1、作品の概要
2016年4月に刊行された小川糸11作目の小説。
鎌倉を舞台に手紙を代筆する「代書屋」として奮闘する鳩子の成長を描いた作品。
2017年本屋大賞4位。
NHKラジオドラマ、NHKドラマ10にてテレビドラマ化された。
続編の『キラキラ共和国』も2017年に刊行された。
2、あらすじ
幼い頃から祖母と2人きりで暮らし、依頼人の手紙を代筆する「代書屋」の後継として厳しく育てられた鳩子は祖母に反発して家を飛び出し、海外を旅する放浪生活をしていた。
祖母が亡くなったことをきっかけに鎌倉に戻り、「代書屋」を継ぐことを決意し、「ツバキ文具店」を再開する。
日々舞い込んでくる風変わりな依頼に四苦八苦しながらも、鳩子は代書屋として成長していきます。
バーバラ婦人、男爵、パンティー、QPちゃんなど個性豊かな友人達との温かい交流に励まされる鳩子。
やがて、先代である祖母の想いを知った彼女は・・・。
鎌倉を舞台にお届けする、手紙にまつわる心優しい物語です。
3、この作品に対する思い入れ
『ツバキ文具店』は、僕が読んだ小川糸さんの2作目の作品になります。
1作目は『食堂かたつむり』で、人との関わりを優しく描かれる素敵な作家さんだなと思いました。
今作も、鎌倉という情緒溢れる古い街で昔ながらの人情味溢れる人々との繋がりを描いた作品で、とてもとても感動しました。
ただただ優しくて温かい、温泉みたいな素敵な作品です。
小川糸さんの作品は、本当にただただ春の日溜まりみたいなあたたかさと、やさしさに溢れていて、すてきです。
ちょっと宮下奈都さんの作品に似たテイストがあるように思います。
4、感想・書評(ネタバレ含む)
鎌倉の街で代書屋を営むっていう設定が、まずとても由緒正しい感じがしていいですね。
すごくクラシカルな感じがするし、近隣の住民との付き合いも昔ながらの感じがして、「向こう三軒両隣」な古き良き日本の感じがして好感が持てます。
鎌倉は、とても好きな街です。
海も山もあって、古くからの建物があって、寺社仏閣もあってすごく素敵な街です。
散策していると、ひょんなところに美術館やカフェなんかあったりして楽しかったですね。
「代書屋」という架空の職業も、この鎌倉にあっては妙なリアリティが生じています。
ああ、有りうるかもって思ってしまう(笑)
これが、目黒だったり、恵比寿だったり、三軒茶屋だったりすると物語自体成り立たなかったでしょうね。
代書屋、鎌倉という両方のキーワードがあっての『ツバキ文具店』という物語なのだと思います。
詳細な描写などみても、ああ小川糸さんは鎌倉が好きなんだろうなと思いました。
鳩子は、代書屋という仕事に対してとても真摯に、厳かな姿勢で向き合っています。
以前は、先代に反抗していたりもしたのですが、代書屋の仕事に向き合う鳩子の姿勢には何かしら神聖なものすら感じます。
それは、やはり代書を依頼していくる人達が届けたい想いをを代わりに伝えるというとてもセンシティブな役割に対して真摯でありたいという鳩子の真っ直ぐな気持ちがそうさせるのでしょう。
依頼人たちは、風変わりな依頼を持ち込みますが、皆切実で伝えたい大事な想いを抱えています。
鳩子が真摯でいたいと感じるのは、仕事そのものももちろんそういった依頼人の想いに対してなのでしょう。
手紙は、想いを伝えます。
それは、メールやラインよりとても深く。
そして、その想いの伝え方は便箋や、書体、ペン、インクなどの選び方など多岐に渡ります。
例えば、弔意を表す手紙を書くのに薄い墨で字を書きますが、それは涙で墨が滲むからなど細かい気配りで依頼人の想いを相手に伝えられるように鳩子は心を砕きます。
とても繊細で神経を遣う仕事ですが、依頼人の想いを届ける手伝いをする仕事として鳩子は意味とやりがいを見出していきます。
先日手紙を題材とした、映画のラストレターを観てきましたが、このSNS全盛の時代にあって敢えて手紙の物語を書くことのは大切なことのように思えます。
まぁ、僕は筆不精のほうなのですが(笑)
その人の直筆による手紙を読むことで、想いや、息遣いを感じることができるし、手紙はデータではなく、モノとしてずっと取っておくこともできます。
LINEの文字よりずっとリアリティのある想いを感じ取ることができるのでしょう。
鳩子を取り巻く人々も一筋縄ではいかない個性的なキャラクターです。
でも、そういった面々とのつながりがとても優しくてほんわかしていて、とても良い感じです。
「食堂かたつむり」でも思いましたが、小川糸さんはこうした人と人とのユニークで温かい繋がりを描くのがとても上手な作家さんだと思います。
読んだあとに心が暖かくなるような気持ちになります。
先代であり、亡くなった祖母との関係性もこの作品の重要なキーであると思いますが、生前祖母が文通相手に自分との関わりへ悩んで愚痴をこぼしていて、強い愛情を感じていたことを知り、鳩子は強く心を揺り動かされます。
そして、放浪していて、祖母の死に目にも会えなかったことを悔います。
しかし、鳩子は周りの人間の温かさにも助けられて毎日幸せに暮らし、代書屋の仕事を通じて成長することで先代に対してのわだかまりも解け素直な想いを手紙に書くことで、天国の先代に自分の想いを届けようとします。
あなたが死んでしまうなんて、認めたくなかったのです。
でも、そのことを今は悔やんでいます。
あなたの骨を、私のこの手で拾ってあげれば良かった。
きちんとお別れをしていれば、こんな宙ぶらりんな気持ちにはなっていなかったかもしれません。
ごめんなさい。
そのことだけを伝えたくて、今、その手紙を書いています。
亡くなってしまったあとでの手紙。
無意味かもしれないし、遅すぎたのかもしれない。
でも、きっと鳩子の想いは天国の「おばあちゃん」に届いたのだと信じたいです。
5、終わりに
とても温かく清々しい読後感でした。
続編の「キラキラ共和国」も年始のブックオフのセールで買ってきたので読んでみたいです(^O^)
ツバキ文具店の鎌倉案内本も出ているみたいですよ♪
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