1、作品の概要
『川のある街』は、江國香織の中編小説集。
3編からなる。
2024年2月28日に単行本が朝日新聞出版から刊行された。
『小説トリッパー』2021年秋季号、2022年冬季号、2023年秋季号にて掲載された。
小学生の少女、カラス、30代の女性、認知症の老女と、それぞれ違った視点から3つの川の街での話を描いた。

2、あらすじ
①川のある街
小学3年生の望子は、母親と川のある街で暮らしていた。
両親は離婚していたが、父親とも定期的に会い、祖父母の家、おばちゃんの家にも頻繁に出入りしていた。
親友の美津喜ともよく遊ぶ川辺の土手が望子は大好きだった。
②川のある街Ⅱ
地方都市に流れる川、その上を飛ぶカラス達の物語。
産科の病院に入院している女性達。
結婚を了承してもらうために彼とその街にやってきた麻美。
出産を機に街を出ようと密かに決意している夏子。
彼女たちの人生が川の流れのように交わっていく。
③川のある街Ⅲ
オランダの川のある街に1人で住んでいる認知症の老女・芙美子。
彼女はパートナーの希子と日本から移住して一緒に暮らしていたが、希子は病気であっという間に亡くなってしまっていた。
そんな叔母を心配して日本からやってきた澪だったが・・・。
3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ
以前から、江國香織の新作読みたいな~、ワンチャン図書館に置いてないかな~、とか思っていたらたまたまあったので、即GETしました!!
いや、買えよ!!って感じですが(;'∀')
円熟の極みに達した作家・江國香織の芳醇な文学的果実を存分に味わえるような作品群でした。
いや、素晴らしい。
4、感想(ネタバレあり)
透明な文体と評される美しい文章に、魅力的な登場人物たち。
ありきたりな恋愛ではない、「名前のついていない関係性」とも言うべき不思議な人間関係を描いていた初期の江國香織。
いまや30年以上のキャリアを持つベテラン作家となった彼女ですが、近年では『犬とハモニカ』『去年の雪』『ひとりでカラカサさしてゆく』で見られたような多くの人たちの視点で描かれるような、寄せ集められた小さな物語のパッチワークで大きな物語の流れを描くような独特の手法が今回のⅡの物語でも用いられています。
Ⅰでは少女の視点で、Ⅲでは老女の視点で物語を描いているように、彼女の物語の視座は上空を飛翔するカラスのように人々を俯瞰し、自由に飛び回っています。
そう僕が『川のある街』で最も強く感じたのは、江國香織の円熟による物語の自由さ。
少女、カラス、成人女性、認知症の老女と多視点で、(彼女はそんなつもりはないと思うけど)今まで様々な物語を描く中で培った技術をまるでひけらかすようにするすると物語を紡いでいく。
僕が同年代の作家だったら、彼女の自由さ、物語の芳醇さと、尽きることのない物語の源泉に歯噛みしていたかもしれないと思います。
ちょっと一時期夫婦関係と、不倫の話が続いたような時期があったように思えて、それらの作品群も良かったのですが、ずっとこういう感じだとどうかなとも思っていました。
『抱擁、あるいはライスには塩を』あたりから流れが変わってきたような感じがして、この作品では100年という時間を血脈をテーマにして、様々な時代、様々な視点で描かれました。
ある意味で、転機になった作品かもしれませんね。
①川のある街
では、『抱擁、あるいはライスには塩を』で描かれた血脈も感じさせられました。
結婚して街を出た、望子の母親がまた川のある街に戻ってくる。
「やっぱり、あなたはこの街の人間なのね」みたいなことをおばちゃんに言われていたように思いましたが、今まで彼女の物語になかった(と思う)土地に根差して生きるという要素が色濃く感じられた物語だったと思います。
3編のなかでは一番オーソドックスな物語で、小学生の望子の一人称で語られる日常。
何か特別な事件が起こるわけではないけど、遠い未来で宝物になりそうなキラキラした日々。
僕が住んでいたところにも川があって、遊び場になっていた場所でしたので、ノスタルジーを感じました。
②川のある街Ⅱ
では、ついにカラスの視点で物語が描かれてますね。
江國さん、10年後にはきっと宇宙人とかでも物語が描けるんちゃいますかね(笑)
野生の動物なので、細かい思考の流れはあえて描いてないのですが、感情と、感覚的な快・不快、本能の意識の流れなんかが描かれていて興味深かったです。
富山県の地方都市のどこか。
短い中に多くの視点で、川の流れのように行き交う大きな物語を描く、江國流の必殺技炸裂。
いや、ふざけてすんません(笑)
でも、こんな手法で物語を描いている作家さんはとんとみかけないので、江國流多視点型パッチワーク物語とか唯一無二の必殺技にしてもいいと思いますわ。
③川のある街Ⅲ
は一番好きな物語です。
永井みみ『ミシンと金魚』で認知症の人を一人称で描くことで、認知症を患った人がどういう風に世界を知覚しているかをリアルに描いていましたが、この作品でも同様のリアリティを感じました。
舞台がオランダの街ということも興味深かったですし、希子との同性婚、かつての記憶の奔流の中で生き続ける芙美子の姿にシンパシーを感じました。
江國香織の物語でよく描かれる個性的で、強くて、素敵な女性。
男性から見てセクシャルに素敵なという意味ではなくて、誰からも魅力的で個性的に尖っていてという意味での素敵さ。
姪の澪の反応から、そんな彼女の昔の姿を感じますが、それでもまだまだ往年の意志の強さも持ち得ている。
認知症を患っても一直線に全てが瓦解していくわけではなくて、時折揺り戻しがあったり、しっかりした部分も残りながらも変容していくものだと思います。
外国が舞台で、認知症の老女が主人公というのも面白かったですが、物語のベクトルが圧倒的に過去に向かっていて、すべてが思い出の中へと耽溺していくさまが興味深かったです。
5、終わりに
『川のある街』は時間の流れも意識された物語で、主たる登場人物の時間軸の変化で、未来、現在、過去が描かれている作品でもあります。
『去年の雪』で1000年の悠久の時の流れの変化も、物語に織り込んだ江國香織ならば造作もないことかもしれませんが、だいぶゾクゾクくる描き分けかただと思います。
その傍らに川のある街という共通項がある。
東京・赤羽、富山県、オランダとばらばらの場所であっても。
これまでに習得した小説の技巧を試しながらも、土地という新要素を付け加えたような物語であったように思いました。
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