1、作品の概要
『落下の解剖学』はフランスの映画。
2023年8月23日にフランスで、2024年2月23日に公開された。
ジュスティーヌ・トリエが監督・脚本。
主演は『関心領域』にも出演しているザンドラ・ヒュラー。
上映時間は152分。
第76回カンヌ国際映画祭でパルム・ドール賞、パルムドッグ賞を受賞し、クィア・パルムにノミネートされた。
夫の事故死から殺人の嫌疑をかけられる妻、法廷で夫婦関係が赤裸々に暴かれていく。
2024年9月27日よりアマゾンプライムビデオで独占見放題配信されている。
2、あらすじ
フランスの山荘で転落死をしたサミュエル。
事故時には妻・サンドラ(ザンドラ・ヒュラー)が在宅で、第一発見者は11歳の弱視の息子・ダニエルだった。
殺人容疑で連行され、裁判で審議が進む中、夫婦関係の軋轢が赤裸々に暴かれ、サミュエルの死の前日にも激しい喧嘩があったことがわかる。
窮地に陥るサンドラだったが、旧知の仲の弁護士・ヴァンサンにフォローされ、無罪を主張する。
そして、現場にいた息子のダニエルの証言が法廷を大きく動かしいく・・・。
3、この作品に対する思い入れ、観たキッカケ
映画公開時から、Xなどでも称賛の声が多く気になっていた映画でした。
うーん、でもミステリーっぽい作品あんまり観ないし、どうかな~?って思っていました。(全然ミステリーじゃなかったのですが)
そして、我らがアマゾンプライムビデオ様が独占生配信すると聞き、こりゃ観るしかねぇ!!ってなりました。
日本では2月公開だったのに、9月末にはもう配信って最近作品によっては配信するのめっちゃ早いっすね~。
4、感想(ネタバレあり)
ネタバレありとか言いながら、ネタバレするようなネタなんてありゃしません。
なんせ真相は最後まで明らかにならないのですから。
あっ、もしかしたらこの部分が最大のネタバレかもですね。
このモヤモヤ感をどう捉えるかで、映画の賛否が分かれるように思います。
ミステリー作品だと思ってみると楽しめない映画だと思います。
wikiでこの映画のことを調べていて面白いなと思ったのは、嫌疑をかけられる妻役を演じた主演のザンドラ・ヒュラーも自分の役が有罪なのか無罪なのか知らされておらず、トリエ監督に繰り返し尋ねても教えてくれなかったとのことです。
いや、自分が有罪なのか無罪なのかも知らないで法廷でのやり取りを演じるってすごくないですか?
たしかに観てて何か捉えどころがないというか不思議な感じの演技だったんですよね。
さらにトリエ監督は、彼女の言語について言及していて、ドイツ人でフランス語はあまり話せず、英語で話すという設定を意図的に彼女の存在を曖昧なものにするためにそうしたと言っています。
「彼女が英語を話し、フランス語を話そうと挑戦しているドイツ人であるという事実が、多くの仮面を作り出し、問題を曖昧にし、彼女が何者なのかさらなる混乱を生み出す。」
さらに作家であり、レズビアンであり・・・と、多面性を持った女性だと思います。
ミステリー作品のような謎解きがない『落下の解剖学』ですが、法廷で明かされていく家族の関係性や、サンドラの人間性が生々しくてリアルでした。
特に夫婦喧嘩の録音が法廷で流されるシーン。
普通、万人に聞かれるべきものではないし、誰にだって親しい人と大喧嘩をしたことはあるはずです。
まあ、ワイングラスをぶち割ったり、掴みかかったりするのはなかなか激しいですが(;^ω^)
そんなふうに通常露見されるべきではないプレイベートな部分が法廷で衆目に晒されるという部分が、とてもぞわぞわしました。
夫婦関係でも、法廷でもキーとなる存在が2人の息子のダニエル。
幼い頃に事故により弱視になってしまいましたが、その事故も迎えにいくのが遅くなってしまったサミュエルの責任で、彼はそのことが原因で精神を病んでしまいます。
しかし、そのことで責任を感じたこともあるのかもしれませんが、より親密にダニエルと関わるようになります。
対して、作家として順風満帆なキャリアをひた走り、不倫をしたりと奔放なサンドラ。
サミュエルは自分が書けなかったアイデアをサンドラに譲渡して、そのアイデアを基に傑作を書き上げたのを見て更にフラストレーションを溜め込んでしまいます。
ちょっと嫉妬もあるのかもだけど、家事、育児、仕事のバランスでの折り合いがつかないと夫婦関係は大きく損なわれてしまいますね(;^ω^)
でも、そんなイッツ・ファミリー・アフェアは不特定多数に向けて発信されるべきものではないし、息子のダニエルの前でも赤裸々に暴露されてしまいます。
いや、もうなんかやめてあげて~!!って感じでした・・・。
映画の中では実際にサンドラがサミュエルを殺害したのか?
殺害したとしたら事故だったのか、故意だったのか?
などのことは一切明らかにされていません。
でも、たぶんサンドラさん殺っちゃってますよね?
そして、ダニエルもその事実に気づいて母親を救うことになる貴重な証言をすることになったんじゃないのかな?
車の中で父親と話した内容で、自身の自殺を仄めかすようなものでした。
でも、この証言って・・・。
たぶん、ダニエルくんの創作ですよね?
えっ、違うかな?
両親が物書きだけあって、ストーリーテラーの才能が備わっていたという皮肉。
大好きだったパパを殺したママを助けるためについた嘘。
だったとしたら、どれだけ彼の心に重い十字架を背負わせてしまったのでしょうか・・・。
ダニエルくんの葛藤と言動もこの映画の大きなみどころだったと思います。
細かいセリフは忘れましたが、無罪を勝ち取ったサンドラが自宅に帰ってダニエルと語り合った2人の言葉に2人の共謀のあとをみたように思いました
でも、父親が殺されて母親が殺人犯で、自分は弱視とかになったら人生真っ暗ですから、そりゃ倫理とか余裕で踏み越えて母親を助けようとしますよね?
なかなかモヤモヤさせられる映画でしたが、スッキリ解決よりこのモヤモヤ感が好きな僕にはとてもいい映画でした。
5、終わりに
ほとんど予備知識ないままに観て、とても楽しめました。
法廷のシーンや、夫婦喧嘩の回想の場面も良かったですし、ミステリーのように始まったこの映画が、実はドロドロした人間ドラマだったというのが斬新で良かったです。
芥川龍之介『藪の中』的な?
あと、ダニエル役の男の子が天使のように可愛かったです。
ミステリー展開を求めている方にはおすすめできませんが、モヤモヤする人間ドラマが観たい方にはお勧めの映画です。
そして、この映画が好きな方は以下の3作品もお勧めですよ~。
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