井俊二監督みたいな感じがします。
ひょんなことから飲み屋で働いていた日本語を話す女の子シャオエン(ニッキー・シエ)の家で暮らすことになった2人。
お調子者の牧野、得体がしれない上に無愛想な島を警戒するシャオエンでしたが少しずつ心を開いていきます。
シャオエンは、シンルーに瓜二つで牧野も島もシャオエンを意識するようになります。
シンルーに深い関わりがあった牧野と島が、シンルーの生き写し(まぁ同じニッキー・シエが演じていますがw)のシャオエンと出会い、3人で一緒に暮らすことになるのはとても運命的ですね。
シャオエンも事情があり、両親と離れて一人で大きな邸宅で住んでいて本当は寂しかったのでしょう。
段々と笑顔も増えて、牧野と2人でふざけ合ったりしている場面は本当に幸福そうで、とても心が温まります。
牧野に絵を見せて自らの生い立ちを語り、「私たちって似てるよね」とシャオエンは言いますが、牧野は「全然違うよ。俺は・・・」と、始めて苦悩の表情で本音を吐露します。
普段はおちゃらけている牧野ですが、心の奥底には何か後暗いものを抱えているのが見え隠れします。
この辺りの繊細な表現を妻夫木が上手に演じていたと思います。
シャオエンはずっとぶっきらぼうな態度を取っている島に対しても、洗濯をしてあげたり、いたずらっぽく島のタバコを吸おうとしたりと、関わろうとします。
「笑った方がいいよ」
「どうして」
「私たちには今がある、それで充分でしょ」
島とシャオエンの印象的な会話の場面。
まるで、過去に囚われて笑顔を忘れた島の心のうちを見透かすようなシャオエンの言葉に島も心が揺れ動きます。
あたかも、シンルーから過去に囚われないでと言われたように感じたのではないでしょうか?
この映画で最も美しく、印象的なシーンは朝焼けの街を3人で自転車とバイクで走るシーンだと思います。
半野喜弘の『遮光』もとても美しく響き、両手を広げて満面の笑みを浮かべる妻夫木の表情も印象的です。
少しずつ島も心を開いていき、3人の幸福な時間はゆるやかに流れていきます。
しかし、幸福なシーンと並行して血なまぐさい殺人の場面が挿入されて、悲劇の予兆が感じられます。
幸福が大きければ大きいほど、後にやってくる悲劇はより苛烈なものになり人の心をバラバラに砕いてしまいます。
光が強ければ闇も濃くなる。
闇夜と白昼は地平線の両極にあり
唯一黎明に出会う
その美しい時間はあまりに短い
映画の冒頭での豊川悦司の独白です。
3人は楽園を目指して青い車で海を目指します。
彼らの美しい時間は終わりを告げようとしていました。
物語はカタストロフィーに向かって展開していきます。
ラストシーンの妻夫木の慟哭は圧巻でした。
魂が張り裂けんばかりの叫び。
果たしてシンルーの死の真相は?
牧野は救われるのでしょうか?
5、終わりに
僕は、映画のこともそんなに詳しくないし、そこまでたくさん観てないけど、この映画はとてもいい映画だと思うしできればたくさんの人に観て欲しいと思います。
いい映画、作品、芸術表現って何でしょう?
それは、人それぞれあっていいのだと思います。
好きなように好きな時間を過ごせばいいし、そこで作品の貴賎を語るのは意味のないことだと思います。
いろんな角度でいろんな好きがあっていいかもしれない。
アクションとか、SFとか、ホラーとか。
好きな俳優が出ているとか。
僕にとって物語とは、映画とは自分の魂とか心の琴線に触れるものでどこか別の世界に連れて行ってくれるものであると思っているし、この『パラダイス ネクスト』は僕の魂をとてもとても遠くまで連れて行ってくれたし、結果的にどうあれ非常に「残る」作品であったと思います。
ストーリーなど正直わかりづらいところもあり、また弱冠ツッコミどころもある映画なのですが、映像と音楽の美しさ。
2人の男の心理描写と演技。
とても美しく心に残る映画でした。