1、作品の概要
『通天閣』は、西加奈子の4作目の長編小説。
2006年11月に筑摩書房より単行本が刊行され、2009年12月にちくま文庫より刊行された。
文庫版で263ページ。
第24回織田作之助賞大賞を受賞した。
大阪ミナミを舞台に、工場勤務の孤独な40代男性と、同棲していた恋人がNYに行ってしまった20代の女性の2つの視点から日常を描いた。

2、あらすじ
40代半ばの「俺」は、工場で勤務して通天閣が見えるアパートで一人暮らしをしている。
かつて子連れの女性と結婚していたが別れてしまい、それ以来孤独に淡々と日常を生きてきた。
中華料理屋の店員の女性から想いを寄せられつつも、人と深く関わることを避けるようにひっそりと生きていた。
20代の「雪」は、同棲していたマメが映像の勉強をしにNYへと行ってしまい、彼に恋焦がれながらも一人で暮らしていた。
マメからの国際電話は徐々に数が減っていったが、彼のことを諦められない雪。
花屋の仕事を辞めて、スナック「サーディン」で黒服として働き始めた彼女。
奇妙なオーナーと個性的なホステスたちとの混沌とした日常を送りながらも、マメとの日常を反芻しながら生きる雪。
大阪ミナミの街で孤独な日常を送る2人。
猥雑で混沌としながらも、人情に溢れて温かい街。
全く触れ合わなかった2人の生活がひとつの記憶によって柔らかに混じりあっていく。
3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ
大好きな作家の1人である西加奈子。
彼女の小説は、まあだいたい読んだでしょ?って思ってたけど、この『通天閣』は未読で、タイミングよくブックオフで110円でゲットできたので読みました。
かがわマラソン前にホテルで読了したので、そんな意味でも思い出深い1冊になりました。
なんか旅しながら読んだりとか、誰かから勧められて読んだ本とか、なにかしらの出来事があったときに読んでいた本って、その時の感情や情景が物語に溶け込んでいくようで面白く感じます。
4、感想(ネタバレあり)
いやー、めっちゃ良かったです。
これぞ西加奈子!!って感じでした。
人生のままならなさ。
うまくいかない生活、日常。
底辺を彷徨っているような絶望的な状況。
絶望の果ての希望。
同じ望みなら、すぐに叶えよう~♪って、くるりかいっ!!
場所がミナミで通天閣がタイトルなんも良かったすね。
テヘラン生まれ、大阪育ちな西加奈子らしく、大阪が舞台というのはしっくりきます。
最近、又吉直樹『生きとるわ』を読んだんですが、あの小説もミナミが舞台で。
なんかあの街の猥雑さ。
底辺を這いつくばって生きていながらも、どこか楽観的で、なんか優しかったり温かかったりする感じが似通っているように感じました。
キタじゃ、あの感じは出ないでしょうし、西成とかだとディープすぎるんでしょうね(笑)
「俺」は、工場勤務で毎日変わりない日常を送っていて、通天閣の見える部屋で1人で生活している。
繰り返しの単調な日々での楽しみは、中華料理屋で塩焼きそばを食べたり、喫茶店でコーヒーを飲みながら、左の肘から先がないジイサンがタクシーの交通整理(?)をしているのを眺める。
40歳を過ぎたばかりで老け込む歳でもないと思うのだけれど、残りの人生を「こなす」ことにして、喜びも幸せも追い求めずにただ1人で単調な日々の中に埋没していくことを願っている。
いや、もっとアツく生きろや!!
俺と走るか!?
とか、暑苦しく声かけたなるもどかしさを感じましたが、そんな諦念も彼がこれまでの人生で失ったものや、得られなかったものたちへの失望に起因しているのでしょう。
どことなく映画『PERFECT DAYS』の主人公に似通った部分を感じました。
人から称賛される仕事じゃなくても、プロ意識を持って懸命に働いているところも姿が重なりました。
「俺」が時折反芻する記憶。
短い結婚生活と、連れ子の女の子の姿。
食堂の店員の女性との淡い恋の予感もありますが、過去の失敗が過って踏み出せない。
いや、迷わず行けよ!!行けばわかるさ!!
