ヒロの本棚

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【本】町田そのこ『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』

1、作品の概要

 

『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』は2017年に刊行された、町田そのこの短編小説集。

5編からなる連作短編小説。

デビュー作の『カメルーンの青い魚』が収録されている。

同作で「女による女のためのR-18文学賞」の大賞を受賞。

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2、あらすじ

カメルーンの青い魚

母親に見捨てられて祖母と二人暮らしだったサキコは、児童施設にいたりゅうちゃんと付き合っていたが、ずっと音信不通だった。

12年ぶりに偶然再会したりゅうちゃんと一緒に街の商店街をあるくサキコ。

彼に一緒に暮らしいてる啓太の話をするが・・・。

 

②夜空に泳ぐチョコレートグラミー

夏の間だけ新聞配達のアルバイトをしている啓太には秘めた目的があった。

虐められていたクラスメイトの晴子が孵化するように急激に変化し、いじめっ子を返り討ちにした事件。

その変化の陰には晴子を守ってくれていた祖母のことが関係していた。

 

③波間に浮かぶイエロー

同棲していた恋人がある日突然自殺した沙世は、彼が命を絶った駅がある町で暮らし始め、『軽食ブルーリボン』で働き始めた。

店主の芙美は「おんこ」でがっしりした男ではあるが女装をして黄色い服ばかり着ているので、とてもインパクトのある存在だった。

数十年前に芙美がまだ重史だった時に出会った女性・環は、旦那に浮気されて身重な身体で、芙美に助けを求めてくるが・・・。

 

④溺れるスイミー

幼い頃に生き別れた父のように突然放浪したくなってひとところで生きていくことに圧迫感を感じる唯子。

彼女は自分と同じようにひとところで生きられないトラック運転手の宇崎と出会うが・・・。

 

⑤海になる

3回の流産のあと子供を死産し、夫に暴力を振るわれるようになった桜子。

貧血で倒れた時、雪が降る中ネグリジェ1枚で夫に外に追い出された時、助けてくれたのは長髪の男性・清音だった。

そして今まさに命を絶とうとする桜子の前に清音があらわれるが・・。

 

 

 

3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ

 

町田そのこ作品は『52ヘルツのクジラたち』『星を掬う』『宙ごはん』を読んでいて、物語の構造の巧みさや、困難を抱えながらも必死に生きている登場人物たちの姿に胸を打たれました。

虐待とか、DVとか、もうやめてー!!ってくらい読者の心をエグってエグってくるのも町田そのこ作品の特徴。

そんな絶望の淵からどうにか這い上がっていくようなラストは、本当に胸が熱くなります。

今作、『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』でも目を覆いたくなるような悲惨な状況にある人たちがボロボロになりながらどうにか生きる希望を見出していく物語だったかと思います。

デビュー作からこの完成度・・・。

只者ではないですね。

ビール飲みながら『52ヘルツのクジラたち』の文庫本にサインしていた方と同一人物とは思えません(笑)

いえ、そんなとこもしゅき♥ですが。

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4、感想・書評(ネタバレあり)

カメルーンの青い魚

これ、デビュー作で「女による女のためのR-18文学賞」の大賞を受賞したみたいですが、完成度が高杉くんです。

冒頭で啓太のことを恋人みたいに匂わせておいて、実は・・・っていうラストへの流れが秀逸です。

ずっと待ち続ける。

この世で唯一の相手への狂気に似た純愛。

江國香織『神様のボート』みたいな話ですが、暴力的でもあり、親から捨てられて愛に飢えた2人の物語でもあると思います。

 

②夜空に泳ぐチョコレートグラミー

啓太と晴子のアオハルが尊いですが、もちろんタダの爽やかな青春ではなくて、2人は若くしていろんなものを背負っているし、ズタボロに引き裂かれています。

2人がお互いに気になる存在だったのは、そうやって過酷な環境を生きている者同士、恋愛感情というよりは共感、恋人というよりは戦友に近い存在だったかもしれないと思います。

どれだけ惨めで辛くても這いつくばって生きるしかない。

2人はお互いの存在を支えにして新しい一歩を踏み出します。

 

③波間に浮かぶイエロー

いやぁ、これもどんでん返しあり、生きづらさを抱えた人たちへのメッセージあり。

短編にしておくにはもったいないくらいの濃い物語でした。

しっぽの先までびっしり餡子がつまったたい焼きみたいな。

芙美さんがインパクト大な黄色いおんこ(オカマ)になったいきさつとか、沙世と環が抱えているものとか、「人間」や「人生」を感じさせる物語で・・・。

ラストの仕掛けにもあっと声が出るぐらいに意外な展開で、ミステリじゃないんだけどミステリ作家真っ青な仕掛けをしてくる町田そのこ姐さんの凄みを感じました。

 

④溺れるスイミー

町田そのこさんって、ほぼ幸福な家庭や家族関係を描かないという点で中村文則先生を彷彿とさせられますが、この作品でも幼少期に「共生できない」父親との別れを経て、心に欠落を抱えた唯が描かれています。

地方都市の小世界でささやかな幸せと、繰り返す日常を享受しながら生きていくのか、それとも父親のように共生することができず絶えず放浪するのか・・・。

これはひとつの呪いの物語だと思います。

トラックドライバーの宇崎は唯の理解者であり、放浪者たる彼女の性癖を肯定する存在でしたが、彼女はその手を振り払って元の生活へと戻っていきます。

何故でしょうか?

その理由は彼女にもわからないのでしょうし、父の姿がちらついたのかもしれません。

それでも、間違っていても、彼女が取り返しのつかない決断を、自分の人生の岐路にいて行くすえを決め切るような決断をした瞬間がとても恐ろしく尊く感じました。

 

何かを決めて歩き出す瞬間、僕はまるで深い崖を見下ろすような気分になることがあります。

その圧倒的な取り返しのつかなさ。

足のすくむような決断することへの恐ろしさ。

それでも踏み出さなけれないけない瞬間がある。

たとえ間違っていたとしても。

そんなこを考えさせられる物語でした。

 

⑤海になる

この連作短編すべて絶妙な繋げ方をしてきていますが、この物語もまた『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』の晴子に繋がっていて、おおうって感じで声が出そうでした。

死ぬにはぴったりの日だってどこかで聞いたような言葉ですが、夫のDVで身も心もボロボロだった桜子。

本当にこの夫は最悪ですね。

最悪の時、命の危険が迫っている時にいつもなぜか出会う清音。

彼との出会いの意味。

清音自身の悲しみと葛藤。

2人の心が交わっていく、海でのシーンは感動的でした。

 

 

5、終わりに

 

デビュー作から本当に完成度高く、5編の短編の繋げ方もとてもうまかったです。

それぞれ理不尽な力に晒されて、幸せな環境に生まれ落ちることができなかった人たちが運命の流れに抗いながら、もがきながらも生きていく物語。

目を背けたくなるような場面も多かったけど、本当に素晴らしい5つの宝石のような物語でした。

 

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