1、作品の概要
2015年9月10日に講談社より単行本が刊行され、2018年12月14日に文庫版が刊行された。
『群像』2015年1月号~4月号に連載された。
文庫版で336ページ。
外界と断然された環境で育った3人姉弟の物語を描いた。

2、あらすじ
芸術家の老人が集められた施設に住んでいるアンバー氏。
彼と、彼の「一瞬の展覧会」をこよなく愛する「私」は、共に穏やかに日々を送っていた。
魔犬の呪いで幼くして命を落とした末っ子の妹。
ママは、3人の子供たちを魔犬の毒牙から守るべく、図鑑を作る会社の社長をしていたパパの別荘で外界から隔離された生活を始める。
そして、長女にはオパール、長男には琥珀、次男には瑪瑙という新しい名前が与えられて、奇妙で幻想的な日々が始まる。
やがて、琥珀の左目に不思議な変化が起こり、図鑑と末妹の存在が結びつき希少な光景が描き出される。
幸福だった日々。
しかし、ママの禁止事項が少しずつ破られ・・・。
3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ
大好きな作家の1人である小川洋子。
定期的に彼女の物語を摂取したくなるほど、独特の世界観と魅力を湛えた不世出の作家さんだと思います。
そんなわけで、ブックオフで以前から気になっていた『琥珀のまたたき』の文庫本を見つけたのでゲットしました。
4、感想(ネタバレあり)
1人称で「私」が語る現在と、3人称で語られるママと3人姉弟のささやかで限定された奇妙な暮らし。
アンバー氏=琥珀なわけで、子供時代に4人で暮らしていた時から60~70年経った現在ではだいぶお爺さんになっているようです。
この時間軸が違う2つの物語が交互に進行していく点も面白く、幸福そうな子供時代がメインで語られながらも、破局の予兆がそれぞれの時間軸で語られます。
「幸福そうな子供時代」と書きましたが、現実を冷静に見据えると義務教育も受けさせずに家から1歩も出さないようにするのは監禁であり、虐待に当たります。
作品の世界観はどことなく1950~1960年代あたりのヨーロッパっぽいですが、その当時にしてもスキャンダラスな事件だったようです。
3人姉弟の母親であるママは、狂気に憑りつかれていて、子供たちもその狂気の物語に強制的に参加させています。
ただ、本来的にはそんな狂った環境なのですが、子供たちは幸福そうで、ママはちょっと変わった人みたいに読めてしまうのも、小川洋子の筆力なのでしょうか。
異論は認めますが、江國香織『神様のボート』と物語の構図が似ているように思えて、葉子の狂気の物語を共有しながら生きてきた娘の草子が、やがて物語の外へと飛び出していきます。
これは、『琥珀のまたたき』において一番年上だったオパールが、ママの狂気の檻からジョーと一緒に逃げ出していく様と重なるように思います。
オパールはママの物語の中で生きながらも、成長するにつれて違和感を感じ始めたのでしょう。
別荘に引っ越してくる前のデパートの展覧会での出来事も、オパールにとっては忘れがたいママの嘘と罪のエピソードで、末妹が死んだのは魔犬のせいではなくて、ママが末妹を差し出したからだと感じていたようですね。
男の子って10代半ばとかになってもわりとアホで、鈍感だったりしますが、女の子は鋭いですし、特に同性の母親には厳しい視線を向けるみたいですね。
3人姉弟の中で唯一、ママに批判的だったオパールの姿を見てそう思いました。
そして、そんな環境から逃げだすためにジョーに助けを求めたのでしょうね。
一緒にバレエを踊りながら、そのまま夜の闇の中へと姿をくらましていくオパールとジョーの姿はとても小川洋子的でぞくぞくしました。
でも、ジョーって何歳だったんだろ?
30歳は超えてたイメージですが・・・。
10代半ばのオパールと駆け落ちするとか、だいぶ犯罪の匂いがしますがね。
瑪瑙はオパールのようにママと自分が生活している環境にそれほど疑問は抱いていないようでしたが、持ち前の冒険心からか別荘の敷地の外に出てしまい、この奇妙な暮らしが崩壊するキッカケを作ってしまいます。
ママはそのせいで自殺しちゃいますし、自責の念にかられながらその後の人生を歩んだような、暗い想像もしてしまいます。
いや、フツーに外に出ただけなんすけどね(笑)
琥珀は、一番ママと3人(あるいは4人)姉弟の生活を愛して、永遠に同じ環境で暮らし続けることを切望していたように思います。
琥珀色の不思議な左目の奥に現れる末妹の姿を図鑑に写し描いていく。
とうに失われたはずの彼女が、図鑑の片隅で生き生きと蘇り、躍動する。
ただのパラパラ漫画やん、とか言われそうですが琥珀色の瞳を通して作り出される一瞬は、そこに生命が宿ったかのような瑞々しさがあり、それは琥珀にしか為し得ないような奇跡的な御業だったのだと思います。
だからこそ、彼の作品は、一瞬の展覧会は多くの人々を魅了したのではないでしょうか?
10代前半の人生これからという時に、家族とバラバラに別れることになった琥珀。
世界のすべてが家族たちとの時間だった彼にとって、それは大きな喪失だったことでしょう。
それ以降の人生がまるで余生にでもなったかのような空白の大きさを琥珀=アンバー氏に感じます。
きっと孤独で限定的な人生を送ったのだろうと想像すると悲しくなりますが、それでも自分の中にあるイメージと家族の姿を思い浮かべながら、彼なりの人生を生きたようにも思えてなりません。
父親が遺した図鑑の片隅で生き生きと動き出すママと、オパール、琥珀、瑪瑙、末妹たち。
たとえ離れ離れになったって、きっと大丈夫。
彼の不思議な琥珀色の瞳には、変わらない家族の姿が映し出されていたのですから。
5、終わりに
いやー、とても良かった。
独特な物語の世界にするすると迷い込んで、現実から遠く離れて、深く異世界に没頭させてもらいました。
またひとつ好きな小川洋子の作品が増えましたね。
個人的に琥珀って『猫を抱いて象と泳ぐ』のリトル・アリョーヒンと印象が被るように思いました。
とても限定的な状況で、才能を発揮する者たち的な。
左目の異常も本当はただの病気で、ママンが狂っていたから目を医者に診せることがことができなかったんのが真実なんでしょうね・・・。
そう考えると、やるせないのですが。
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