1、作品の概要
『うつくしい人』は西加奈子の長編小説。
2009年2月25日に幻冬舎より単行本が刊行された。
文庫本は2011年8月11日に刊行された。
文庫版で229ページ。
文庫版の巻末にあとがきと、西加奈子×ともさかりえの対談が収録された。
他人の目を気にしていつもびくびくしている30代の女性が旅行先でユニークな人たちに出会って再生していく。

2、あらすじ
いつも他人の目を気にしてビクビクしている30代の独身女性の百合。
仕事上のちょっとしたミスがきっかけで仕事を辞めてしまい、瀬戸内の離島に一人旅行に行くことにした。
裕福な家庭に生まれて、いまだに経済的に両親に助けられていること、引きこもりの姉が実家にいること。
わだかまりを抱えながら生きていた百合は、デリカシーがなく低能なバーテンの坂崎と、天使のように純真なドイツ人のマティアスと、出会い交流することで、硬く縮こまった心がほどけていくのを感じるのだった。
3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ
大好きな作家の1人である西加奈子。
『うつくしい人』は、7~8年前とかに読んだように思います。
なんか、島に行く話だよね?くらいにしか覚えていなくて、いい感じに記憶の洗礼を受けていたので、再読してみました。
4、感想(ネタバレあり)
ちょっと変わった人とか、うまく社会に馴染めずに悩んだり傷ついてる人たち。
西加奈子という作家はそういった人たちへの目線がとてつもなく優しくて、「大丈夫だよ。きっと、うまくいくよ!!」って背中を押してくれているようにいつも感じます。
西加奈子自身もこの作品を書いた時に自己嫌悪に陥ったり、些細なことで傷ついたりと、作中の百合そのもののような状態だったみたいで、「ああ、なんかめっちゃしんどい」がそのままこの小説に書かれているようです。
って、あとがきに書いてありました(笑)
彼女の作品の素晴らしいところは、自身の感情が、祈りが、優しさが文章から痛いほどに伝わってくるところだと思います。
これほどまでに自身の感情を文章に、物語に乗せて表現できる作家は西加奈子しかいないように思います。
ただ感情的な文章を書くだけじゃなくて、それをきちんと物語に乗せて、なおかつ登場人物たちとの感情と共鳴させられる構成力が本当に凄いと思います。
『うつくしい人』の主人公・百合は、30代の女性で結婚を考えるほど素敵な出会いもなく、親に家賃を援助されながら、なんとか一人暮らしをしています。
自立?って、はてなマークがつく状況。
百合自身も、そんな自分の状況を理解していてコンプレックスを抱いている。
それでも親に援助されて、赤い革のスーツケースを買っちゃったりしている。
仕事もうまくいかなくて、ささいなミスを注意されたのがキッカケでやめてしまう。
なにか特別なキャリアや資格があるわけでもなく、再就職もせずにただただ家にこもり続ける毎日。
他人の目が気になる、自分に対してでもなく向けられた悪意に過敏に反応してしまう。
今だったらHSPに分類されている存在でしょうか?
僕も、誰かが誰かに悪意を向けている状況とか気持ち悪くて、どうにか納めようとしたりするタイプなんですが、別にいい人ぶろうとかしているわけじゃなくて、ただその状況がしんどくて心が落ち着かないからだったりします。
前の前の職場の人でこの話をした時に「めっちゃわかる~」って言ってもらったことがあって、一定数こう感じる人はいるんだなって思いました。
他人に向けられている悪意なんだから関係ないじゃん、って割り切れない。
もう物理的なレベルに近い感じでただ痛くなっちゃう。
「ああ、めっちゃわかる」って思いながら読んでました。
30代女性に共感する47歳男性ってどうよ。
でもきっと年齢とか性別とか関係ないよね、こういう閉塞感ってさ。
普通なら離職後にちょっと時間あるから旅行しとこかみたいなノリであってもいいはずだけど、香川の島に旅に出た彼女はだいぶ切羽詰まっている感じです。
空港のチケットの受付の人にまで、過度な緊張をしたりとか、いやっ生き辛いにも程がありまっせ(;^ω^)
はじめは緊張していたリゾートホテルの滞在も、どこか抜けているバーテンの坂崎と、不思議な雰囲気のドイツ人・マティアスとの時間でほぐれていく。
いや、西さんよくこんなけったいな登場人物を思いつきはりますな~、ってなぐらいにけったいです。
へんてこで親しみやすいけど、どこかミステリアスな2人。
カートで疾走するシーンとか痛快で良かったですね。
あんな夜があるから、頑張って生きてみようって思ったりします。
「祖で触れ合うも他生の縁」「一期一会」って言葉が似合うような3人の時間は瞬く間に過ぎていきます。
恋愛展開とは無縁なところ、あっさりと別れていくところがまたなんとも寂しくて良いのです。
そして表題の『うつくしい人』である引きこもりの姉の存在との和解。
もしかしたら、同族嫌悪だったのではないかとも思います。
同じように繊細な精神を持っていて、自分も姉のようになってしまうかもしれないという恐怖。
香川の離島での日々が彼女のそんな心を解きほぐし、姉との和解を果たすまでになりました。
5、終わりに
いやー、良い作品でした。
香川の島がどの島だったのか気になりますが、どちらの島だったのですかね?
前半の息苦しさにしんどくなりながら、後半の板崎、マティアスとの絡みがとても楽しくて物語に強く惹きこまれました。
やっぱ、西さん好きだな~。
なにかとても身近に感じるし、同じように感情を共有している気がする。
こんなに近くにいてくれるように感じる作家は彼女だけですし、だからこそ多くの人に支持されているのだなと改めて感じました。
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