1、作品の概要
『がらくた』は江國香織の長編小説。
2007年5月22日に刊行された。
文庫本で352ページ。
島清恋愛文学賞受賞。
45歳の柊子と15歳の美海が、一人の男性への恋慕を募らせる。
2、あらすじ
45歳の翻訳家の柊子は、母親の桐子と海外でバカンス中に、美しい15歳の少女・美海と懇意になり、その父親ともディナーを共にする。
「遠くに行っておいで」挑戦的に言い放つ夫の言葉に導かれるように、美海の父親と性交する柊子。
日本に戻ったあと、美海と交流を続けていた柊子と桐子は、桐子の誕生日のディナーに美海を招待して、夫の原も同席する。
恋愛依存症の母と、2人暮らしの美海は学校では1人周囲から浮いていたが、強い意志を振りかざして生きていた。
美海は柊子の夫・原の存在に惹かれ始めていた。
3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ
たぶん10年以上前に古本屋で安く見つけてGETしたんだったと思う。
江國香織は27年前から好きな作家で、あまり本自体読んでいなかった時期もあるけど、定期的に読んでいる作家さんです。
本棚の奥で眠っていましたが、Xでフォローさせて頂いている方の読了ツイートを読んで再読してみました。
いつのまにか柊子と同じぐらいの歳どころか年上になってしまっていた僕。
30代に読んだ時とは、また味わいが違って物語の濃厚なコクをより楽しめたように思いました。
4、感想(ネタバレあり)
「とっておけるもの」
柊子さんが言った。
「果物は、ほっておけば傷んだり腐ったりするでしょう?でもジャムにすればとっておける。味も香りも濃くなるし、色も濃くなってきれいだしね」
私は、果物は生のままのほうが好きだ。そう思ったけれど、言わずにおいた。
戦慄が走ったこの場面。
『がらくた』の物語の中核であるように思いました。
柊子が「とっておきたい」ものは果物だけではなくて、夫の愛情でもあるのでしょうか。
柊子が「遠くに行こうとした」のも「ほっておけば傷んだり腐ったりする」からだったように思います。
夫の愛情が。
それは狂おしいまでの愛情と執着。
柊子も原もどこかこの世の中から逸脱した存在のようです。
対して、「果物は生のままのほうが好きだ」と素直に思う美海。
15歳と45歳。
はじめての恋と、最後の恋。
『がらくた』では2種類の恋愛を味わうことができます。
もぎたての生の果実のようなフレッシュな恋と、熟成し形を変えながら円熟していく愛。
柊子と美海の視点で交互に語られる恋愛物語は、甘美で官能的な濃厚な味わったことのないような果実でした。
5、終わりに
「読んだことある本を何度も読んで何が楽しいの?」と時々言われますが、歳を経て考え方や感じ方が変化する中で再読すると物語がまた別の味わいを持つことがあります。
それもまた読書の醍醐味のひとつだと思いますし、良い作品は何度読んでもまた違う断面を見せてくれるように思います。
果物一つとっても、生のまま食べるか、ジャムにするか味わい方はそれぞれ。
物語もまた時を経てその味わいを変化させていくように思います。
『がらくた』はそんなことを考えさせてくれるような作品であり、狂おしいまでに濃密な恋愛小説だったと思います。
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