1、作品の概要(ネタバレあり)
『君たちはどう生きるか』はスタジオジブリによるアニメ映画。
2023年7月14日に公開された。
監督・脚本・原作は宮崎駿。
音楽は久石譲が担当。
主題歌は米津玄師『地球儀』
声優は、山時聡真、菅田将暉、柴咲コウ、あいみょん、木村佳乃、木村拓哉らが担当している。
上映時間は124分。
吉野源三郎の名著『君たちはどう生きるか』からタイトルを取っているが、内容は全くのオリジナル作品となっている。
公開日までタイトルと、1枚のポスター以外の情報をほとんど流さずに行なった宣伝手法が話題となった。
太平洋戦争中の日本を舞台に、1人の少年の生き抜くさまを描いた冒険ファンタジー作品。
2、あらすじ
1944年太平洋戦争中の日本。
眞人(山時聡真)は東京大空襲で病院に入院中だった母を火事で亡くし、父とともに母の実家に疎開し大きな屋敷の一角に住み始める。
父は母の妹のナツコと再婚し、彼女はすでに身ごもっていた。
眞人は新しい環境に馴染めず、継母のナツコにも心を開くことができず、学校でも級友と喧嘩になり、自傷の末学校にも通わなくなってしまう。
屋敷の近くにある大叔父が建てたという廃墟のような塔。
不思議なアオサギにも導かれるが、入口は封鎖されていて周囲からは入らないようにきつく言われてしまう。
そんな折り、ナツコが森のほうに姿を消したのを目撃した眞人は屋敷に仕える老婆・キリコと共に森へと足を踏み入れるが・・・。
3、この作品に対する思い入れ、観たキッカケ
『もののけ姫』ぐらいまではめっちゃジブリ好きだったんですけど、最近のは観てないのも多くて、「あっ、ジブリの新作やるんだ。ふーん」って感じでした。
でも、ポスターとタイトル以外全く明かさないという宣伝戦略と、冒険活劇ファンタジーという文言に釣られて観に行くことにしました。
ちょうど公開日の今日が偶然休みだったこともあったので~。
内容はとても難解なものでしたが、これまでの集大成のような素晴らしい映画だったと思います。
♪主題歌の米津玄師『地球儀』
♪米津玄師『地球儀』のライブ・ヴァージョン
4、感想(しつこいようですがネタバレあり)
個人的にはとても良い映画だと思いましたが、内容はとても難解で賛否が分かれる映画だなと思いました。
小さい子供が観ても意味わからないかもですが、後半は異世界で怒涛のノンストップファンタジーアドベンチャーな感じでそれなりに楽しめるのかな?
今回、予告映像もなく、どういう物語なのかも全くわかっていなかったため観る前はなにか異様な緊張感とワクワク感がありましたね。
スラダンの映画でも情報をあまり出さないという宣伝戦略をやってましたが、『君たちはどう生きるか』は全くストーリーも明かさずに、キャスト主題歌も公開当日に発表になるという徹底ぶり。
この全然わからないままに映画を観るというのがとても新鮮で良かったですね~。
冒頭のいきなりの空襲警報からの焼夷弾、火事のシーンはインパクト大でした。
まぁ、ジブリのようにネームバリューがあるからできる戦略でしょうし、製作委員会を作らずにジブリが単独出資で製作をしたからこそできる芸当だったのでしょうね。
これが吉と出るか凶と出るか?
口コミの力にかかってるのでしょうね。
物語の大まかな構図は、現実世界で葛藤を抱えた眞人少年が、母親を追って異世界に行き、様々な人に助けられながら大冒険を繰り広げた末に、その異世界の新たな主となることを求められるが、現実の世界に戻ることを選択する。
みたいなものだったと思います。
観てて、あれなんか村上春樹っぽいやん。
『街とその不確かな壁』っぽいやんって思いました。
壁を抜けて異世界(壁の街)に行き、平穏な異世界に留まるか、葛藤を抱えながら現実の世界で生きるかの選択を迫られる点でとても近しいものを感じました。
もちろん宮崎駿が村上春樹をパクってるとかそういうことではないですし、表題の『君たちはどう生きるか』という問いは、この自分が生きていくべき世界を選択した眞人のどう生きるかの選択を通して、この映画を観る人すべてに宮崎駿が投げかけた問いのように感じました。
『君たちはどう生きるか』はこれまでの集大成的な作品でもあり、自らの作品のセルフオマージュや、『7人の小人』(屋敷の老婆がそうっぽいなぁって)や、『不思議の国のアリス』(ヒミがアリスでセキセイインコがトランプ兵みたいだった)のオマージュのようにも思えて、そこも『街とその不確かな壁』に雰囲気が似ているなぁと感じました。
宮崎駿も御年82歳で、引退を撤回しての今作。
おそらく最後の作品になるということで集大成的な作品にしたいという想いがあったように思いますし、物語から強いメッセージを感じました。
大叔父が作った異世界で自分が主となり、永遠の平穏を手に入れる。
しかし、それは虚構の世界で現実から目を背けた仮りそめの平穏。
眞人が右のこめかみを自ら傷つけた傷跡こそが彼の悪意の象徴で、自らを傷つけることで他者を攻撃し、自分を拒んだ学校から逃げようとする弱い心あらわれだったのだと思います。
眞人は大叔父から異世界を託したいと言われますが、自らの醜さを受け入れ現実の世界で生きることを決意します。
ヒミとキリコは別の時代に帰っていきますが、それが屋敷の老婆が語る眞人の母が過去に神隠しにあって、1年後にそのままの姿で帰ってきたという出来事と繋がっていて、大叔父のいる異世界では時間の流れの概念が現実世界とは異なるのでしょう。
作中で火、石、海、鳥など何らかのメタファーなんだろうなって思えるものがたくさん出てきましたが、誰か考察してください(笑)
石はなんとなく冷たく攻撃的な印象で、有機的な感じからこの世界を司るシステムのような存在なのかなと思いました。
村上春樹『街とその不確かな壁』の壁もシステムの象徴であり、有機的なものであるという部分が非常に似通っているように思いました。
ちょっと疑問なのが、ナツコがなぜ異世界に迷い込んで、帰りたくないと言ったのかです。
眞人の父と結婚して、子供も授かって幸せいっぱいだったのではと思ったのですが・・・。
眞人とうまく打ち解けられないこと、眞人が怪我をしたこと、酷いつわりなどで現実の世界で生きていくことに疲れてしまったのでしょうか?
ナツコは眞人を拒絶し罵りますが、眞人はそれまでのナツコを探す冒険の旅の中で精神的に成長し、ナツコを母親として受け入れ始めていて、「ナツコお母さん」と呼ぶことで彼女の心を解きほぐすことができたのだと思います。
異世界での冒険を通して、眞人は自らの弱さ醜さを向き合い、現実の世界で生き抜いていく強さを得ることができたではないかと思いました。
5、終わりに
なかなか難解な映画で、何回かみないと理解できないとかいうダジャレも飛び出しそうになるレベルでした。
屋敷の婆さんの中に湯婆婆にクリソツな人がいたり、森へ入るシーンがメイがトトロを追いかけて裏山に入るシーンっぽかったり、流星が流れまくるシーンがハウルっぽかったり、もののけ姫のこだまにクリソツな生き物が出てきたり、たぶん探せばもっとあるだろう(たぶん)過去作品のオマージュみたいなのがたくさんあったようにおもいました。