1、作品の概要
『ベイビー・ブローカー』は2022年6月に公開された韓国の映画。
監督・脚本は是枝裕和。
主演はソン・ガンホ。
第75回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞(ソン・ガンホ)、エキュメニカル審査員賞を受賞している。
遺棄された乳児を密かに横流しをする男たちと、子供を捨てた母親、彼らを追う警察らの心の交流を描く。
2023年7月よりアマゾンプライムビデオで配信されている。
2、あらすじ
クリーニング店を営むサンヒョン(ソン・ガンホ)は、教会の養護施設に勤めるドンス(カン・ドンウォン)と共に捨てられた乳児を、子供を欲しがる夫婦に横流しする違法なビジネスに手を染めていた。
ある時、若い母親のソヨン(イ・ジウン)が、教会の赤ちゃんポストの前に乳児のウソンを遺棄して去って行った。
ドンスが証拠を隠滅し、サンヒョンに渡すが、翻意したソヨンは教会に訪れ、2人は違法なベイビー・ブローカーのビジネスをソヨンに教えざるを得なくなってしまう。
一方、乳児を売り飛ばすビジネスをする二人を現行犯逮捕しようと警察官のスジン(ぺ・ドゥナ)とイの2人は密かに彼らを尾行していた。
ドンスが育った施設の後輩の男の子・ヘジンも加えて5人でウソンを高額で売るための旅が始まる。
しかし、疑似家族だった5人に旅を経て絆が芽生え始めるのだった・・・。
3、この作品に対する思い入れ、観たキッカケ
『ベイビー・ブローカー』は是枝監督が作った初の韓国映画ということもあり、以前から気になっていました。
主演が『パラサイト 半地下の家族』のソン・ガンホであるということ、捨てられた赤ちゃんを横流ししてビジネスにするという脚本の面白さにも惹かれました。
ただのいい話では終わらずに、「赤ちゃんポスト」の社会問題や、親に棄てられた子どもたちの心の闇も描写されていて素晴らしい映画でした。
4、感想
親に棄てられる。
孤児として育てられることがどういうことなのか。
1人の人間にどれほどの傷を与えるのか。
そんなことを考えさせられるような映画でした。
「赤ちゃんポスト」をはじめ、望まれずに生まれてくる子どもたちの問題。
現代では、そういった思いがけずに母親になってしまった女性たちが孤立しやすい状況にあって、望まれない子どもたちの存在が大きな問題になりやすい状況なのかもしれないと思いました。
良くも悪くも人の命が軽かった時代では、堕胎ももっと気安く行われて、娼婦が望まれない子どもを口減らしに殺すことも珍しくはなかったようですね。
もちろんそれがいいことだとは思いませんが、現在の社会情勢だと安易に身ごもってしまった母親に批判が集まって、親も子供も生きづらくなってしまうような状況があると思います。
母親に棄てられて、ずっと迎えに来てくれることを夢見て待ち続けていたドンス。
重い罪を犯したために、私生児となり犯罪者の息子となってしまうウソンを棄てることで救おうとした。
この二人の立場と考え方の違い、棄てられた側と、棄てた側のある種の和解。
ドンスはソヨンを通して自らの母親を垣間見て、ソヨンはドンスを通して将来のウソンを垣間見たのではないでしょうか?
この2人のやり取りはとても興味深かったです。
余談ですが、孤児で施設育ちの主人公の物語を繰り返し描く中村文則という、僕の好きな作家を思い出しました。
彼自身は孤児ではないらしいですが、棄てられた存在を何度も描きながら、その闇の底から抜け出そうと足掻く孤独な魂を、そこからもたらされるひと握りの希望を描こうとしているように思います。
『ベイビー・ブローカー』でも、孤独な魂を持った誰かに棄てられた人たちが描かれています。
妻と娘に棄てられた(自業自得だけど)サンヒョン、親に棄てられたドンス、ソヨン、ヘジン。
警察のスジンも何か傷を抱えているように思いましたし、彼女の心の動きは個人的にこの映画で一番興味深かったです。
ソヨンが罪を償ったあとのラストシーン。
彼女はウソンのもとへと急ぎ駆けていきますが、そんな彼女を見送って去っていくサンヒョン。
ソヨンのロッカーと、サンヒョンのロッカーにぶら下がったみんなとの写真。
家族ってなんだろう?
血の繋がり?それだけじゃない、きっと。
心や魂の繋がりも大事なんだと思います。
そんな繋がりのかけがえのなさを感じさせるような映画だったかと思います。
5、終わりに
本当に素晴らしい映画でした。
深い闇を抱えた人たち、誰かに棄てられた人たちが繋がることで希望を見出して明日へと歩みだすことができる。
俳優陣の演技もとても良くて、考えさせられる内容でした。
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