ヒロの本棚

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【本】凪良ゆう『汝、星のごとく』~暮れゆく空に輝く夕星のような忘れられない存在~

1、作品の概要

 

『汝、星のごとく』は、凪良ゆうの長編小説。

2022年8月4日に講談社より刊行された。

小説現代』2022年5.6月号~7月号に掲載された。

2023年本屋大賞受賞、第168回直木賞候補作。

瀬戸内の島で出会い、お互いに惹かれ合いながら成長し、すれ違っていく男女の物語。

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2、あらすじ

 

瀬戸内の島に住む高校生の暁海は、母親以外の女性に惹かれて家を出て行った父親と、心を病んでしまった母親に悩まされていた。

しかし、同じような悩みを持つ櫂と出会い、2人は自然に惹かれあうようになっていく。

漫画家の原作者としての成功を夢見る櫂は、高校を卒業して島を出て行くが、暁海は母親のことを放っておくことができずに島に残る。

2人は遠距離恋愛を続けるが時が流れるに従って2人の溝は深まっていくが・・・。

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3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ

 

以前から凪良ゆうさんの名前はよく聞いていて気になる作家の1人で、今回『汝、星のごとく』が本屋大賞を受賞したこともあり、読んでみました。

僕の好きな瀬戸内の島が舞台の恋愛小説というところもポイント高かったですね(^O^)

hiro0706chang.hatenablog.com

 

 

 

4、感想・書評(ネタバレあり)

 

『汝、星のごとく』は、暁海と櫂の運命的な恋愛を描いた物語で、十数年の長い時間の中で、関係性が変化していく様が2人の視点から描かれているのがとても良かったです。

恋愛のキラキラしたところだけじゃなくて、人生の長い時間の中でのお互いの環境の変化や、考え方の変化などで、お互いにすれ違っていく・・・

そんな描写がとてもリアルでした。

 

暁海と櫂はお互いに親からの愛情を十分に受けられずに、反対に親のケアをするようなあまり幸せとは言えない境遇のもと育ちました。

2人が惹かれあったのも、共通する家庭環境があって、同じような心の空白を埋めようとお互いに寄り添いあったのだと思います。

なくしてしまった心の欠片の片方を持っているこの世界でただ一人の相手。

暁海と櫂の運命的な恋愛にはそんな言葉がピッタリとハマるような気がします。

だからこそ別れたあともお互いが気になる大切な存在であり続けたのではないでしょうか?

 

同じような境遇にいた2人ですが、櫂のほうがより苛烈で、幼い頃には命の危険も感じるような場面もありました。

しかし、それでも自分の母親を憎んだり、見捨てることができない。

櫂のそんな優しさは、どこか曖昧さを伴った弱さに似たものだったのでしょう。

瞳子さんにはそんな櫂の本質を見透かされて、こんな予言のような言葉を投げかけられます。

「きみのそれは優しさじゃない。弱さよ」

一刀で斬り落とされた。

「いざっていうときは誰に罵られようが切り捨てる、もしくは誰に恨まれようが手に入れる。そういう覚悟がないと、人生はどんどん複雑になっていくわよ」

 

でも櫂は自分の人生に逃げずに向き合って、若くして漫画家の原作という自分がやりたいこと、今の状況から抜け出す具体的な可能性を手にしています。

対して暁海は、母親に、家庭環境に引きずられて結局進学もままならずに、櫂と約束した東京生活も叶いませんでした。

自分の力で夢を叶えて、島を出て住みたい東京へと羽ばたいていった櫂。

家庭の問題に自分の可能性を狭められて、母親から、島から逃れられなかった暁海。

似たような境遇から惹かれ合って結ばれた2人でしたが、自分の境遇に対する処し方は対照的でした。

しかし、そんな暁海も瞳子さんというメンターのおかげもあって、自分のしたいと思える仕事を見つけて自分らしく生きることができるようになります。

瞳子さん、江國香織の小説の登場人物みたいで素敵ですね~。

 

人生って浮き沈みがあって、十数年という長い時間の中でいいことも悪いこともたくさん起こる。

禍福は糾える縄の如し。

悪い時期をやり過ごして大きな成功を手にした櫂は、不運な出来事で仕事を失い、転がり落ちるように転落していく。

息が詰まるような閉塞的な島の環境と、足枷のような母親の存在、女性にはチャンスすら与えられない旧態然とした職場で鬱々としながら、北原先生の助けも得て一歩を踏み出し始めた暁海。

気持ちがすれ違って別れてしまっても、ずっとお互いの心の中に忘れられない存在として在り続けていた。

まるで暮れかけた空に輝く夕星のように。

物理的にも、精神的にもお互いが遠く離れてしまっていても、見上げた空に輝いていた夕星。

どんなに暗く希望が見えない時でも、変わらずに空に瞬き続ける忘れがたい存在の象徴だったのでしょうか。

 

物語の結末は悲劇的であったのかもしれないし、この恋は悲恋と言えるのかもしれません。

だけど、読後感は清々しささえ感じるようで、自分の運命にもがき抗い、そして約束された場所にたどり着いた2つの魂の一瞬の光芒を見たように思いました。

幸せになれなくてもいいのだ。

ああ、ちがう。これがわたしの選んだ幸せなのだ。

わたしは愛する男のために人生を誤りたい。

わたしはきっと愚かなのだろう。

なのにこの清々しさはなんだろう。

最初からこうなることが決まっていたかのような、この一切の迷いのなさは。

 

 

 

5、終わりに

 

この本のタイトル『汝、星のごとく』に繋がっていく素晴らしいラスト。

櫂の人生で、夜空の一番星のように瞬き続けた星が暁海だったのでしょう。

暁海と櫂の恋愛を中心に人生にまつわる多くのことが盛り込まれた魅力的な物語だったと思います。

 

 

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