と、猪木先生になりそうなヒロ氏ですが、全日本非モテ奥手男子連合会副会長の僕としては、まあ痛いほど気持ちがわかりました。
雪は、2年間同棲していた恋人のマメが半年前にNYに留学して、かすかな希望にすがりながらも、陰鬱な日々を送っている。
本来、2人で家賃を出し合って暮らしていた部屋の家賃を1人で払うために、スナック「サーディン」で黒服のバイトを始める。
母親がいる実家に帰って、マメのことは諦めるのが正解なのだと思うのですが、彼が戻ってくることに、その微かな希望に縋ってしまう。
読んでていたたまれないです。
マメからの電話もどんどん減っていく。
2人で住んでいた部屋に住み続けることは愛という呪いに縛られているようです。
いっそのこと、NYに行く時にスッパリ別れてくれれば良かったのにね、って思ってしまう。
こういうハンパな優しさ is クソです。
マメ以外の人間関係は全部切って、女友達もいない雪。
恋愛に全振りしちゃったんすね。。
そんな彼女の人間関係は職場の人たちに集約されるわけで、スナック「サーディン」の人たちがまあ濃すぎるし、お水の仕事するにしても底辺な感じがします。
キラキラした感じのキタのキャバクラとは全然違う。
一言で言えば、魑魅魍魎。
あるいは、百鬼夜行。
まあ、水木しげる系です。
そんな濃い人にわちゃわちゃされながらも、恋人の連絡を待つ日々は唐突に終わりを告げる。
NYのマメに好きな人できたとかさ。
エヌワイだもんね、しゃーないよね。
映像やってるクリエイター同士で盛り上がっちゃって、さぞかしクリエイティブな恋に落ちたんでございましょうね。
予感はしながらも圧倒的な絶望で出社拒否して部屋に引きこもります。
いたたまれないこと、この上なし。
しかし、恋愛に依存したらいけませんな。
そんな時に雪の心を救おうと動いてくれたのがサーディンのママで、一緒に昇った通天閣での出来事が彼女が立ち直るキッカケを与えてくれます。
「俺」がかつて結婚していた女性の連れ子が実は雪だった。
全く関係ないようにミナミの街で進んでいた2つの物語は、通天閣で合流します。
結局2人の人生は再び交わることなくすれ違っていきますが、しょうもない救いのないような人生に一条の光が射して、また立ち上がって生き続ける力を得るようなキッカケを得ます。
いつも西加奈子の作品から感じる力強くて優しいメッセージ。
どうしようもない人生でも、絶望から抜けられてなくて、不器用にこんがらがっていても生きていていいんだよ。
そんな圧倒的に人生を肯定されるようなメッセージを感じる物語。
がつんと体当たりをくらったような、ほとんどフィジカルレベルで感じるような彼女の力強い渾身の言葉。
生きづらさを描いて、前向きなメッセージが送られる物語を僕は愛していますが、西加奈子ほど体当たりで、全身全霊でそんなメッセージを伝えてくる作家を僕は他に知りません。
だからこそ、読後にいつも温かくて勇気づけられるような優しい気持ちになれるのだと思います。
登場人物たちも、どこか脛に傷持つ人たちばかりというか、変人ばかりで。
クズみたいな人ばっかなんだけど、クズっぷりまで肯定してくれるというか、寄り添ってくれるような優しさと強さがいつも彼女の物語の中核にあるように思います。
そんな要素がとてもストレートに、読者の心に突き刺さるのが『通天閣』という小説だったのだと思います。
5、終わりに
ちょっと『漁港の肉子ちゃん』っぽい話でもありましたね。
もっと濃い人たちが出てきますが(笑)
ミナミのディープな夜の世界とか、1回体験してみたい気にもなりましたが、「サーディン」は勘弁ですね。
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