1、作品の概要
宮下奈都原作で、2018年に公開された映画。
山崎賢人主演。
ピアノを調律する調律師の物語。
エンディング・テーマ をが、久石譲作曲、辻井伸行演奏「The Dream of the Lambs」
2、あらすじ
主人公の 外村は高校生の時に調律師の板鳥に出会い、調律師を目指すことを決意する。
ピアノを弾いたこともなく、音楽に興味があったわけではなかった外村だったが、専門学校を卒業し、板鳥がいる江藤楽器に就職することができた。
今まで、こだわりや、譲れないものなどを持ったことがない外村だったが、調律師の仕事を通して悩みながらも自分にとって大事なものを見つけていく。
先輩の柳、秋野にも影響を受けながら、真摯な姿勢で調律とは何かを考え努力し続ける外村。
ふたご姉妹和音、由仁のピアノにも影響を受けながら、自分が調律師として何を目指すべきなのかに気づいていく。
3、この作品に対する思い入れ
宮下奈都の原作がものすごく好きで、映画も観たいと思ってました。
ピアノの調律の話ですが、森に喩えて観念的に音を極めていく物語がとても素敵でした。
映画の尺では小説のエピソードを全部網羅することはできませんし、外村の板鳥さんへの憧れとその偉大さ、秋野さんとのエピソードなど原作から拾いきれない部分は多かったかもしれません。
それでも、小説では直接的に表現できない音楽と森の視覚的イメージ。
光に溢れた描写など心に残る良い映画だったと思います。
↓小説版の書評です♪
4、感想・書評
①音のイメージ、光と森の映像
僕は元々、小説・漫画が原作の作品もある程度楽しめる方で、「原作のイメージと違う!!」ってあまり思わないほうです。
それは、小説・漫画と映画の表現のフォーマットが全く違うものでそれぞれの媒体が持つ長所が違うと思っているからだと思います。
まぁ、それでも酷い映画もありますが(^-^;
今回、『羊と鋼の森』を観ていて僕がどうしてそういう感じ方をするのかわかったりました。
それは、映画で埋めきれない心理描写などを自分の脳内で知らずうちに補完しながら観ているからで、原作を先に読むことで映画の魅力を更に楽しめているのだなと思いました。
そして、映画が単なる原作との「答え合わせ」に終わらないような独自の表現をしている部分に耳目を傾けることが多いです。
映画の強みは、映像と音だと思います。
『羊と鋼の森』でも、森の美しい映像が外村の観念的な音への世界とリンクし、文章を超えたイメージの世界を描写しています。
原作の全てを表現できていませんが、映画でしか表現できない美しい映像を現出させています。
板鳥さんと、外村が初めて出会うシーンも印象的でとても素敵です。
誰もいない体育館。
響き渡るピアノの音と、森のイメージ。
影絵のように撮される森のイメージの演出がとても素敵でした!!
②調律師たち、ふたご達との関わり
外村の直接の上司であり師匠的存在の柳との関わりが映画では特にクローズアップされていて、いい感じです。
池松亮カッコイイですね~。
あんな先輩っていいよなって思います。
僕的には山崎賢人の演技も好感が持てました。
一見して、ああ外村だなって思えましたし、段々と自信を持って森を歩んでいく力強さも感じさせられました。
個人的に板鳥さんが、三浦友和がやっているのは?でしてが(^-^;
もっとシュッとしていてミステリアスなイメージがあったので。
まぁ、映画では板鳥さんは、何となく影が薄い感じでしたね。。
逆により強調されて物語の中心になっていたのが、ふたごとの関係。
上白石姉妹が演じた和音と悠仁。
外村の物語に寄り添うように2人の姉妹の物語が奏でられます。
③音楽との森イメージ
演奏者の音に寄り添い、イメージを共有する調律師の仕事。
とても繊細で、答えの出ない仕事だと思います。
題名の森は、幾重もの意味を持っていて、時に晴れやかな森と、理解したと思って踏み込んだ森が霧に満ちて一寸先も見えなかったり・・・。
技術的な仕事でありながら、ピアニストの芸術的感性(たとえ素人であっても)を理解することを求められる難しい役柄を求められます。
音楽自体、答えも終わりもない旅で、演奏者は1人の表現者として終わりのない夜を彷徨い続けるものなのかもしれません。
そして、その終わりなき放浪に寄り添う光が調律師なのかもしれません。
それ故に、森は深く。
美意識と表現の混沌の奥深くに踏み入っていく作業は、深い森の中にわけ行っていくことに似ているのでしょう。
外村は、彼の祖母が言っていたように、森の深くに入っていっても、戻ってこられる稀有な人材。
すなわち、完成と芸術性と、普遍的で日常的な感覚を持ち合わせた存在だったのでしょう。
ラストシーンで和音が水の奥深くに潜り、水面の光に手を伸ばしましたが、僕はまた音楽に海の底をイメージしました。
子供の頃に海で素潜りしましたが、深く深く潜っていく感覚。
無音だけど、何かが鳴っている。
生命と色彩と時間が深い青の中で鳴り響いている。
それと似通った感覚を覚えました。
5、終わりに
原作と同じように、映画も素晴らしい作品だったかと思います。
橋本光二郎監督の映像も素晴らしかったです。
ピアノを調律する場面では光を多く使った美しく幻想的な映像が印象的でした。
また、北海道の美しい風景の使い方、森の映像の挿入の演出が僕としてはとても美しく思えました。