1、作品の概要
『夏子の冒険』は三島由紀夫の長編小説。
1951年12月5日に朝日新聞社より単行本が刊行された。
1960年に角川文庫より文庫版が刊行された。
三島由紀夫7作目の長編小説。
『週刊朝日』1951年8月5日号から11月25日号に連載された。
挿絵は猪熊弦一郎が担当した。
1953年に映画化された。
破天荒なお嬢様・夏子が北海道を舞台に繰り広げる恋と冒険の物語。

2、あらすじ
20歳の松浦夏子は、類まれなる美貌を持ち、男たちに言い寄られるが心を動かされず、北海道の修道院に入るとある日家族に宣言する。
一度言い出すと聞かない夏子の性格を知る家族は渋々承諾して、母、叔母、祖母に付き添われて北海道へと向かう。
しかし、道中で猟銃を持ち目に野性的な輝きを持つ青年・井田毅と出会い、彼に興味を持った夏子は函館で会う約束をする。
毅は、夏子に一昨年アイヌ部落で出会い結婚を誓い合った少女・秋子が4本指の人喰い熊に殺され、その仇討ちに行くことを話す。
彼の話に情熱を搔き立てられた夏子は、毅の仇討ちに同行することを宣言するが・・・。
3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ
三島由紀夫には珍しい女性を主人公にした冒険譚ということで、以前から読んでみたいと思っていました。
人里に降りて人や家畜を襲う熊を退治するために奮闘するという話は、ある意味タイムリーに感じました。
2025年の今年の漢字は、「熊」でしたしね(;'∀')
三島由紀夫の作品は、これまでずっと新潮文庫で読んでいたんで、角川文庫は新鮮でした。
4、感想(ネタバレあり)
三島由紀夫と言えば、『金閣寺』『仮面の告白』やろっ!!って、イメージだったのでお嬢様の冒険活劇である『夏子の冒険』はとても意外でした。
文体の硬軟を使い分け、耽美的な純文学小説も、大衆小説も書く三島由紀夫の懐の深さを感じさせるような作品でしたね。
ただ、三島のロマンチシズムが散りばめられた作品でもあり、若く美しいカップルが好きな彼の物語の定型を見たようにも感じました。
しかし、『青の時代』『禁色』の感想の時にも触れましたが、この時の三島の多作ぶりは異常です。
1949年7月に『仮面の告白』を書き下ろしで刊行し、1950年に『純白の夜』『愛の渇き』
『青の時代』を執筆し、1951年は、『禁色』を長期連載しながら『夏子の冒険』を3か月の連載で書き切るという多忙ぶり。
26歳で若かったということもありますが、いやはや凄まじいですねぇ。
『夏子の冒険』は、僕が読んだ三島作品の中でも異色とも言えるほどの読みやすい冒険小説でした。
なんとなく吉田修一の『横道世之介』シリーズを想起させられたり、読んだことないけど『成瀬シリーズ』もこんな感じなんかなとか思ってみたり。
とにかく、夏子の破天荒で無邪気なキャラクターが立ちまくっていて、『金閣寺』などで見られた美と自意識の煩悶はどこへやら、痛快な冒険譚が繰り広げられます。
いや、本当に同じ作家が書いたものなんですかね(笑)
しかし、ただただ痛快な冒険譚というだけではなくて、前時代的な神話的なロマンチシズムが散りばめられているのが三島ならではで、味わい深かったです。
だいぶ思い切った娯楽小説になっていましたが、作家性を見失うギリギリのところでこのロマンチシズムが散りばめられているのが、やはり三島由紀夫なのだなと感じました。
北海道の自然の描写なんかもさすがの美文で、ゲラゲラ笑ったあとにうっとりさせれるみたいな感じで、感情がジェットコースター状態でした。
ちなみに三島由紀夫本人は、『夏子の冒険』に関してこのように語っています。
舞台は北海道だが、主人公の若い男女は都会人である。しかし都会の中には若い彼らがあふれるエネルギーをぶつけるに足る対象がみつからない。彼らは別々の夢をもつて東京を出てくる。この若々しい青春のはけ口を託するに足る夢を、今の時代が与へてくれないことが不満なのである。私は現在の日本に多少とも外地にちかい雰囲気を漂はせてゐる北海道の湖や森のなかに、彼らの夢を追つてゆかうと思ふ。彼らのロマンチシズムにかぶれた脱線旅行を、苦笑したり皮肉つたりしないで追つてゆかうと思ふ。野宿の恋人同士が夜半目をさまして仰ぐ星は、どの星座の星がよからうか? 大熊座の星がいいだらうか? かれらの情熱は熊の形をしてゐるからである。
まあ、基本こいつらアホか?って作者自身が思いそうになるところを、しっかり真面目に追っていきましたよ、的な感じで書いたのでしょうかね。
この当時、ほとんど外国のようだった北海道が舞台というところにも浪漫があるのでしょうね。
都会で、情熱を感じられない若い2人が、北海道の地で熊を追うのは、夢や情熱を未開の野生に託しているような感覚もあったのでしょうね。
だからこそ、達成してしまったあとに急速に夏子の毅への愛情が冷めてしまうわけですよ。
『夏子の冒険』はコメディ路線な展開でクスクス笑いながら読み進められました。
夏子の母、叔母、祖母の3人組は個性強めで笑えますね。
特に祖母が熊にとろろをかけて撃退したと思い込んでるエピソードは爆笑ものでした。
シリアスで滑稽とは程遠いと思っていた三島由紀夫にこんな笑いのセンスがあったとは驚きです。
改めて彼の作家性の幅広さ、奥深さを感じさせれられようでした。
登場人物たちの心の移ろい、物語の躍動感などに引き込まれてあっという間に読了しました。
ラストのどんでん返しも夏子らしくて大喝采!!
5、終わりに
『夏子の冒険』は、村上春樹が『羊をめぐる冒険』でパロディもしくは、書き直しをしたと言われる作品ですが全然ちゃうやんって思いながら読みました。
まあ、オマージュではあるのかもしれませんがね。
冒険、北海道、羊のワードは共通しています。
近代文学作品とは思えないぐらいに娯楽的にさらさら読みました。
文体もめちゃくちゃ読みやすく変えてきてて、改めて三島の文学の奥深さを感じましたね。
こんなに作品によって文章・文体を変えられる作家ってあまりいないような気がします。
『愛の渇き』においては、当時読んでいたモーリアックのテレーズ・デスケルウに影響を受けて、主題と文体を変えてきたという。
三島由紀夫の作品はまだまだ全て読めていませんが、やはり読み進めていきたい作家の1人ですね。
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