ヒロの本棚

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【本】モーリアック『テレーズ・デスケルウ』遠藤周作訳~美しく、暗い秘密~

1、作品の概要

 

『テレーズ・デスケルウ』は1952年にノーベル文学賞を受賞した、フランスの小説家であるフランソワ・モーリアックの長編小説。

1927年に刊行された。

遠藤周作訳の講談社文芸文庫版で177ページ。

遠藤周作はじめ、4人の翻訳家によって日本語訳がなされている。

2012年に『アメリ』のオドレイ・トトゥ主演で映画化された。

のちに邦題は『テレーズの罪』に改題された。

遠藤周作が『深い河』で同作品に触れている。

フランスの片田舎に嫁いだテレーズが、自分の夫に劇薬を盛った理由とは。

 

 

 

2、あらすじ

 

自分の夫・ベルナール・デスケルウに劇薬を盛った妻のテレーズ・デスケルウ。

彼女は体面を気にする夫の証言により、不起訴となる。

政治家である父親のラロックと弁護士に付き添われたテレーズは、馬車、汽車の長い旅を経て夫と娘がいるアルジュルーズへの帰路を辿る。

彼女の意識に映る過去の出来事。

若かりし頃のアンヌとの青春の日々、ベルナールとの愛のない結婚、そしてジャンとの出会い・・・。

薄暗い思索の森を抜けて帰還したテレーズを待っていたのは・・・。


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3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ

 

キッカケは、ちょっと前に遠藤周作『深い河』を再読していて、主人公の美津子がモーリアックのテレーズ・デスケルウと自分を重ね合わせて、物語の舞台になった地の果てのようなフランスのアルジュルーズへと旅をした姿が印象的だったので、モーリアック『テレーズ・デスケルウ』を読んでみたいと思い立ちました。

三島由紀夫全共闘の学生を前に演説した時に、「諸君も体制の目の中に不安を見たいに違いない」と冒頭で『テレーズ・デスケルウ』の文章を引用して話したようですね。

三島は、『愛の渇き』でもモーリアックの文体からの影響を受けたことを話していたようですし、影響を受けた作家の1人だったのだと思います。

 

訳者が、遠藤周作だったこともあって、いやどんだけ『テレーズ・デスケルウ』好きやねん!!って思って、より興を惹かれました。

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4、感想(ネタバレあり)

 

まずは、冒頭の文章におけるモーリアック自身のテレーズに向けた言葉。

モデルになった人物がいたのでしょうし、モーリアックがその人物の暗部に強く惹かれて、テレーズを生み出した。

・・・内に暗い秘密をもたぬ人間は語るべき何ものもないからだ。ぼくの知っているのは、ただ泥のようにきたない肉体にかくれまじった心の物語だ。

美しく、暗い秘密を心の奥に持つということ。

熾きのように燻ぶり、集積した思念の闇。

暗部。

こういったテーマは、文学における共通のものなのでしょうか?

だとすると、たとえば太宰治の作品が世界で共感を持って読まれているのもそんな理由なのかなとも思います。

 

そういった弱さや暗部、秘密に寄り添うような物語が『テレーズ・デスケルウ』であると思いますし、モーリアックの作品で多くの作品にテレーズが登場した所以なのだと思います。

それにしても、モーリアックのテレーズに対する熱量はいささか尋常じゃないものを感じますし、ある種の自己投影も感じます。

自信も敬虔なカトリック信者で、心の奥底に押さえつけられた欲望があったのではないでしょうか?

 

テレーズも、模範的な信者であり、学力も優秀。

そして、家庭に入って周囲から押し付けられるように嫁としての役割を負わせられる。

こういった抑圧からの脱却と解放。

そんな心の動きが物語の中で表現されているように感じました。

 

前半部分(というか3分の2ぐらい)は裁判所で不起訴になったテレーズが、アルジュルーズの自宅へと馬車と電車で旅をしながら、幼少期のアンヌとの温かな思い出と、ベルナールとの結婚の経緯、そして彼に劇薬を盛るまでの心の動きをつれづれに思い浮かべるといったものでした。

この部分は、(たぶん)意識の流れ手法で描かれているようで、時系列がばらばらな出来事を、テレーズが移動しながら思い浮かべていくさまがリアリティがあって良かったです。

裁判所で不起訴になるところから始まるこの物語は、どうやらテレーズがなにかやらかしたということしか初めはわからないのですが、そのテレーズの思索と、過去の回想によってそこで何が起こったのかが読者に開示されていきます。

テレーズの1人の女性のリアルな息遣いが聞こえてくるようで、とても興味深い物語の描きかただと感じました。

 

傑出して美しい女性ではないものの、高い知性を持ち、女学生時代は先生からも模範的な生徒として評価されていたテレーズ。

しかし、心の中には誰にも触れさせないような孤高で気高い魂を抱いていたような印象がありました。

親友だったアンヌとの友情も壊れて、夫と姑との間には修復し難い溝ができてしまい、父親からも見放されて、引き離された娘のマリにも母親としての愛情をほとんど感じることができない・・・。

圧倒的な孤絶。

最後にたった一人でパリの街を歩き出したテレーズの姿には、それでも悲壮感はなく、自由を手に入れた開放感を感じました。

テレーズは酒を少し飲み、煙草をたくさんふかした。満ち足りた女のように一人で笑い、念入りに頬紅をつけた、口紅をひき、それから道に出て気の向くまま歩き出した。

 

 

 

5、終わりに

 

まるで「地の果て」のようなアルジュルーズに幽閉されたテレーズ。

その閉塞感があのような悲劇に繋がってしまったのでしょうか?

テレーズという一人の女性の魂の自由を希求する叫びが、聞こえたように思いました。

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