1、作品の概要
『ぬるい眠り』は江國香織の短編小説集。
2007年2月に新潮文庫より、文庫版が刊行された。
『きらきらひかる』の10年後を描いた作品『ケイトウの赤、ヤナギの緑』をはじめ、9編の短編からなる。

2、あらすじ
①ラブ・ミー・テンダー
エルヴィス・プレスリー狂いの70代の母親は、もう何度目にもなる離婚話を娘に話していた。
毎日、母親に電話をかけてきて愛を囁いているというエルヴィスの正体とは・・・?
②ぬるい眠り
大学生の雛子は、半年間同棲した妻子持ちの耕介と別れたあとも、彼のことを忘れられないでいた。
高校生のトオルと付き合い始めて逢瀬を重ねるが、脳裏に浮かぶのは耕助の顔。
追い詰められた雛子は・・・。
③放物線
定期的に集まっている大学時代の3人組。
道子、かんちゃん、光一朗は、卒業して5年経っても、変わらない懐かしいリズム。
④災難の顛末
ある日突然、全身に赤い湿疹が出て半狂乱になった「私」は、皮膚科を受診して、原因がノミであることを突き止める。
猫のウィスキー外から連れてきたノミを退治すべく熱中する彼女。
恋人の敦也との仲も次第に冷え込むようになって・・・。
⑤とろとろ
小学生教師の信二にベタぼれの美代。
彼女は信二と愛し合う幸福にとろけながらも、他の男たちとの逢瀬を重ねていた。
⑥夜と妻と洗剤
妻が別れたいと言って、僕は・・・。
⑦清水夫妻
「私」が偶然、蕎麦屋で出会った清水夫妻。
2人は、新聞の死亡欄を見て、見知らぬ人の葬儀に参列するのが趣味だった。
「私」も清水夫妻に同行して葬式に行くようになり・・・。
⑧ケイトウの赤、やなぎの緑
郎と2度目の結婚をしたちなみは、バイオリニストでゲイの弟が入り浸っているサロンへ彼のバイオリンを聴きに行っていた。
サロンの中心人物の睦月と笑子の夫婦と、睦月の元恋人の紺と付き合っているちなみの弟、郎に執着する亜紀。
想いが絡み合ってほどけていく。
⑨奇妙な場所
母親の邦枝と2人の娘の和子と美々子。
妙齢の女性3人は、年末のスーパーマーケットで思う存分買い物をする。
3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ
Xで懇意にさせて頂いている方が、最近読んだ本で江國香織『ぬるい眠り』をポストしていたので、読みたくなって読みました。
いや、ストーカーか(笑)
ブックストーカーっていうジャンルのストーカー。
ブックオフで、ちょうど100円で売っていたのもタイミング良かったです。
なんかこの本読んだことがあって、ワンチャン本棚にある気がしてたんですけど、全くの気のせいで未読でした。
あれぇ?
読んだことないと思った本が家にあったり、読んだと思った本が未読だったりとしっちゃかめっちゃかですが、備忘録としてもこのブログは存在意義がありそうですね。
4、感想
①ラブ・ミー・テンダー
エルヴィス好きな母親と、その母を気遣う父親。
毎日かかってくるエルヴィスからの電話が、実は父親からのものだったというオチ。
うん、愛だろ愛。
②ぬるい眠り
短編と中編のあいの子ぐらいの長さで84ページある作品。
里帰り出産中で奥さんがいない妻帯者の男性と半年同棲して、妻が帰ってきたら捨てられるっていう。
詩人の耕介とかいう男、マジでろくでもないですね( ;∀;)
雛子は彼氏がいながらも、耕介のことが忘れられなくて・・・。
僕の文章で書くととてもチープなのですが、江國さんが書くととても情緒的に感じられるから文章と表現の力って大きいなって思います。
象徴的に何度も描写される青い夕方。
プルキニエ現象。
過去のかなしい記憶と重なって、雛子をうす青いメランコリックな感情に閉じ込めていく。
1990年に執筆された作品ということで、携帯電話もなく、雛子が耕介の家に何度も深夜の無言電話をかけてしまい狂おしいほどの官能を感じてしまうシーンとか良かったです。
③放物線
なんか、こういう男女の友情みたいなのっていいよねって、若かりし頃を思い出してしまうような作品。
大学時代の友人って特別だし、社会に出て変わっていく部分もあるけど、変わらずにいるところもある。
たまに帰りたい懐かしい空気感。
かんちゃんのキャラがいい感じでした。
④災難の顛末
女性にとってはちょっとしたホラーなんでしょうね( ;∀;)
ある日突然腫れあがってしまった右足と、体中の赤い発疹。
ある種、狂気的な状況に主人公は追い込まれていきますが、彼氏の敦也ともそのことが原因で別れてしまうとは・・・。
猫のウィスキーって、ネーミングセンスがさすが(笑)
⑤とろとろ
とろとろにとろけるみたいに信二に夢中になっている美代。
でも、彼の知らないところで他の男と寝ている。
特に悪女ぶるわけでもなく、罪悪感を感じるでもなく、のびのびと男たちと逢瀬を重ねる美代に江國香織の登場人物らしい奔放さを感じました。
⑥夜と妻と洗剤
だいぶユニークな短編というか、ショートショートですね。
奇妙な夫婦関係。
⑦清水夫妻
働かなくてもいいほどお金持ちで、見ず知らずの人の葬式に参列するのが趣味の清水夫妻。
味わい深い登場人物ですね。
こういう人物を書かせると、江國香織はとても上手ですね。
清水夫妻の振る舞いや考え方、見ず知らずの人の死に厳粛に触れる葬式の経験は、「私」を変化させたように思います。
付き合っていた彼からの求婚を断ったのも、その変化のせいだったのでしょうか?
「でも死の強烈さを知ってしまったら、ちょっとやそっとの恋じゃおもしろくないだろうねえ」
⑧ケイトウの赤、やなぎの緑
名作『きらきらひかる』の10年後を描いた作品。
主人公のちなみの弟が笑子と睦月の家のサロンに出入りしていて、なんと弟と紺が付き合いだしているという展開。
短編ながらに濃い登場人物たちが勢ぞろいで、全然長編でもいけそうな作品でした。
ちなみと、郎。
なんかこういう感じのネーミングセンスも好きですね。
2人の夫婦関係も特殊で面白いし、27歳にして2度目の結婚をしたちなみもなかなかにユニークな人物ですが、40歳まで独身でイベント会社の社長をしながらも学生みたいに友達と夜遊びをしまくる郎もなかなか強烈なキャラですね。
⑨奇妙な場所
ショートショートぐらいの短さで、3人のおばさんがモンスターのように年末のスーパーで買い物をするだけの話ですが、なかなかのインパクトですね。
タイトルの奇妙な場所は、この世の中のことみたいです。
5、終わりに
いやー、面白い短編が多かったですね。
特に、『ぬるい眠り』『清水夫妻』『ケイトウの赤、やなぎの緑』が良かったですね~。
初期もいいけど、最近の円熟した感じも好きです。
いろいろと、バラエティーに富んだ短編集でしたが、興味深く読みました。
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