村上春樹について語るの続きです。
前回も書きましたが、時系列順に作品を追って紹介していく試みは色々な発見がありますね!!
時代背景とか、同時期に出した短編集なんかとの関連も興味深かったです。
『国境の南、太陽の西』を発表してから2年ほど経ってから春樹の代表作のひとつの『ねじまき鳥クロニクル』の第一部、第二部が発表されました。
この作品は、春樹自身がこの時期よく言ってたように「デタッチメントからコミットメント」への萌芽がみられる作品となりました。
今までの春樹は、初期三部作、『ダンス・ダンス・ダンス』、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』のような社会との関わりのない部分で独自の物語を描いてきました。しかし、『ノルウェイの森』の大ヒットで一気に作家としての知名度が高まり、『ダンス・ダンス・ダンス』で今までの集大成のような物語を描いて、今度は社会とコミットメントする必要性を感じたのではなないでしょうか?
この作品では、突然第2次世界大戦末期のノモンハンでのソ連軍との戦争の話が出てきたり、残虐な拷問や、処刑の話が出てきます。今まで、現実に起こった戦争を物語に組み込んだのは初めてで、面食らったのを覚えています。
しかし、物語自体は今まで以上に個性的な登場人物が主人公の岡田享と関わりながら隠喩に満ちた複雑な展開をしていきます。
不吉な予兆があり、隠喩があり、ついに妻の久美子が主人公の前から消えてしまいます。
現実世界でも、非現実的な世界でも巨大な力をワタヤ・ノボルが「悪」として描かれて対決が描かれています。以降、『海辺のカフカ』や、『1Q84』でも「悪」が描かれますが、これだけはっきりとした「悪」を描いたのは『ねじまき鳥クロニクル』が最初だったと思います。
1、2部の発表から1年以上経ってから完結編の3部が発表されました。
『みみずくは黄昏に飛びたつ』で春樹は「最初考えていたラストシーンでは、主人公は溺死するはずだった」らしいです。そんなラスト嫌すぎる。。考え直してくれて良かった。。
『アンダーグラウンド』『約束された場所でーアンダーグラウンド2ー』
短編集『レキシントンの幽霊』を刊行後、春樹は突如地下鉄サリン事件の被害者へのインタビュー集である『アンダーグラウンド』と、オウム真理教の信者へのインタビュー集である『約束された場所でーアンダーグラウンド2ー』が刊行されました。
これまでもエッセイや、紀行文みたいなのも書いていて幅広い文筆活動はしていましたが、社会事件を取り扱ったシリアスなノンフィクションを発表したのは初めてで驚きをもって迎えられました。
ねじまき鳥からのコミットメントの動きはこの2冊で頂点に達し、時間をかけて消化されて『1Q84』に活かされました。
村上 春樹がいうところの「短めの長編」の一つで、春樹はこの「短めの長編」で文体に変化をつけたり、1人称を3人称に変えてみたり、様々な事件を試みて次の「長めの長編」に繋げているみたいです。
自身が言っていることですが、この「短めの長編」は不人気なことが多いようですね。
僕は、『スプートニクの恋人』はわりと好きです。
ちょっと奇妙な恋愛の話ではありますが、あちら側とこちら側行き来して消えてしまった大事な人を取り戻しに行く話はオーソドックスな村上春樹の物語だと思います。
22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。
とても、印象的で好きな序文です。
今日はここまでで、続きは四に続きます。