1、作品の概要
2017年に刊行された小川糸の長編小説。
『小説幻冬』2017年5月号~8月号まで連載された。
『ツバキ文具店』の続編として、ミツローさん、QPちゃんとの生活を軸に代書屋としての仕事と、人々との関わりが描かれた。
2、あらすじ
前作『ツバキ文具店』の続編。
ミツローさんと結婚してQPちゃんと3人で新しい家庭を育くみながら、代筆屋を営む鳩子。
今日も「ツバキ文具店」に個性的な依頼主が訪れ、鳩子を悩ませます。
鎌倉の街を舞台に繰り広げられる、手紙と、人と人との絆を大切に綴る物語。
3、この作品に対する思い入れ
前作『ツバキ文具店』がとても好きで、『キラキラ共和国』も読んでみました。
『食堂かたつむり』もそうですが、小川糸が紡ぐ優しい物語がとても好きです。
舞台にしている鎌倉の土地の魅力や風土なんかもとてもうまく表現されていますね。
4、感想・書評
『ツバキ文具店』は、鳩子が代書屋の仕事を通して人々と出会い、その想いに深く関わっていくことで人間としても、代書屋としても成長していき、やがて先代の隠された想いと愛情に辿り着くといった内容だったかと思いますが、今作は結婚して伴侶となったミツローさんとその娘のQPちゃんとの関係を軸に物語が描かれているように思います。
男爵や、パンティー、バーバラさんなどの前作からお馴染みのキャラクターとの温かい交流もとても心が温まるエピソードが満載でした。
鎌倉の美しい自然や、伝統行事なども相まってほっこりしまくりの物語。
「なんだろうこの健やかさは?」って、何度も思いました。
鳩子のフィルターを通してみる世界はとてもキラキラしていて、尚且つどこまでも澄み渡った清水のように健やかな滋味に溢れています。
「すこやか」って、ひらがなで書くとよりイメージが近くなるような・・・。
縁側で猫がうたた寝しているような、そんな「やすらか」で「すこやか」な物語だと感じました。
個人的に家族と血縁にまつわるエピソードがとても印象的で、鳩子が前妻の美雪さんの想いを汲み、逡巡しながらQPちゃんを「はるちゃん」と呼んで、守景家の一員になっていく。
ミツローさんの実家に行くエピソードも温かくてとても好きで、高知と愛媛の差はあるけれどなんとなくミツローさんの田舎の感じや家族の感じも想像できてほっこりしました。
四万十市とかその辺かなぁ、とか勝手に想像したりもして(笑)
事故死した前妻の存在を「生きていたらきっと友達になれた」って思える鳩子の「すこやかさ」ってどこから来てるんだろうってとても不思議に思いました。
女性でこんな心情になるってあまりないんじゃないかと思うし・・・。
生まれ変わるなら、自分とミツローさんの子供に生まれてきてほしいとかもう・・・。
マイ涙腺ダム決壊やっで!!
QPちゃんへの想いもどう表現したらよいかわからないぐらいの尊さで・・・。
ウチの息子の嫁には鳩子みたいな女性がいいな、と強く思うヒロ氏でありました。
今作では、鳩子の母親(?)と思わしきレディ・ババにも触れられていて。
先代→レディ・ババ→鳩子と一直線に繋がる血縁や。
因縁のようなものにも触れられていて。
でも、ラストのミツローさんの言葉。
「そうだよ。どんな相手だって、おかあさんはおかあさんだよ。だって、鳩ちゃんは、今、幸せじゃないの?その幸せは、体がなかったら、感じられないじゃないか。体を作ってくれたのは、おかあさんだよ。もし鳩ちゃんが、幸せだって思うなら、おかあさんに感謝しなくちゃバチが当たるよ。別に無理に好きになる必要はないんだから」
なるほど~。
自分を産み落としてくれた存在、ルーツに感謝はするべきだけど、でも好きになる必要はないって納得できる気がしますね!!
それでも繋がっていくのが血の繋がりなのかもしれませんが・・・。
そうやって言い切ってしまえるミツローさんの健やかさにも感服致しました。
5、終わりに
今作も、しんみり、ほっこり、ふんわりを、たくさんたくさん、ありがとうございます♪。
手紙にまつわる温かい人と人との関わり。
それに鎌倉という古都の美しき風景。
以前、鎌倉に近い戸塚に住んでいたこともあって、鎌倉がとても好きです。
そういった意味合いにおいても、この物語には惹かれますし、鎌倉を散策していた日々を思い出します。
またいつか行ってみたいなぁ。