風が吹いていた。
真冬にしては珍しい強い低気圧が列島を包み、僕が住む街にも雪が降り続けている。
夜の帳が落ちた街。
街灯に照らされたアスファルトのステージで雪の精が踊り続ける。
この国の最南端に位置するこの街では、雪は積もらずに明日には夢のように消えてしまうだろう。
そう思うと。
今目の前で振り続け、僕の体を冷やし続けている淡雪でさえも。
愛おしく感じてくる。
立ち止まって、空を見上げる。
星のない空はどこまでも深く暗く。
広げた手のひらで雪は溶けてなくなった。
アパートのドアを開けると、君が笑顔で迎えてくれた。
「まぁ、あなた幽霊でも見てきたようなひどい顔をしているわね」
含み笑いをして僕を抱いて迎え入れる。
凍りついて僕の身体に少しずつ明かりが灯るような気がする。
「外が寒すぎて・・・。この冬一番の冷え込みだってさ・・・」
君をかき抱くようにして凍てついた身体を擦り付ける。
とても温かい。
心までほどけていくようなぬくもり。
僕は目を閉じて、君の「熱」を感じ続ける。
「もうどこにもいたくないよ」
僕は目を閉じたまま、夢見心地で言った。
君は困ったように笑って、僕の身体を温め続ける。
「君がいてくれたら、僕は他に何もいらないんだよ。」
風が強く窓を叩き。
「もうどこにも行きたくない。」
雪が窓を凍てつかせる。
「君のぬくもりさえあれば。」
彼女は困ったように微笑む。
僕は君の温もりの中で微睡み続ける。
いつか、離れ離れにならない運命はわかっているのだけれど。
僕は、やるべきことがあるのだから。
「ねぇ、もう行かなきゃね」
彼女が優しく囁いた。
後ろ髪を引かれながら、僕はやがて起き上がる。
僕は、彼女とはずっと一緒にいられないのだから・・・。
「大好きだよ、コタツ」
僕は、彼女の名前を呼んで勢いよく起き上がった。
お風呂に入るために・・・。