1、作品の概要
『余白の愛』は小川洋子の長編小説。
1991年に福武書店より単行本が刊行された。
2004年に中公文庫より新装文庫版が刊行された。
234ページ。
耳を病んだ「わたし」と速記者Yの、現実と記憶の狭間で語られる物語。

2、あらすじ
「わたし」は夫と離婚後、耳を病んでしまって長く入院生活をしていた。
雑誌のインタビューで知り合った速記者のY。
美しい指を持つ彼の虜になり、次第に親密な関係になっていく。
消えてしまった『十三歳の少年』、ベートーヴェンの補聴器を展示していた博物館、屋敷とジャスミンの間・・・。
現実と記憶が入り混じり、意識は虚構へと揺蕩っていく。
3、この作品に対する思い入れ、読んだキッカケ
そういえば、最近小川洋子の小説読んでないなぁ・・・って、最近カレー食べてなかったなぁ・・・ひさびさに食べるか、ぐらいの感じで『余白の愛』を読みました。
ちょいちょいXでも読了ポストを見かけていて、装丁も好きな感じだったので気になっていた作品でした。
ブックオフで見かけたのですが、新作コーナーにあり400円でしたが、清水の舞台から飛び降りるぐらいの気持ちで「えいやっ!!」って買いました。
「いい歳こいたオッサンが数百円でケチるな!!ってか、ファンとか言ってるなら新刊で買って作家に還元しろや!!」などと言われそうですが、薄給の身にてどうぞご容赦くださいませ。
ってか、100円コーナーで買える本が減りましたねぇ。
これも物価高騰の影響なのか・・・。
それと、主人公の甥っ子の名前が「ヒロ」で、えっ小川洋子さんが僕のブログを見てくれていて「ヒロ」を物語に登場させてくれたんじゃ・・・、って0.034秒ぐらいの刹那に妄想を働かせましたが、1991年の作品なのんなわけねーじゃん(笑)
ちなみにこの本が刊行された時、僕は14歳だったんで、書かれていた時はたぶん13歳でした。
『偶然の祝福』の『エーデルワイス』の本男みたいにあなたの甥っ子です、って小川さんに言いに行ってみようか(笑)
4、感想(ネタバレあり)
記憶と秘密。
現実と夢幻。
そして行間から漏れ出てくる、死の香り。(香りでびしょ濡れになったハンカチを、何枚も喉に押し込められたみたいな)
『余白の愛』は記憶にまつわる古びたオルゴールが奏でる抒情的なメロディーみたいに、幻想的で忘れかけた懐かしい感情と情景に訴えかけてくるような物語でした。
小川洋子の作品は川端康成のように人体のパーツへのフェチシズムが強く感じられるような作品も多いのですが、この作品も「耳」と「指」への強いこだわりが感じさせられるような内容になっています。
「わたし」のYの指への執着は驚くほど強く、造形の美しさよりむしろ機能美としての執着が強く感じさせられるように思います。
速記者として、人々が話す言葉を文字へと紡いでいく。
とても、ニッチで「そんな仕事ある?」みたいな限定された役割に光を当てて語るのが好きな小川洋子ですが、思えば『余白の愛』はそのはしりともいえる作品のように思えます。
限定されたフィールドで、驚くほど真摯に特別な才能を開放する職業者たち。
Yの速記者の仕事もそうでした。
『大丈夫。速記者はいつでも影だから。影は傷つかないんです』
そう影のような仕事。
Y自身もどこか影を思わせるような存在でした。
影?
そんな言葉が出てくると、村上主義者の血が騒いでめためたにメタファーなのですが、どことなく『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』の『世界の終わり』の章を彷彿とさせられるような内容だと感じたのは僕だけでしょうか?
会話の感じとかも、リズムとか村上春樹っぽい感じがします。
『十三歳の少年』とベートーヴェンの補聴器。
博物館は、今はもう失われているのでしょうか?
屋敷のバルコニーでの悲劇。
『十三歳の少年』が寝たきりになって、「わたし」の前から姿を消したことを彼女は意図的に記憶の片隅に封印していたのでしょうか?
それとも、その事実を知らされていなかったのか?
いずれにせよYは彼の兄で、「わたし」の記憶の世界で彼女の難聴を速記していきます。
彼女の耳が求める枚数分だけ。
その作業を終える時が2人の別れの時だったというのが切なかったです。
Yも過去の記憶の世界の住人で、もしかしたら少年と一緒に事故で亡くなっていたのかもしれないとも思いました。
でも、物語の全てが記憶の世界の出来事ではなくて、現実と虚構が川と海が混じる汽水域のように混じり合っているように感じました。
どこからが淡水でどこからが海水なのか不明瞭なように、どこからが現実でどこからが記憶の世界から生じた虚構なのかわからないような不思議な世界観。
考察という鋭利な刃物で物語をバラバラに切り裂いて解剖していくより、その狭間のグラデーションのぼやけた色彩の中でぼんやりと夢見心地に揺蕩っていたい。
そう思わせられる物語でした。
5、終わりに
いやー、またひとつ大好きな小川洋子作品が増えました。
近作の息苦しいまでに完成された物語の世界観から考えると、初期作品の未完成な部分はありますが、幻想的でとてもリリカルな作品だと思います。
いつまでも物語の余韻に浸っていたい、いつまでも覚めて欲しくない在りし日の甘美で素敵な記憶。
甘やかで、少し苦くて、でも絶対に忘れられない宝物のような・・・。
13歳っていう年齢も、なにかとてもいいですね。
ヴァイオリンの少年と、ヒロが同じ年齢というのも意味があるように思いますし、大人になり始めるような年齢だと思います。
次男氏も現在13歳だったりしますし、13歳という年齢についても考えさせられる作品でした。
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