ヒロの本棚

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【本】田口ランディ『キュア』~いのちを救うことは悪いことではありません~

1、作品の概要

 

2008年に刊行された田口ランディの長編小説。

特異な能力を持った外科医が悩みながら自分にとっての「治療」を模索していく。

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2、あらすじ

 

外科医の斐川竜介は、シャーマンであった祖母から受け継いだ不思議な力を持って手術を行い高い評価を得ていた。

しかし、若くして末期の肝臓がんであることがわかった斐川は、その特異な能力を持って自らを救う道を模索し始める。

自らの力を持て余しながらも、キョウコの存在に支えられ、反発しながらもまな子の導かれて少しずつ求めていた真理に近づいていく斐川。

医療を拒否して信仰に救いを求める川村、ガンサバイバーでスピリチュアルな教祖の藤村、ゼロ磁場を使って治癒を試みる星野。

彼らとは違う自分だけの「キュア」に辿り着くことで、斐川は自らの生まれてきた理由を理解するのだった。

 

 

 

3、この作品に対する思い入れ

 

いやー、面白くて1日で一気読みしてしまいました。

田口ランディは学生の頃にめっちゃハマったスピリチュアルでオカルトな要素満載の作家さんですが、僕はめっちゃ好きです。

『コンセント』『アンテナ』『モザイク』の3部作にはめっちゃハマったなぁ~。

『コンセント』『アンテナ』は、映画化もされています。

 

エッセイも着眼点が独特で、ざっくばらんで面白いんですよね~。

下ネタも満載だし(笑)

エッセイはそんなに読みませんが、エッセイを読みたいと思わせられるような面白い文章を書く数少ない作家さんです。

あくまで僕にとってですが(笑)

 

久々に読んだ田口ランディ『キュア』は自身もガンに侵された父を看取った経験も交えて、医療とは、生命とは、世界とはと、スケールが大きく多彩なテーマで、とても惹きつけられました。

うーん、やっぱり好きやなぁ♪

 

 

4、感想・書評

 

田口ランディ自身もガンで父親を亡くし、この本が刊行された日は父親の葬儀の日だったみたいですが、自身の経験も交えながら以前から考えていた生命や医療についての物語を書いたのだと思います。

しばらく読んでいませんでしたが、この作家さんとはどこか波長が合うというか、彼女の書く文章は僕の細胞ひとつひとつに沁み渡っていくように感じます。

まるで真夏に10キロジョギングして飲むキンキンに冷えたポカリスエットみたいに。

 

実は、僕も昨年末に父親をガンで亡くしていまして・・・。

そういった意味でもこの作品は刺さりました。

父は気付いたときはもう手遅れで、あっという間に亡くなってしまいましたが、亡くなるまでの数ヵ月彼にとって何が最善のケアなのかを考え続けた時間でした。

その人にとって望むケアをするということは、人生歴や考え方家族の状況などの様々な要素を理解した上で、意向を汲みながら治療や関わり方を考えていくことだと思います。

とても個人的で繊細な関わりが「ケア」なのだと思いますし、父との関わりも残された時間、散らばっていく意識とのせめぎあいのような瞬間の連続でした。

 

医療行為には「キュア」と「ケア」があります。

「キュア」は主に医師が担当する医学的な治療で、「ケア」は主に看護師が担当する精神面も含めた総合的医療的なバックアップみたいなニュアンスだと思います。

あえてこの小説のタイトルを「キュア」にしたのは、一種のアイロニーのようにも感じますし、医療的な処置の意味を再編したいという想いが込められているようにも思います。

小説の中で、現代の医療のシステムへの批判は随所に見られましたが、かといって現代の医療を全否定するものでもなかったかと思います。

 

斐川が目指した医療は、救いはどういうものだったのでしょうか?

彼は前世からの「人を救いたい」という、自分でも出処がわからないような湧き上がるような想いがありました。

応仁の乱直前の地獄のような京都で、僧侶と出会い彼に師事しますが、祈るだけで神に救いを求める仏教の在り方に疑問を感じ、直接人々を助ける道を選びます。

彼は力及ばず命を落としてしまいますが、そのことが今世での阿闍梨、川村さんとの因縁に繋がっていますし、おそらく「人を救いたい」という想いも、もっと過去世からの因縁と課題なのでしょう。

斐川として生まれた今世でアイスーラの超常的な力を受け継いで、患者の精神にまで同調して肉体も精神も治癒することができる力を得たのも、その課題を解決し自らが目指す「キュア」をなす為のものだったのでしょう。

斐川が目指した救いとは、肉体も精神も含めての治癒であったと思いますし、例え病気で命を落としても、死ぬまで自分らしく生きられること死を受け入れていくことだったのではないかと思います。

 

 

 

5、終わりに

 

ガンになって余命幾ばくもないとなった時、あなたはどう過ごしますか?

現代医療を信じてとことん治癒、もしくは延命を目指す。

一切の治療を放棄して自分らしく生きながらその日を迎える。

民間療法や、スピリチュアル的な何かに縋って、病気と戦う。

様々な選択肢があると思いますし、自分の考えで最後まで自分らしく生きていけば良いと思います。

 

父は、僕が提案した最後の迎え方(自宅で静かに過ごす)を良しとはせず、現代医療を信じて最後まで闘う道を選びました。

すい臓がんであまりにも進行が早く、実際には闘うチャンスすら与えられなかったですが、その前のめりな生き方や最後の日々はとても父らしいもので、最後まで彼らしく振舞ってあの世へと旅立っていきました。

その人にとっての望む治療、最後の迎え方は千差万別ですし、本人が望むキュアを受けることが大事なのでしょう。

 

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