ヒロの本棚

本、映画、音楽、写真などについて書きます!!

【創作】朝の別離

夕べ窓を洗った激しい雨は止み、空は少しずつ白み始めていた。

夜気は澄んで張り詰めていたが、徐々に朝の空気に変化していく。

 

夜が明ける。

 

僕は、いつのまに覚醒していたのだろうか?

気づくと、現実の中にいた。

できれば夢の続きを見ていたかったのだけれど。

現実が、無慈悲に夢の世界に侵食し、まどろみの衣を剥ぎ取っていった。

 

僕は、口角を上げて。

皮肉っぽく笑う。

いつだってそうだ。

 

楽しく、くつろいで癒されている時間は短く、あっという間に去っていく。

無慈悲な徴税人が、貧しい人々からただ一枚の銅貨も奪い取るように。

 

世界はとても酷薄で。

僕は白んでいく朝に。

この世界に。

いつも取り残されていく。

 

わかっているよ。

時が近いって。

誰にもどうしようもできないんだ。

ここは、遥か遠く太古の昔に定められた時間の果て。

僕はその淵に必死でしがみついている。

終わりの時を予感しながら。

 

もうすぐ鐘がなる。

ああ、わかっている。

僕はそのことを知っているんだよ。

まるで、輪廻の果てのようなこの瞬間に。

終わりが、訪れる。

 

「ねえ」

彼女は言う。

「もう目覚めているのよね」

声から、ふわりという音がするように。

とてもとても柔らかく。

音色が。

声色が膨らんで、そして縮んで。

優しく僕の鼓膜を刺激する。

 

君の、声だ。

何度も。

何度も。

繰り返して聞いた。

君の声だ。

 

「ああ」

掠れた声で応える。

僕の、声。

君にどう響いているのだろうか?

 

 

「朝だね」

空気が柔らかく揺れる。

とても、かすかに頼りなく。

君は微笑んでいるのだろう。

だぶん。

 

「もう行かなくちゃね」

君は言う。

朝の空気みたいに張り詰めた調子で。

「んん」

くぐもった声で、僕は答える。

 

わかっているよ。

でも。

もう少しだけ。

微睡んでいたいんだ。

 

昨夜の雨は窓を洗い流して。

世界の輝きを伝える。

窓を光が透過して。

 

空を覆っていた雲は去って、もうすぐ山際を太陽の光が白く染める。

そして、青と赤のグラデーションが街を照らしていく。

 

朝だ。

 

始まり。

朝。

太陽。

希望。

そういった一つ一つが世界を染めていく。

 

でも、僕は思う。

祝福しなければならないのだろうか?

始まりを。

朝を。

希望を。

 

僕は君をかき抱き。

抵抗を試みる。

希望に。

祝福に。

 

「なに?」

君が微笑む。

 

もう少し微睡んでいたいんだ。

この世界の希望に背を向けて。

怠惰に身を委ねて。

 

だけど、君は言う。

「あなたは行かなければならない」

 

わかっている。

だけど、僕は抗わずにいられない。

僕たちを引き離そうとする運命に。

時間に。

そして。

神々に。

 

「どうして」

僕は言う。

「僕はここでずっと君を抱いていたいんだよ?君のことが好きだ。君は、僕の心の中の灯火だよ。君を失ったら僕は凍えてしまうよ」

君は困ったように微笑み僕に言う。

「本当はわかってるんでしょう?あなたはもう行かなければならない。あなたを待っている人たちがいる。あなたを必要としている人がいるのよ。わかるでしょう?」

 

僕は彼女に言う。

「誰が僕のことを待っていたってかまわない。世界が滅びたければ滅びればいい。もうたくさんだよ。僕は君とずっと一緒にここにいたいんだ」

君が困ったように微笑んだ気がした。

 

夢と覚醒の境界で、最後の鐘が鳴った。

別離の時が近い。

「さぁ、もう行きなさい。あなたを待っている人がいるのよ」

 

わかっている。

こうやって、僕達は幾星霜。

何千回も、何万回も別れを繰り返してきた。

そして必ずまた巡り合ってきたんだ。

何度も。

 

僕は跳ね起き、冷たい世界へと旅立っていく。

世界は無慈悲だ。

希望は不寛容だ。

僕は光を、憎む。

 

朝日は、木々を染めて。

鳥たちは歌う。

祝福の歌を

 

僕は、部屋を出る前に君に言う。

「今夜もう一度会えるかな?」

「私はいつでもあなたを待っているわ。ずっと、この場所で」

君の言葉に、涙が溢れそうになる。

 

「この世界はとても冷たい。だけど今日もやれるだけやってみるよ」

僕は君に言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛してるよ。お布団」

 

 

 

 

 

毎朝、繰り返される。

悲しい別離の物語。

僕は、お布団と別れて冷たく凍りついた世界へと歩いていく。

 

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 おあとがよろしいようで(笑)冬の朝の悲しい別離の物語です☆

 

 

 

 

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