1、作品の概要
『バースデイ・ガール』は村上春樹の短編小説。
2017年11月に刊行された。
初出は、村上春樹翻訳の誕生日をテーマにした短編小説のアンソロジー『バースデイ・ストーリーズ』に掲載された。
イラストはカット・メンシックが担当。
1編の短編小説に挿画が多く掲載されている。
あとがきを含めて61ページ。
『めくらやなぎと眠る女 TWENTY STORIES』にも収録されている。
2、あらすじ
20歳の誕生日を迎えた女の子は、彼氏とも喧嘩した上に、体調を崩した他のスタッフの穴埋めでアルバイトをしていた。
女の子がアルバイトをしていたイタリア料理店では、フロアマネージャーがオーナーに毎日夕食を持って行っていたが、急な体調不良でその役目が女の子に回ってきた。
女の子が今日20歳の誕生日を迎えたことを知ったオーナーは、「もし願いごとがあれば、ひとつだけかなえてあげよう」と言った。
そして女の子は言われたとおり願い事をひとつするが・・・。
3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ
村上春樹の長編、短編小説はほぼ全て読んでいたと思っていましたが、この『バースデイ・ガール』の存在は知らず、図書館で借りてきました。
翻訳かなんかかと思っていたら、フツーに短編小説で、Xで投稿されていて知りました。
いや、はよ教えてや!!知らんかったがな(笑)
挿画もたくさんあって読みやすかったとです。
村上春樹読んだことない人も、読みやすくておススメですよ~。
4、感想(ネタバレあり)
誕生日をテーマにした海外の短編小説を翻訳してアンソロジーを作っていた村上春樹が、行き詰って「ええい面倒だ」と自分で書いて収録したというのがこの『バースデイ・ガール』だったみたいですね。
そんないきさつのわりにやはりクオリティは高く、独特の魅力を放っている作品だと思います。
孤独な20歳の誕生日を、しかもアルバイトをして過ごしていた女の子。
最後に、「ひとつだけ願いごとをかなえてあげる」という素敵な転機が訪れます。
しかし、その願いごとは明かされることなく、何十年後かにある男性とその時のことを話している場面が描写されています。
このモヤッとする感じがいいですね。
村上春樹らしい。
願いごとというのは、誰かに言っちゃいけないことなのよ、きっと」
彼女の願い事は、若い女の子がするには一風変わっていて、時間がかかるもので、数十年経ったあとも叶えられたかどうか判断できないものみたいですね。
う~ん、なんだろう(;^ω^)
客観的にみて公認会計士の男性と結婚し、2人の子供がいて、アイリッシュ・セッターも1匹飼っていて、アウディに乗って、週2回は女友達とテニスもしている人生はだいぶいいものに思えますが、彼女はその幸福に対してもどこか諦観のようなものを滲ませています。
彼女はかつてした願いごとを後悔しているでしょうか?
後悔というか諦観の中で現在の状況を受け入れているように思います。
文句なしに幸福のように見えますが、どこか敷かれたレールの上を走らされているような、ある種の呪いのようなものを感じているのではないでしょうか?
20歳の誕生日の夜にした願いごとは、もしかしたらそういった自分自身の枠の外へと出て運命を変革させるような願いごとで、人生の最後の瞬間になってみないと評価ができないようなものだったのかなと思いました。
「人間というのはなにを望んだところで、どこまでいったところで、自分以外にはなれないものなのねっていうこと。ただそれだけ」
あなたは、20歳の誕生日の夜にひとつだけ願うとしたら何を願いますか?
5、終わりに
物語の終わりに、女性から「あなただったら20歳の誕生日に何を願う?」と問われて、男性が「何も思いつかないよ」と答えます。
ラストの「あなたはきっと願ってしまったのよ」という言葉はとても印象的でした。
人は若い時に、無意識的に自覚もないままになにかを願うのでしょうか?
しかし年を経てなにかを願うことも、望むことも少なくなってしまう・・・。
そんなことを考えました。
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