1、作品の概要
『浮遊』は遠野遥の中編小説。
2023年1月に刊行された。
単行本で137ページ。
「文藝」2022年秋季号に掲載された。
装画が槇本惠。
ゲームの世界と、現実の世界が交じりあうように交錯していく。
2、あらすじ
高校生のふうかは、父親ほど歳の離れた「碧くん」と同棲している。
彼女がはじめたホラーゲーム『浮遊』は、生前の記憶を失くした幽霊が悪霊から逃れながら、自分の記憶を取り戻すゲーム。
ゲームの世界は現実にリンクし混じりあっていく。
3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ
遠野遥は気になる新進気鋭の作家で、デビュー作の『改良』で三島由紀夫さの再来と騒がれ。『破局』で芥川賞を受賞しました。
『浮遊』は彼にとって4作目の作品。
これまでの作品はすべて読んでいて、今作も手に取ってみました。
槇本惠さんの装画も印象的でした。
作品の雰囲気によくマッチしていて、不穏な感じがします。
4、感想(ネタバレあり)
高校生のふうかは、父親と同い年の碧君と付き合っているというか、同棲していますがこれはだいぶアウトな感じですね。
父親も、ふうかが「友達の家」に住んでいることを知っていて、放置しています。
仲が悪いというとそうでもなくで、娘思いの父親という感じでLINEや電話も頻繁にしている。
初っ端から違和感バリバリで気持ち悪い感じです。
しかし、そのことについての説明もなく淡々と話が続いていく感じがザワります。
リアルな東京を舞台にしたホラーゲームの『浮遊』はふうかが生きる現実とどこかリンクしているように感じます。
主人公の女の子ともふうかと同じぐらいの年で小柄みたいですし、最初にいた美術館もふうかが行ったことがある場所だったりします。
読み進めていくうちに、現実と虚構の境目があいまいになっていくような・・・。
そんな感覚に捉われました。
現実の描写からゲームの描写に移行すると時に段落を空けたり、ゲーム内の描写とわかるようにフォントを変えたりみたいな分け方を一切していないのは確信犯でしょう。
現実と虚構はシームレスに繋がっていいきます。
ふうかは、「現実の方が疲れる。ゲームは何時間やっても疲れない」と考えます。
現実の世界でのコミュニケーションや生活はストレスフルで疲弊する。
現実より、仮想現実の世界でのほうが生きやすい。
これはなにか不吉な予言のように思います。
現実からの浮遊。
『浮遊』では、こんなふうにザラザラと神経を削るような描写が特段の感情移入なくさらりとされていくのがなんとも落ち着かない気持ちになります。
こんなふうに語り過ぎず、物語の余白を多く作ることで、逆に物語の中で起こる事柄に重みを付すような手法が遠野遥の作家性ではないかと僕は思います。
主人公のふうか自身の家庭環境や境遇も、断片的にしか語られず、今は家にいない母親からは十分な愛情を受け取れてなかったことも感じさせられるように思いますね。
結末は唐突に訪れて「えっ、これで終わり?」と投げ出されたような気分になりました。
でも、TVでも取り上げられた新進気鋭のIT会社の社長が高校生の女の子と同棲して、あげくの果てに一緒に旅行に行くとかどう考えても異常だし、こんなことが続くわけがない。
そんなカタストロフィの予感を抱かせるようなラストだったと思います。
5、終わりに
ゲームの女の子と黒田の関係性も、ふうかと「碧くん」の関係性を暗に示していたような気もしますが、どうでしょうかね?
黒田の職業がIT企業のSEっていうのも、なにか匂わせな感じがしました。
*追記
よく考えてみたら黒田がゲームの主人公と会う前に行動を共にしていた女性が30代と思われる女性で、かつて碧くんが付き合っていた30代のアーティスト女性・紗季と重なります。
ふうか、碧くん、紗季の年齢と性別が、そのままゲームの登場人物の3人に当てはまっていますがどういう意図なのか・・・。
初読で「??????」になってしまって、2回目もザーッと読んで、「あれ?もしかしたらこういうこと?」みたいに思いました。
まだ謎が多く、他の方の感想も読んでみたいです。
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