1、作品の概要
『炎上する君』は、西加奈子の短編小説集。
2010年4月に角川書店より単行本が刊行され、2012年11月に角川文庫より文庫本が刊行された。
8編の短編小説が収録されている。
文庫版で205ページ。
文庫版の解説は又吉直樹。
2023年8月4日に映画『炎上する君』が公開された。

2、あらすじ
①太陽の上
中華料理店「太陽」の3階に住む「あなた」は、3年以上引き籠って部屋から出ない生活をしていた。
太陽の女将さんが休憩時間にバイトの男の子と大きな声で性交するのを聞きながら、暇つぶしにノートに女将さんの声を書きつけるが・・・。
②空を待つ
作家の「私」は夜の散歩中に他人の携帯電話を拾い、その携帯にメールを送ってくる「あっちゃん」とやりとりをするようになる。
「あっちゃん」の存在が日増しに大きくなり、「私」は・・・。
③甘い果実
小説家を目指して、本屋で働いている31歳の女性。
彼女は山崎ナオコーラに憧れ、執着していた。
④炎上する君
高校時代の親友・浜中とバンドを組んだ梨田。
2人は、足が炎上している男の噂を聞いて、尋常ならざる興味を抱いていた。
ついに、その男を目撃した2人は・・・。
⑤トロフィーワイフ
宇津木ひさ江は、孫の枝里子と2人で、夫の遺産で生活しながら、大きな屋敷に住んでいた。
彼女は、ただ綺麗でいることだけを求められた「トロフィーワイフ」としての自らの人生を振り返る。
⑥私のお尻
お尻のパーツモデルをしている女性。
誰もが彼女の魅力的なお尻を褒めそやしたが、次第に自身のお尻を憎らしく思うようになって・・・。
⑦舟の街
本当に参ってしまった人が辿り着く船の街。
失恋で徹底的に参ってしまった女が、地図にも載っていないその街に辿り着くが・・・。
⑧ある風船の落下
体が膨らんで浮き始める風船病が世界中で流行り始め、やがて地上から消えて地面を飛び立って「SHOOT」してしまう患者が現れ始めた。
25歳の「私」は、風船病にかかり、やがて「SHOOT」してしまうが・・・。
3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ
以前、読んで「なんかヘンテコだなぁ」とか思っていた短編でしたが、初読してだいぶ時間も経っていたし読み返してみました。
不思議な感触な短編小説集でしたが、以前よりそのひとつひとつの物語に籠められた、登場人物たちの生きづらさと、「うん、わかるよ!!」って全力で受容する西加奈子の優しい眼差しが感じられるように思いました。
4、感想(ネタバレあり)
①太陽の上
いや、もう女将さんのインパクトが凄すぎて(笑)
よく大将にバレないなってなぐらいの豪快な不倫ですね。
でも、そんな中でも大将への、太陽への愛情はあってそれを感じた主人公が引き籠り生活を脱する決心をするっていうのも、なにか意味深いものを感じました。
あなたは、太陽の上に住んでいる。
っていう、書き出しも印象的ですね。
あなたは、っていう2人称の書き方も珍しいですし。
ユニークさの中に、再生と愛を描いた良作でした。
②空を待つ
ファンタジックでなんだかいい話でした。
拾った携帯は自分の携帯で、「あっちゃん」も自分のことだとしたら、空の携帯でやり取りしていた「あっちゃん」もイマジナリーフレンド的な存在だったのでしょうか?
ちょっと病的な話にも感じられますが、それほどまでに追い詰められていて、誰かに助けを求めていた心境がいたいです。
私は、世界の只中にあるのだ。
私とあなた。
男と女。
昼と夜。
そんな相反するものたちが交じり合う時間。
黄昏時。
誰そ彼とも言う。
隣にいる、彼は、誰?
主体と客体も混ざり合って、混然と溶けていく。
その混沌こそ世界で、その混乱の中で。
生きていく。
うん、一番好きな話だったかも。
③甘い果実
もう何遍山崎ナオコーラって言うねん(笑)
っていう。
山崎ナオコーラさんは、これ読んで何を感じたのかとか聞いてみたいっすね。
でも、この鬱屈とした感じわかるわ。
同年代のキラキラした才能への嫉妬。
俺も、平野啓一郎氏が、大学生時代に芥川賞獲った時にはだいぶジェラシー。
④炎上する君
表題作。
映画化されていたのは知りませんでしたが、たしかにいい感じかも。
まあ、女子2人のキャラが濃厚で、西加奈子作品史上最特濃かもよ?
おかっぱ頭で「戦後」「火垂るの墓」とか言われていた梨田と、おさげで黒縁メガネをかけていて「戦中」「学徒動員」とか呼ばれていた2人が組んだバンド名が「大東亜戦争」ってめっちゃ笑いました。
炎上する君へと向けられた2人の恋の炎。
君は戦闘にいる。恋という戦闘のさなかにいる。誰がそれを、笑うことができようか。
君は炎上している
その炎は、きっと誰かを照らす。
煌々と。熱く。
どんなに誰かに笑われても。
みっともなくても、恋をして燃え上がったなら。
誰もきっとそれを笑うことができない。
珍妙な話ですが、誰かの情熱を、恋を、夢を笑うなっ!!
っていう、メッセージが感じられました。
⑤トロフィーワイフ
しっとりした良い短編。
トロフィーワイフ、っていやな言葉ですが、金持ちのオッサンが考えることはひとつなのでしょうかね?
唾棄すべき考え方ですが、見栄えがいい妻を傍らに置くことでの、周囲への見栄や交際のありかたもあるのかと思います。
モノみたいな扱いやん。
しかし、回顧的で、どこかメランコリックな作品は限定された彼女の人生をまざまざと見せつけられるような、甘やかな痛みがありました。
幸せ、だった?
「あなたのような人をね、欧米ではトロフィーワイフというのよ。
中略
お料理もお掃除もお洗濯もしなくていい。ただただ、ずっと綺麗でいることよ。
⑥私のお尻
お尻ばかり褒められても、ね?
っていう、話ですね。
最後のオチが秀逸でした。
⑦舟の街
34歳で、親友に彼氏を盗られてって、だいぶダメージ大きいですよね。
3年も交際しててっていうのも・・・。
絶望して、舟の街に行ってしまう。
でも、最後の猫の公園だったていう展開。
結局、どこにも行けないっていう意味にも思えましたし、酷薄な現実の中にも見方を変えたら救いが存在するっていうことにも思えました。
⑧ある風船の落下
絶望に囚われてSHOOTした人々が、愛に囚われて落下してくるっていう構図が面白かったですね。
5、終わりに
ギリギリの生きづらさを抱えた人々の物語。
表現の仕方こそ違えと、根底に流れているのはそういった人々への共感と、連帯の想いだったように感じました。
そういう西加奈子の優しさと、懐の深さに毎回ホントヤラレます。
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