ヒロの本棚

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【本】三島由紀夫『潮騒』

1、作品の概要

 

1954年に刊行された書き下ろし長編小説。

第1回新潮文学賞を受賞。

ベストセラーとなり、5度も映画化された。

古代ギリシアの散文作品『ダフニスとクロエ』より着想を得た作品。

現代文明より隔離された離島での純朴な少年と少女の恋愛を描いた。

 

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2、あらすじ

 

現代文明から隔絶された歌島で漁師を営む若い新治は、父を早く亡くし、母と弟を助けながら毎日懸命に働いていた。

ある時、村の有力者・照吉の娘・初江を見かけて気にかけるようになる。

次第に惹かれあう2人は監的哨で抱き合い、結婚の約束を交わすのだった。

初江に想いを寄せる安夫、新治を快く思わない照吉が2人の仲を引き裂こうとするが、2人は想い合い続け、やがて好機が訪れる。

 

 

 

 

3、この作品に対する思い入れ

 

2度目の再読した。

20年とかだいぶ前に読んだ作品で、実家の親父の蔵書からパクった本でした。

昭和63年増刷刊行した37年前ぐらいの本です(笑)

表紙もどことなく昭和のシティポップみたいないい感じにレトロな表紙で気に入ってます。

 

三島由紀夫の作品としてはとても読みやすい恋愛小説で、僕的には子供時代に流行していた映画のシーンが印象的ですね。

監的哨で新治と初江が裸になって、初江が「その火を飛び越して来い」という場面はとても有名でした。

僕が観たのは山口百恵三浦友和のやつかな?

なんかエッチなシーンだと思っていましたが、まさか当時は三島由紀夫の作品だとは知りませんでした。

僕もいつかはそんな甘酸っぱい恋愛をして、真っ裸で焚き火を飛び越すのだと思っていましたが、ついぞそんなシチュエーションに出くわすことはありませんでした(笑)


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4、感想・書評

 

三島由紀夫10作目の作品だそうで、『愛の渇き』『禁色』の後ぐらいに書いた作品のようです。

それまで近代純文学全開の美しい文章と耽美や退廃が描かれていたのに、一転平易な恋愛小説が書かれたことに関して当時の文壇では批判的な声も多かったようですね。

ただ、起承転結がはっきりとした分かりやすいストーリーと、美しい島と海を舞台にした若者達の清々しい恋愛物語は広く大衆から受け入れられ、三島由紀夫の代表作(異色作でもありますが)として数えられています。

 

1954年と言えば第2次世界大戦で日本がアメリカに敗戦してからわずか9年ばかりしか経っておらず、戦後の混乱と復興の真っ只中。

1953年にTV放送が開始し、1964年には東京オリンピックが開催されますが、まだまだ復興の道すがらで人々の心にはまだ戦争の重い影がのしかかり、貧しい暮らしを強いられる人々も多かったことでしょう。

 

そのような時代において新治と初江の清らかで一途な恋愛物語は、当時の人達の心に希望の光のように映ったのかもしれません。

2人の名前も「新」と「初」がついていてなんだかこれから始まる新しい時代を、復興を予見させるような名前にも思えてきます。

 

またギリシア文学に影響されて、俗世から離れた生活を営んでいる離島の漁村を探した三島由紀夫が何を目的にこの歌島(現在は神島)を舞台にした物語を描こうとしたのでしょうか?

俗世から隔離された昔ながらの生活を営む島での物語は、まるで神話のように普遍的で、どこか浮世離れした雰囲気が漂わせています。

そういった島で育まれた純真さ。

真っ白な誠実さを三島は描きたかったのではないかと僕は想像します。

若者は彼をとりまくこの豊饒な自然と、彼自身との無上の調和を感じた。彼の深く吸う息は、自然をつくりなす目に見えぬものの一部が、若者の体の深みにまで染み入るように思われ、彼の聴く潮騒は、海の巨きな潮の流れが、彼の体内の若々しい血潮の流れと調べを合わせるように思われた。新治は日々の生活に、別に音楽を必要としなかったが、自然がそのまま音楽の必要を充たしていたからに相違ない。

 

この小説が単なる古典的青春恋愛小説に留まらない理由は、三島由紀夫の文章力と心理描写によるものが大きいのではないでしょうか。

島の自然の美しさや、時には猛り狂うような荒々しさ、そしてそれに抗う漁師たちのしなやかで強靭な肉体が詩的で耽美な筆致で描かれ、3人称で俯瞰の視点から恋愛の甘美さと狂おしいまでの絶望を新治の激しく揺れ動く心のうちをとてもリアルに描き出しています。

三島が描くと平易なはずの物語も光輝を発し始めるのでしょうし、どこか深みを帯びたものに変化していくように思います。

この場面とかも恋に落ちて、苦しい胸の内と、しかし会えて彼女に魅了される気持ちが端的に表現されていて素晴らしいと思います。

若者は安心して吐息をついた。彼の微笑した白い歯は闇の中に美しく露らわれた。急いで来たので、少女の胸は大きく息づいていた。新治は沖の濃紺のゆたかな波のうねりを思い出した。今朝からの苦しい憂いは解け、勇気が蘇った。

 

島を愛し、その地での生活を愛おしく思いながらも、新治はまた未知の海へ新しい世界へ飛び出すことを夢見てもいます。

それは新しく生まれ変わって力強く歩みだしていたこの国の再興への歩みと重なっていたのかもしれません。

潮騒』はそのような戦後の復興を象徴する作品だあったかのように僕は思っています。

 

hiro0706chang.hatenablog.com

 

 

 

5、終わりに

 

読んでいて、島の人間たちが身体を使って汗を流しながら働いている肉体の描写も多く、三島由紀夫がそのような文明から隔離されたような島の人達のしなやかで美しい肉体を描きたかったのではないかとも思いました。

そして初江のオッパイを描写した文章ですが、世界中でオッパイをこれだけ神々しく描写できる作家は三島由紀夫だけではないでしょうか?

無駄がなく、尚且つイメージを喚起させられるような美しい文章です。

薔薇色の蕾をもちあげている小高い一双の丘のあいだには、よく日に灼けた、しかも肌の繊細さと滑らかさと一脈の冷たさを失わない、早春の気を漂わせた谷間があった。四肢のととのった発育と歩を合わせて、乳房の育ちも決して遅れをとっていなかった。が、まだいくばくの固みを帯びたそのふくらみは、今やさめぎわの眠りにいて、ほんの羽毛の一触、ほんの微風の愛撫で、目をさましそうに見えるのである。

 

三島由紀夫は他の作品も読んでみたいですね!!

金閣寺』も再読したいし、『禁色』『愛の渇き』も読んでみたいです♪

 

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