1、作品の概要
『恋じゃねえから』は渡辺ペコの漫画。
『モ-ニングtwo』で2021年11月号から連載している。
2024年6月現在4巻まで発売されている、
創作と性加害、40代の友情、未成年の恋愛など多層的に現代社会の問題を描いている。
2、あらすじ
茜は、40歳の主婦で夫と娘との3人暮らし。
それなりに平穏な日々を送っていた。
茜が中学生の頃に、塾講師をしていた今井先生が彫刻家のアーティストとして注目されていると聞き個展に行くが、作品のひとつにかつての親友・紫(ゆかり)がモデルの裸の少女像を見つける。
14歳だった紫は、当時大学生だった今井先生と交際していて、裸の写真を撮られていた。
2人は親友だったが、茜が紫からのSOSを無視したことで疎遠にないり26年会うことがなかった。
茜はこのことを伝えるべく、今度こそ紫の力になるべく彼女に連絡を取るが・・・。
3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ
友人からおすすめされて読んでみたら、だいぶ衝撃的で突き刺さる内容でぶっ飛ばされました。
作者の渡辺ペコさんの前の作品『1122』も夫婦の問題を扱った刺さる作品でしたが、『恋じゃねえから』はさらに心えぐられる内容でした。
4、感想(ちょっとネタバレあり)
創作と性加害。
『恋じゃねえから』の一番の大きなテーマだと思いますが、その時に恋愛だったものが変質していく、なにかグロテスクなものに変容していく様がとても苦しかったです。
創作をした今井先生は、紫との淡い思い出を綺麗なものとして覚えていて、それを作品として昇華した。
紫が作品を見つけてくれることをどこかで期待していた、と言います。
あー、なんかこういう男の独りよがり的な思い出美化的なアレ。
まあ、わからなくはないですが、そんなんは幻想なんだと大人になって気付かなきゃいけないはずなのに、今井先生はあの頃のままで変わっていない。
まあ、アーティストなんだからちょっとぐらいぶっ飛んでるのは許されるのか?
対してモデルにされた紫は、芸術作品とはいえ当時親密な関係だったからこそ見せた自分の裸を、許可なしに使われてしまったことに憤りと気持ち悪さを感じています。
それは当然なことですし、ましてやインターネットやTVなんかで話題になれば画像もあっという間に伝播されていく。
自分の裸をモチーフにした作品を多くの人間が目にするのは耐えがたいことだと思います。
そして、創作と性加害の問題に加えて、当時紫が14歳だったということもあります。
当時21歳だった今井先生ですが、セックスもしていて、だいぶアカン感じですね・・・。
14歳といえば、はっきりとした自分の考えはできてきているとはいえ、まだまだ子供。
いかに恋愛関係でお互いの同意があったとはいえ、だいぶアウトだと思います。
本当に紫のことが大事なのなら18歳まで待つこともできたのじゃないかな。
ただ、紫と今井先生は、同じような家庭内暴力にさらされた家庭環境にいて、伊達メガネをかけてフィルターごしでないとこの世界を見られないなど、共通点も多く深く繋がっていたのだと思います。
紫は結局自分がモデルになった作品のことを忘れてなかったことにはできずに、茜と一緒に個展に乗り込んで破壊。
作品を破壊する、暴力を暴力で返すようでどうかなと思う行為でしたが、正しくはなくても2人にとって必要な行為だったのでしょう。
それから2人の関係性はより親密なものになってきましたし、物語の始まりは硬く暗い表情が多かったのですが、笑顔でリラックスした表情も多く描かれるようになり、このあたりの描写も巧みだなと思いました。
40歳になって、やり直しのきかない人生で2度目のチャンスが来たらどうするか?
茜は遠い昔に失ったかけがえのない友達ともう一度繋がることができました。
ずっと悔いに思っていて、その後の自分の人生の在り方にも大きな影響を与えた親友との不本意な別離。
40歳も過ぎれば、過去に失ってしまってもう取り返せないもの、あの時にもっとこうしいてればという後悔、そんなものは山ほどあって傷だらけです。
でも、遅くない。
やり直せる。
40代になってお互いに生活している環境も、住む場所も違っていてもお互いに支え合っている2人をみるとそう思いました。
漫画読んでてよく思うのが、加齢による変化があまり感じられないってありますが、『恋じゃねえから』は茜、紫、今井先生の加齢も絵でリアルに表現されていてハッとさせられました。
なにかやたら美男美女が出てくる漫画もありますが、主人公の茜の容姿はリアリティを感じました。
ファッキン・ルッキズム。
4巻の最後で今井先生の息子くんの写真がネットにアップされて性加害の被害者になった?っていう場面で終わりますが、誰しもが被害者であり、加害者になりうるというこの問題を皮肉な形で描いているように思いました。
14歳(紫)と4歳(今井先生の息子)という違いはありますが、かつて自分がしたことが返ってくる。
「同意があったよね?」と相手の心の痛みも慮らずに吐いた言葉が「空に唾を吐く」BY米津玄師な感じで。
この息子くん、途中まで性別わかんなくて女子かと思ってたし、母親の紅子との関係とか問題を抱えていそうな予感。
性同一性障害なのかな、とも思いながら読んでいました。
ちょっと前に妻が次男に性被害の話をしていて、「いや男だから大丈夫でしょ?」って言って「そんなことはないから。世の中にはいろいろな人間がいるから」って言われたのですがその通りでした。
最近は、小中高生の男子が性被害にあっているニュースもよく見かけますし、大人がこの問題に対してもっと真剣にならなければならないのだと思います。
欧米などでは、父親が娘と入浴するのはあり得ないみたいですし、幼児を1人でトイレで行かすのもタブーみたいですね。
紅子も家族関係のもつれからの歪さを抱えているし、茜も摂食障害から入れ歯をしなければいけなくったり、紫も実家との関係がこじれていてなど登場人物たちが抱えている生きにくさが突き刺さります。
茜と紫が行った破壊行動に傷付いた存在もいて、茜の娘・葵とその友人の翠にも波及したりして。
いや、話し出せばキリがないほどにたくさんの要素が詰め込まれていて、そのひとつひとつが身につまされるものでした。
これは決して特別な物語じゃない。
誰もがそうなり得た話。
誰かの問題は、あなたの問題。
だから。
目を背けないで。
そんなメッセージが発信されているように感じました。
5、終わりに
凪いだ池の水面に投げ込まれた石つぶて。
水面を揺らして幾重にも広がった水紋は、やがて届く。
あなたの元にも。
『恋じゃねえから』が表現している重層的な社会の疾病は、多くの気づきを与えるように思います。
渡辺ペコは、1977年代生まれのいわゆるヒロ世代(僕しか言ってませんが)で、なにか余計にシンパシーを感じましたが、40代のリアリティに強く共感しました。
ちなみに前作『1122』(いいふうふ)がアマプラのドラマで6.14独占配信開始。
こちらも楽しみです。
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